【後編】最新の情報を取り入れ、スポーツ現場における熱中症を予防! 全国のスポーツ指導者を対象に「熱中症予防フォーラム」を開催しました。

年々、厳しさを増す暑さ。2025年は6月に30℃以上の真夏日が10日以上となり、また、7月・8月は連日35℃を超える猛暑日や40℃を超える日も記録されました。そのような中、熱中症による事故は各地で多数報告され、スポーツの現場でも熱中症による事故が起きています。 ただし、スポーツによる熱中症死亡事故は「無知」と「無理」によって生じるものであり、適切な予防措置さえ講ずれば防げるもの。 JSPO(公益財団法人日本スポーツ協会)では、2025年6月28日(土)に、大塚製薬株式会社にご協賛いただき、下記の目的で、「令和7年度熱中症予防フォーラム」を開催しました。 本記事では、前編に続いて後編の様子をお届けします。 最新の情報を取り入れ、熱中症を予防し、安全・安心にスポーツを楽しみましょう! <開催目的> 〇 近年増加する熱中症リスクへの理解を深め、スポーツ現場での安全対策を促進すること 〇 熱中症に関する最新の知見、「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」の改訂内容および熱中症予防の取組事例などを共有すること

目次

【前編】
JSPOにおける熱中症予防に関するこれまでの取組
講演者:川原 貴 氏(大学スポーツ協会)
「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」改訂の考え方
講演者:松本 孝朗 氏(中京大学)
熱中症予防としての身体冷却
講演者:長谷川 博 氏(広島大学)
【後編】
熱中症予防実践レポート
スポーツ現場における熱中症予防に関する実態調査

発表者:青野 博 氏(日本スポーツ協会)
暑熱順化、水分補給に関するガイドライン
発表者:安松 幹展 氏(立教大学)
長距離ランナーにおける熱中症・脱水予防に関する準備
発表者:今井 正人 氏(順天堂大学)

スポーツ現場における熱中症予防に関する実態調査

このパートでは、JSPOスポーツ科学研究室の青野博室長から「スポーツ現場における熱中症予防に関する実態調査」について説明がありました。

【青野室長】
スポーツ指導者の知識や行動の実態を把握することで、JSPOが今後どのような啓発活動をおこなっていくべきかヒントを得るために調査をおこないました。
対象としてJSPO公認スポーツ指導者約1万名の方々にご協力いただきました。
調査内容は次の5点になります。
❶スポーツ活動中の熱中症予防対策
❷身体冷却
❸暑熱順化
❹選手の健康チェック
❺熱中症予防運動指針(WBGT)の活用
一部の調査につきましては、実は平成9(1997)年度のインターハイに出場した指導者で、当時362名を対象にした調査結果もありましたので、これとも比較をしていきたいと思います。
まず、“スポーツ活動中の熱中症予防対策としてどのようなことを実践しているか?”の回答では、「水分補給」はさすがにほとんどの指導者が実践されていましたが、一方、青字で示したところ「活動時間の変更」「身体冷却」「暑熱順化」は数値が少なく、これらについては今後啓発するべき課題であると考えられます。
さらに“水分補給に関する指導内容”について確認したところ、1997年の調査では「選手の判断に任せる」が圧倒的に多かった(72.9%)のですが、今回の調査では「一定時間ごとに飲む」(80.3%)が大幅に増えたことで、ある程度の啓発効果が得られたと思います。
「練習前後の体重変化を目安にする」と回答した指導者の方はまだ少数で、この点については今後啓発していくべき課題であると思われます。

次に、熱中症予防対策として“身体冷却”について調査をしたところ、外部冷却については「頭部・頸部冷却」が最多(75.3%)でしたが、「手掌冷却(AVA血管冷却)」が32.1%、「アイスバス」は11.6%と少数でした。
アイスバスを用意するのは難しいと思いますが、競技特性や環境を考慮した上で、複数の身体冷却法を組み合わせることが重要だと思います。
内部冷却については「水分補給」が94.6%。こちらほとんどの指導者が実践されていましたが、一方で「アイススラリー」は13.8%と少数だったので、可能な範囲で今後取り入れていくとよいと思います。

