十種競技を始めて2年半で日本一。百獣の王・武井壮が語るスポーツの魅力

コラム

幼少期から"体を動かす"のがシンプルに好きだった

ーー武井さんの経歴を見ると、ほとんどがスポーツに紐付いています。スポーツに興味を持ったきっかけを教えてください。

幼稚園くらいの時、具志堅さんのボクシングをテレビで見てすごいな、かっこいいなと思ったのが始まりです。

当時テレビでもすごい視聴率を出していて、「すごいな、スポーツ選手ってこんなスーパースターになれるんだ」と。

そこからだんだんと色々なスポーツに興味を持つようになりました。

例えば小学校の頃には西武ライオンズが好きになって、西武球場に通ったり。あとはリー・リンチェイが主演だった映画を見て感化されて空手を習ったり。その頃からですね、体を動かすことや、スポーツが楽しいと感じはじめたのは。

母親がピア二ストだったので、小さい頃は母親がピアノを弾く姿をよく家で見ていたんですが、そっちの道にはいきませんでした。子供の頃って、遊んだりする中で自分の好きなものがだんだんわかってくるじゃないですか。その中でもシンプルに”体を動かす”ことが好きだったし、楽しかったんだと思います。

陸上を始めたのは日本一になるため

ーー武井さんは大学時代、短距離走から十種競技に転向し、日本陸上競技選手権大会で優勝されています。転向のきっかけは何だったのでしょうか?

僕が陸上競技を始めた理由は、"日本一になること"でした。だから、一番その可能性が高い競技に挑戦したいと思ったのがきっかけですね。

まだ陸上競技を始めて半年くらいのころ、20歳になる年に国体の予選があって、そこで200m走の兵庫県代表に選んでいただいたんです。そのとき出場した国体が僕の初めての全国大会なのですが、その国体の大会期間中の同部屋が、成年Aの代表で100mを走ることになっていた朝原宣治くんでした。走幅跳の選手だった彼が100mの全国大会に本格参戦を決めたその大会でいきなり10秒19という日本記録を出したんです。

一方、僕は陸上を始めてまだ1年目、当時から陸上競技に対する物理的な検証や研究はたくさんしていましたが、周りの選手や先生に誰を参考にしたらいいか聞くと必ず朝原くんの名前が挙がるほど、彼の走りはズバ抜けていました。

陸上を始めて最初に出会った一番身近なトップ選手が、いきなり日本記録を出して世間を熱狂させるのをそのすぐ横で見ていたんです。

彼は1つ年上なんですが、僕より正しい練習方法で、僕より正しいフォームで走る選手を、あと2年で倒さなければ在学中には日本一にはなれない、そう考えたときに、陸上競技の中で最短で自分が日本一を取れる可能性のある種目を模索しました。自分の体を思い通りに動かして、すぐに上達を見込めるというのが僕のトレーニング理論だったので、種目数と技術の多さで十種競技への転向を決めました。

スポーツは単にたくさん練習した人が上手くなるわけじゃない

ーー武井さんが編み出した独自のトレーニング理論について教えてください。

小学校5年生の頃から考えはじめました。

当時野球とかバスケットボールをやっていると、空振りしたりシュートを外したり、実戦でよく失敗をしました。その理由が分からなくて、体育の先生に聞いたり本を読んだりして考えたところからがはじまりです。

「グラスの水を飲む」のはいつでも成功できるのに「野球でホームランを打つ」ことは何故失敗するのかが不思議でしかたなかったんです。先生はたくさん練習した人が上手くなるんだと答えてくれたんですが、それだと先にスタートさせた人には追い付けないということになってしまう。そんなはずはないのでは、とひたすら考え抜きましたが答えは見つかりませんでした。

そんなとき父がたまたま、僕が野球やってる姿をビデオに収めたんですが、そこに映っていたのは、僕の頭で考えていたフォームとは全く違う動きをする僕の姿だったんです。「これが答えだ!」と気付きました。僕は頭の中で思う通り動いている”つもり”なだけで、実は動けていなかった。まずは自分の身体を思った形に動かせるようにトレーニングして、そこに物理や運動力学などを学んで今の理論にたどり着いています。

陸上にのめり込むきっかけを作ってくれたのが国体

ーー国体のユニフォームに袖を通して実感として湧いた思いはありますか?