“暑熱順化”を「実施している」と回答した指導者の割合は1997年と比べて大幅に増加していますが、未だ半数以上の指導者が実施していない現状にあります。“実施期間”は、一般的には最低5日間を必要としますが、「1日~2日」と回答された方が最多で33.6%。この割合をもう少し増やしていきたいと思っています。
暑熱順化のための“練習方法”としては、1997年の調査では多くの指導者が「練習時間を変えずに運動強度のみを落とす」「運動強度は変えずに練習時間のみを下げる」という方が多かったのですが、今回は「運動強度を落とす、練習時間のみを下げる」が増え、啓発の効果があったと思います。

選手の健康チェックの実施頻度については、本来であれば毎日おこなっていただきたいところです。しかし、1997年と比較して今回9.4%増えていますが、未だ多くの指導者が毎日は実践しておらず、この点も今後啓発していくべき課題だと思います。
“健康チェックの方法”について確認したところ、「選手本人に聞く」が77.1%、「選手の動きや顔色を見て指導者が判断する」が70.6%という結果になりましたが、先ほどの長谷川先生のご説明にあったように「選手本人にチェックリストへ記入させる」や、「体重測定」など毎朝測定することは、今後啓発していく課題と思われます。

最後に”WBGT計の活用”について確認したところ「少し知っている」が24.9%、「知らない」が9.1%だったので、この点についても今後啓発していくべき課題と考えます。
“日頃からWBGT計を活用している?”という質問について、「活用していない」が34.5%という結果でした。スポーツ現場でWBGTを測定する環境が整っていないこともあると思いますが、この点についてさらに啓発していければと考えています。
“WBGTに基づく対応”では、多くの指導者が「WBGT31℃以上ではスポーツ活動を中止している」が24.8%、「WBGTに基づいて活動内容を調整している」が61.7%という結果でした。
一方で少なくない指導者が、測定はするものの「活動内容の変更などはおこなわない」と回答されており、先ほど松本先生からもご説明があったように、勇気をもって予定を変更するということも今後啓発していければと考えています。
今回の調査についてまとめます。
●JSPO公認スポーツ指導者(対象10,194名)にご協力いただき、知識や行動を調査した。
●熱中症予防対策として、水分補給は皆さん実践されているが、「活動時間の変更」「身体冷却」「暑熱順化」については、今後も啓発すべき課題と考えられる。
●水分補給の方法について、一定の啓発効果が見られたが、「体重変化により脱水量を評価する」ことについてはさらに啓発する必要あり。
●身体冷却の方法について、アイススラリーや手のひら冷却を奨励したい。
●暑熱順化について、実施方法を含め啓発する必要あり。
●体調が悪いと体温調節機能が低下し熱中症につながる。毎日体調をチェックする必要がある。
●WBGT計活用の奨励。暑熱環境下で無理にトレーニングしても効果的ではない。環境条件に応じて活動内容を調整いただきたい。

暑熱順化、水分補給に関するガイドライン

このパートでは、立教大学スポーツウエルネス学部教授、スポーツ活動中の熱中症事故予防研究班員の安松幹展先生に、暑熱順化、水分補給に関するガイドラインについて解説いただきました。

【安松先生】
写真にあるWBGT計は普段私が使用しているものです。実験で最も過酷な状況だった時の写真を撮りました。気温44℃、湿度26%、その中でWBGTが32℃になっています。

私が関わっている日本サッカー協会では、こうしたWBGTに従って「試合をしていいかどうか?」「試合中に飲水タイムを設けるべきか?」「クーリングブレイクを入れるか?」といった基準を定めながら、熱中症対策に取り組んできました。
例えば、飲水タイムを導入する際には、私や長谷川先生、大学院生で現場に行き、実際に「選手たちがどのぐらい飲水しているのか?」や、「耳の温度がどれぐらい上がってるいのか?」とか、そういったことに関わってきた経歴があります。
今回、私からは、熱中症予防5ヶ条の2番目「急な暑さに要注意」と言われる暑熱順化と、3番目の「失われる水と塩分を取り戻そう」という水分補給について、サッカーの例や、私の大学(立教大学)でおこなっていることをお話させていただこうと思います。

暑さに慣れていない時期は要注意

「暑熱順化」の開始時期は、特にいつからと決まっているわけではなく、本格的に暑くなる前。ただし、データとしてもう6月から熱中症の事故の発生が増えてきているので、5月ぐらいからとしています。

なぜ暑熱順化が必要なのか?これは1963年の実験データですが、毎日47℃の部屋に100分間入って、軽い運動をおこなった際の変化を見ていきます。
初日は39℃超える深部体温になるものの、毎日部屋に入って同じ運動をし続けると、だんだん直腸温も下がってきます。

同じように心拍数も初日は170拍ぐらいまで上がっていたのがだんだん下がっていって、4日目、5日目ぐらいからはだいたい安定して130拍ぐらいに落ち着きます。こういった実験データから、人間は暑さに慣れるのには時間を要する、1日で慣れないことが分かっています。
暑熱順化をすると体温のベースが少し下がる、また運動した後の体温も下がっていき、発汗量は徐々に増えていっている、これは湿度が17%の中での実験なので、汗が早くからかけていればその汗の気化熱によって熱が逃げていくので、そういった意味で早くから汗をかき始められるようになると相対的に総量も多くなって熱を逃がす量も多くなるということになります。

暑熱順化に必要な日数は?

こういった変化がどのぐらいで起こるのか?暑熱順化に必要な日数は非常に書き方が難しく、アスリートが例えば、暑い地域で試合をする時に「何日前に入ったらいいのか?」「急に暑くなったらどういう風に部活動したらいいのか?」「強度をコントロールしたらいいのか?」などが混在しているので、説明していきたいと思います。

IOCの暑熱順化のコンセンサスにも使われたデータを見ると、心拍数や発汗量が、大体5日目ぐらいから増えて落ち着いてくるということで、体が反応をするという意味では少なくとも5日かかると考えられます。
アスリートが例えば、涼しい時期に中東やアジアで試合がある、またはオリンピックやワールドカップが暑い地域で開催されるとなったとき、パフォーマンスという緑のラインで見ると、2週間ぐらいかけないと完全に暑さに順化し、元のパフォーマンスは出せないのでは?ということがわかります。
「暑熱順化に必要な期間および持続性」を見ると、アスリートで5日間、一般的には10日間前後を要するとなっています。アスリートのほうが発汗機能などを早く適応させられるので、短い期間でも暑さに慣れやすくなっています。
これは、アスリートが毎日運動するのに対して、一般の方は運動する機会が少ないため、その分、暑熱順化にかかる日数が多くなると言えます。

暑熱順化方法の種類

次にどんな方法で暑熱順化するかについて、一番よいのは暑い中で運動することです。体の中からも熱が出ますし、暑い環境下で運動すると外からの熱も受けるので、その分、体に対する熱負荷が多くなって慣れるという効果も早く大きくなります。
実際に暑い中で運動できない場合は、温かいお風呂に入る、あるいはサウナに入って外側から体温を上げていくという方法もあり、屋外でできる暑熱順化もあれば、室内で人工的に体温を上げていく方法もあります。

また、最近では運動後、水を浴びずに、熱いお風呂に入り体温を下げずにそのまま維持させることで効果を維持するといった方法もおこなわれています。

暑熱順化の実践例

IOCのコンセサスをつくったグループが、東京2020オリンピックの際に考えた戦略を紹介します。
完全に暑熱順化するにはアスリートでも2週間ぐらいかかるため、2週間暑いところでトレーニングを実施。ところが暑い中だとトレーニング強度が上がらず、ずっと強度が低いまま試合に臨み、結局パフォーマンスが上がりませんでした。