僕にとって国体は初めて出場できた全国大会だったんです。

当時僕は神戸に住んでいて、陸上を始めてすぐのデビュー戦で100m10秒9を記録しました。兵庫には陸上の強豪校が多いんですが、そんな中でも僕を期待の選手として新聞に載せてくれたり、兵庫県の皆さんがとても期待を寄せてくれました。

そんな中選ばれた国体では、自身初の『代表』の肩書きを頂き、それに見合うよう自分のできる精一杯のことをやってチームに貢献したいと思っていました。県を背負うというプレッシャーよりも、そうした責任感を大きく感じたのを覚えています。

初対面の様々な種目の代表選手と同じチームのユニフォームを着て、同じ目標に向かってチームで遠征し、試合をしたという経験は、僕が陸上にのめり込む大きなきっかけになりました。陸上の楽しさ、全国大会の迫力を実感して、自分の可能性にも強い期待感を手にすることができました。

自身の結果は予選落ちでしたが、やはり朝原くんが目の前で日本記録を出したことはその後、大きなモチベーションになりました。多くの取材陣に囲まれる彼の姿を見て、あの人に負けないくらい有名になりたいと強く思ったのを覚えています。

初出場の国体は『日本一のタイトルを取る』という目標を明確に持たせてくれて、のちに十種競技に出会う第一歩とも言えるきっかけをくれたと感じています。

国体は様々なものを手にすることができる素晴らしい大会

ーー武井さんの考える国体の魅力を教えてください。

国体は日本国内のオリンピックのような存在だと思っています。

オリンピックって、色んな競技の選手たちが集まって、国を背負って戦いますよね。そこには様々な選手同士の出会いもあれば、感動も生まれる。それを小さく1つの国の中に凝縮させて都道府県を背負って戦う、最初の『代表体験』、それが国体であり、国体の魅力だと思います。

ある競技のトップ選手のみが集まり個人で戦う日本選手権などとは、また違った魅力があるんです。

それと、国体は毎年違う都道府県で開催されます。選手たちは開催地のホテルや、レストランなどで、違う競技の選手や、地元の住人の皆さんと交流する機会が生まれ、その土地を知ることで愛着が生まれます。他競技の試合会場を覗けば、様々な選手たちの鍛え上げられた体やフォームを見ることもできて、勉強にもなる。思い出、知識、経験、出会い、様々なものを手にすることができる素晴らしい大会だと感じます。

スポーツは多くの人に見てもらうことで価値が生まれる

ーー今年からJSPOで国体の決勝競技種目のネット配信がスタートします。国体含め、スポーツのネット配信についてどうお考えですか?

現地に行かなくても観戦することができるということは、見てくれる人の母数が絶対的に増えるということです。国体は会場が各競技で分かれているので、一つの会場に行くと、そこでおこなわれる競技しか見ることができない。

それがネット配信だとスマホで会場を横断して複数競技を同時視聴できる。さらに選手側からすると、国体自体の発信力が高まれば、自分の競技をアピールできる機会が増えます。

スポーツは多くの人に見てもらうことでその価値が生まれると思うので、ネットで視聴の機会が増えるというのは、大きなプラスになると感じています。

自分の県の国体代表選手を自分たちの手でスターにしていく

ーー今後の国体について、武井さんが期待していることを教えてください。

国体は素晴らしいシステムだと思うので、基本的には今まで通りのスタイルを保ってもっと盛り上がって欲しいです。

そのためにも、各県のアスリートたちが戦う姿を、より多くの人々に届ける取り組みをプラスしていただけたら、と思います。

せっかく各県を代表する選手が集まって競技をおこなうのだから、各県の代表選手の活躍を、開催中その会場だけでなく、所属県の街中や官公庁などのスクリーンでオリンピック並に大々的に放映するのはどうでしょう?

そうすれば、地元に貢献してくれたアスリートたちの活躍を目にする人の数も増えて、街全体を巻き込んで、地元のスターである選手達のファンが増えたり、地元企業のスポンサーが見つかったり、より幅広い選手へのサポート体制が生まれるかもしれない。

オリンピックではそうしたアクションが起きますが、それだけではスポーツの裾野は縮小しかねない。国のトップ選手しか活躍できないとなると、そこにたどりつかない選手は活動の場を失ってしまいます。

各県が自分の県の代表選手を自分たちの手でスターにしていく事ができるのが国体だと思います。国体の代表に選ばれれば日本一になれなくても、地元では日本一の選手より有名だ、という選手の支え方が生まれるのが理想です。そうなれば「オリンピックもいいけど、僕は国体に出たい」という選手も増えるはずです。

今後、都道府県単位で国体選手をオリンピック選手のように大切にしていく文化が育っていったらいいなと思います。

すべてのスポーツは楽しい"遊び場"

ーーこれまでたくさんのスポーツに携わった経歴を持つ武井さんにとって、スポーツとは?

僕にとってスポーツは楽しい遊びですね。自分の体を使って、様々な競技のルールの中で必要な能力を鍛えてライバルたちと戦う。こんな楽しい遊びはありません。

さらにその戦いの中で一生を共にできる素敵な仲間にも出会うことができる。  チャンピオンになれば”日本最速”のような世の中で生きていくための肩書きまで手に入ってしまう。僕にとってスポーツは地球の上で一生楽しむための最高の遊び場なんです。