どこかで強度を高く上げる時期が必要ということで、次は4週間前から暑さへ順化して、一旦2週間が終わった後に涼しいところへ戻り、5日に1度、暑い中でトレッドミルをこいだり、運動した後に湯船につかって体温を高く上げたり、刺激してあげることである程度持続効果が見られることがわかりました。
そして、再度東京に来た時には2週間の暑さへの順化が完全には消えず、ある程度キープされているので、その後の暑熱順化がスムーズになったと報告されています。

暑熱順化をすることでパフォーマンスが維持できることを実感できる例

もう1つ、コペンハーゲン大学と一緒におこなった実験の中で、アンソニーというデンマーク2部リーグの選手の話をします。
彼がフランスのニースのチームにトライアルに行きたいが、フランスの夏は暑いのでその暑さに順化させて自分のパフォーマンスを落とさないようにできないかと相談されたので、レインジャケットと内側にはスキーのインナーを着て、短パンの下にはタイツを履いて、暑い環境をつくり出しました。

服の中を暑くしてトレーニングしたところ、5分ごとにおこなうスプリントのタイムは、涼しい格好をしている時はあまり変化がないものの、暑い格好だと大体もう前半の後半ぐらいからすでに速く走れなくなってきました。
そこで、この格好で1週間トレーニングをすることにして、最初は強度を低く、それを30分ぐらいから始めて、2週間後に同じテストをしたところ試合中のスプリントの低下が起きなくなりました。このことは、暑熱順化をすることでパフォーマンスが維持できるということを実感させるような例になりました。

水分補給量の目安

続いて、水分補給についてです。水分補給量の目安は、運動前に体重を測り、減少率が体重の2%を超えないようにします。次に「体重減少率の実際」として、これまでに測定をした結果をまとめてみました。
柔道部の秋の練習、大学駅伝部の15km走(秋、夏、春)、サッカーの審判や高校生、中学生、小学生の大会のときなど、それぞれ運動の前後で体重を測って、何%体重が減り、何%水分を補給したかを測定しました。

点線が2%なので、ここを目安に維持したいのですが、駅伝のトレーニングの春、夏などはゆうに超えてしまいますし、サッカーの審判はなかなか試合中飲めないため2%を超えてしまいます。
中学生以上のサッカーの公式戦では、この当時は飲水タイムがまだなかった時期だったため2%を超える結果となり、しっかり飲水タイムをとるべきとしたきっかけにもなりました。

水分補給の頻度と一回で飲む量

水分補給の頻度については、胃ではほとんど水分は吸収されないため、胃から腸に早く移動させてあげないと、実際の水分補給の意味にはなりません。そのため15~20分の間で、最大250mlぐらいまでだったらどんなに遅い人でも吸収され、胃がたぷたぷして気持ち悪くなるようなことはないのではないかと言えます。

飲みやすい温度については、冷たいほうが胃から早く腸に移動するのはわかっていますが、近年では温度はそれほど吸収には関係ないのでは?ということで「この温度で飲みましょう」という風には国内外でもガイドラインには記載されていません。
15~21℃という温度は数少ない論文の中で出てくる数字ですが、今回改訂した「スポーツ活動中の熱中症ガイドブック」では「飲みやすい温度」というだけで数値は提示していません。
冷たいほうがいっぱい飲める人は冷たいほうがよいと思いますし、温かいほうが飲める人は温かいほうがよくて、量を飲めることのほうが大事になります。

しっかり水分補給することでパフォーマンスが落ちない

水分補給を促しても中には「大丈夫」となかなか水分をとらない選手もいます。そんな選手には、水分補給するとパフォーマンスが落ちないことを教えてあげてください。
サッカーの動きをシミュレーションした実験によると、運動前、運動中(前半の合間、ハーフタイム、後半の合間)にしっかり水分を補給して体重減少率を2%以内に抑えられた結果、しっかり飲んでいる選手は5分ごとに計る30mのスプリントのタイムが落ちず、ハーフタイムにしか飲まないと前半の最後のほうや、後半の最後のほうに差が出てきて、平均して0.1秒ぐらい差がつく結果になりました。
30mで0.1秒なので1m弱ぐらい相手が先に行っている状況です。それを追いかけるのを選ぶのか、それともしっかり飲んでそこについていけるようにするか、選手のモチベーションを刺激する言い方で水分補給を促すのもひとつの手と言えます。

長距離ランナーにおける熱中症・脱水予防に関する準備

最後の発表者は、順天堂大学陸上競技部長距離ブロックコーチの今井正人先生。箱根駅伝では元祖山の神として活躍された今井先生の現役時代の実践経験や今、学生さんに指導されている内容などを発表いただきました。

【今井先生】
2024年2月まで現役としてやってきて、その後、順天堂大学で長距離ブロックのコーチをさせていただく中で、現場で感じていることや実践していることをお伝えさせていただきます。
私は小学校、中学校の頃は野球をしていて、高校から陸上を始めて、大学、実業団で24年間陸上競技をおこなってきました。これまでの経験を活かして、熱中症・脱水予防の対策などをお話しします。

熱中症を引き起こす要因

❶環境要因
高温・高湿度・日差し・風が弱い
❷身体要因
激しい運動・脱水・暑さに慣れていない、高齢者や乳幼児・持病・薬の副作用
❸行動要因
長時間の野外活動・不適切な服装
特に長距離選手は、野外で長く連続的に活動していて、その活動に対して特に要因を強く受ける競技であるので、しっかり対応していきたいと思っています。

熱中症予防のための準備&取り組み

次に「準備」と「取り組み」ということで、ウェア、冷却グッズなどについて紹介します。
〇ウェアやキャップについて

ウェアなどのカラーや素材などに気を使うように学生たちに伝えています。特にブラック系や濃い色のものは光を吸収しやすいため、ホワイト系や淡い色のものを勧めています。
実際に汗のかき方や、練習後の疲労感が違いますし、学生たちもそのことを実感しているようです。他にもキャップをかぶったり、サングラスを使用して紫外線から目を守ったりすることで、疲労軽減につながるのでこれらも推奨しています。
陸上以外の競技を見てみると、かつて野球のスパイクは黒が主流でしたが、最近の高校野球を見るとスパイクが白に。練習用のズボンも短パンと長めのソックスで、熱を逃すようなスタイルに変わってきています。
ウェアなどの素材についても、ナイロン系や綿系よりもメッシュ素材などが使用されているものを。汗で肌に張り付きやすいものよりも、風通しがよく速乾性の高いものを選ぶようにと言っています。
また、現役時代MGC出場の時にかぶったキャップについては、頭の熱の放散が遅れてしまうとレース中の判断や体の動きにも影響が出てしまいますが、メッシュ素材で通気性がよく、首周りには日よけ機能がついていました。
首はたくさん神経が通っている部分でもあるので、そこを守る工夫もされていたり、さらに、頭の上に丸いスポンジがついていて、頭とキャップの間に空間ができる仕組みになっていたりして、快適に走るためのさまざまな工夫がされています。
〇冷却グッズについて

冷却グッズとしてクーラーボックスを用意しています。ドリンクを冷やしておくほか、氷を入れておくことで、暑い環境下でも効率的なトレーニングをおこなうことができます。
●手に氷を持って
●リカバリーでのアイシング
●スタート前に手を冷やす(手のひら冷却)

水分補給について

水分補給については、経口補水液とスポーツドリンクの両方を準備しています。
経口補水液はスポーツドリンクに比べて電解質濃度が高く、糖濃度を低く設定しているので、より速やかに水分と電解質を吸収できます。
普段の水分補給としては電解質濃度が高くなってしまうので、普段の水分補給にはできるだけスポーツドリンクを、脱水症状のように汗を多くかいているような選手に関しては、経口補水液を手渡して飲ませるような対策を取っています。

アイシング効果

アイシング効果として、順天堂大学ではアイスバスを活用しています。これは温冷交代浴で、隣には温かいバスもあります。暑い時期は練習後アイスバスに入ってから寮に戻ります。そうすることで、より早く疲労回復に努め、翌日の朝から効率的に動けるようしています。
ただし、一般的にアイスバスを使える機会はなかなかないと思います。私が現役時代には練習後に、よく水シャワーを浴びていました。これだけでも体の感覚や、翌日の疲労感が違ってきます。

普段の生活で意識できること

〇睡眠について
万全の状態でトレーニングに臨むためにも、睡眠をしっかりとることも欠かせません。私は快適な睡眠環境のために、暑い時にはクーラーを活用したり、枕元に水分を置いたりしています。寝苦しくて夜中に目が覚めたときに、少し水分を含むと短時間で眠りにつけるので、お勧めです。
〇食事について
長距離選手は長い時間連続的に体を動かすので、発汗量も非常に多くなります。そこで汗をかく夏の時期には、塩分を多めに摂るようにしています。
温かい味噌汁が飲みにくいときは冷まして冷や汁にしたり、梅干を食べたり、また、カリウムが汗と一緒に出てしまうため、バナナやほうれん草でカリウムを補給するようにします。
〇疲労回復に努める
疲労も熱中症の大きな要因になります。疲労感や体調不良時は体の機能が低下していることが多く、さまざまな免疫機能が低下傾向になるので、体の熱処理や水分機能が働かないことが多くなります。
体の免疫が下がらないように、食事や睡眠、疲労回復に努めることが非常に重要です。絶対に無理しないこと、無理をさせないことを徹底してください。

指導者として

指導者として熱中症予防に取り組んでいることを紹介します。

練習時間の設定

早朝の練習時間を早める・夕方の練習時間を遅くする
例)6:00集合→5:45集合
  16:00集合→17:00集合
練習時間を分割する
例)30分ごとに休憩を入れる
10000m走=5000m×2

選手の変化に気づく

選手の普段の行動や姿を把握(観察)しておく
・顔がいつも以上に赤くなっていないか?
・発汗量が普段よりも多くないか?
・汗が蒸発して粉になっていないか?(顔・ウェア)
・声をかけたときの反応は?
選手の普段の行動や姿を把握(観察)しておく
・変化を伝えられる選手の育成
→伝えられる風土の醸成
そのためにも普段から選手たちとコミュニケーションを大切にしておくことが重要だと考えています。

まとめ

スポーツ現場における熱中症死亡事故は「無知」と「無理」によって健康な人に生じるものであり、適切な予防措置さえ講ずれば防げるもの。
本フォーラムは熱中症予防に関する情報、現場での取り組みや対策について知る、まさに学びの場となりました。
自分の体調の変化・選手の体調の変化に気を配り、WBGTを参考に当日の練習環境によっては、勇気をもって予定を変更する。熱中症予防5ヶ条を頭に入れ、常に気を配る。
熱中症予防の正しい知識を身に付けて、暑さが残るこの時期も、引き続き選手たちの安全とパフォーマンスの向上を目指しましょう!

熱中症予防5ヶ条

1. 暑いとき、無理な運動は事故のもと
2. 急な暑さに要注意
3. 失われる水と塩分を取り戻そう
4. 冷やそう、からだの外から内から
5. 体調不良は事故のもと
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このフォーラムに協賛いただいた、大塚製薬株式会社様の熱中症に関する取り組みなどを紹介している記事はこちら▼
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