マルチスポーツを体験できる現場を取材!そこには、夢中で楽しむ子どもたちの姿がありました。

1つのスポーツにとらわれず複数の競技に取り組むことでさまざまなメリットがあると、国内でも注目されはじめているマルチスポーツ。自身の留学先であるニュージーランドの学校での体験をきっかけにマルチスポーツについて研究されている大山 高(おおやま たかし)教授のもと、筑波大学では体験の場として「筑波大学スポーツアカデミー」内にマルチスポーツ・コースを開催しています。 マルチスポーツの成果はどんなかたちであらわれるのか。実際に指導にあたるスタッフと、お子様がマルチスポーツを体験されている親子にお話を伺いました。

目次

教える・教わる関係ではなく、子どもとスタッフが一緒に遊ぶ感覚。自分で試行錯誤して“できる喜び”を伝えたい。

マリオの愛称で親しまれる長谷川 聖修先生は、筑波大学を定年退職されたのちマルチスポーツ・コースに関わられています。もともとは筑波大学で体操コーチング論という研究室の教授として教育と研究に従事。ここでいう体操とは競技ではなく、ジムナスティックボール(Gボール)を使っておこなう運動のことで、小さいお子さんから高齢者、障がいのある子まで、いろんな人に運動経験を広めていくための指導を学び、地域の体操教室をはじめさまざまなスポーツ教室に関わっていたことからこちらの指導スタッフになられたそうです。
マリオというニックネームは、Gボール協会の世話役をしていることから“マリ(ボール)の男”でマリオ。豊富な指導経験をもとに、子どもたちと指導スタッフを温かく見守る長谷川先生に、マルチスポーツ・コースについてお聞きしました。

JSPO Plus編集部

子どもたちを指導する上で心がけているのはどんなことでしょうか?

長谷川先生

スポーツ指導においては技術を分析して組み立てて指導する方法もありますが、ここではまず子どもたちにトライしてもらって、(できないことをどうすればできるだろうと)いろいろ試行錯誤しながら自分で発見してもらうようにしています。この試行錯誤がないと同じ“できる”でも全く意味合いが違ってきます。
指導する上で心がけているのは、子どもたちと指導するスタッフが「一緒に遊ぶ」という感覚。一緒に遊ぶとどちらも主体となり教える・教わるという関係もなくなります。ここでは、子どもたちが本当に何がしたいのかを見定める意味でも、子どもたちが自由に遊ぶ時間を確保してほしいと考え、プログラムの最後に必ず子どもたちが好きな遊びをできる時間を設けるようにしています。

スポーツの技術を高めようと思えば効率的に教えていきますが、ここでは子どもと指導スタッフがお互いに面白がって探していくという感じ。いろんなことをするなかで子どもたちの反応を見ながらプログラムを組み立てていく、その柔軟性を大切にしています。

JSPO Plus編集部

マルチスポーツ・コースで過ごす子どもたちの様子をどのようにご覧になっていますか?

長谷川先生

子どもたちが自分で試行錯誤しながらできることを見つけていくためにも、指導する側はあえて正解を教えずに、子どもたちのチャレンジを見守ります。各競技のエキスパートである大学院生が一緒に子どもたちと遊ぶなかですごいパフォーマンスを披露します。すると子どもたちがそれを「すごい!」と感じて、「自分もこんなことやりたい!」と憧れたり、興味を持つ場面があるのですが、それがすごく大事なことだと感じています。

JSPO Plus編集部

マルチスポーツ・コースに通う子どもたちを見ていて、ちょっと変わってきたなというところはありますか?

長谷川先生

子どもたちを見ていると、ときには揉め事も起こります。ちょっとした小競り合いなどもあったりしますが、そうやって揉まれながら人としてきちんと成長していっているような気がします。そのあたりは多少大目見ながら子どもたちの成長を見守っています。

JSPO Plus編集部

ありがとうございました。

それぞれの競技のスタッフがみんなで工夫しながら、子どもたちの興味を引き出すプログラムを考案しています。

マルチスポーツ・コースでは、複数のスポーツを体験することで、「走る」「跳ぶ」「投げる」「リズム感」をバランスよく身につけるため、陸上競技、体操、ハンドボール、ダンスをバックボーンに持つスタッフがいます。マルチスポーツというテーマのもと、みんなで工夫しながら楽しいプログラムを考案する4人の大学院生の方々にお話を伺いました。

JSPO Plus編集部

皆さんは子どもの頃からどんなスポーツをされてきましたか?複数のスポーツをされていた場合、ご自身に何か影響はありましたか?

三木 麻衣さん

私は小学生から高校1年生まで新体操とダンスを同時に取り組んでいました。どちらも柔軟性が重要視されたので、その点においてはお互いにいい効果が得られたと思います。ダンスではやったことがないトレーニングを新体操から取り入れることで身体能力の向上に繋がった気がしていて、ダンスの表現性や想像力を新体操で活かすなど、お互いにいい影響がみられたように思います。

木村 莉子さん

陸上競技を専門に始めたのは中学1年生からで、小学生のときは4年生から部活動が始まって、その頃は夏にソフトボールをして、秋冬はバスケットボールをしていました。特にソフトボールがメインで、平日は部活動、土曜日はクラブチーム、日曜日は町内会と週7でソフトボールをしていましたが嫌だなと思うことはなかったです。残念なことに中学校にソフトボール部がなく、もともと走るのが好きだったので陸上部に入りました。

我喜屋 佑衣さん

私は5歳から高校生まで新体操をやっていて、同じ時期に水泳も始めて小学校までは両方していました。その後は新体操のためにバレエを習っていた時期もあります。新体操とバレエはすごく密接な関わりがあって新体操の練習メニューにバレエを取り入れるクラブもあるほど。水泳は全く違うスポーツでしたが、新体操で必要な持久力が養えたと思います。大学に入ってからラート(※)を始め、現在はラートを競技としておこなっています。
※直径約2mの鉄の大きな円形の器具を使って演技をするサーカスの演目にもあるスポーツ。

神頭 匠さん

自分は中学から大学までハンドボールを専門にやってきました。小学生のときは野球、サッカー、ハンドボール、テニス、体操、水泳をやっていて、その中からハンドボールを選びました。いろんなスポーツをやって良かった点が2つあって、1つは個人種目と集団種目を経験したことでどっちが自分に合っているかがわかったこと。もう1つが競技間の接続のようなものがあって、例えばハンドボールでボールを投げる動きがテニスのサーブを打つ感覚に似ていたりする、そういった身体感覚が身に付くといったメリットがあると思います。

JSPO Plus編集部

マルチスポーツ・コースに参加されたきっかけや、指導者を目指されたきっかけは?

三木 麻衣さん

もともと子どもたちに教えるということに興味がありましたし、自分自身が競技をしているときにも何か人に伝えるとことが好きというか、苦にならないタイプでした。出会った先生方から素晴らしい指導をいただいたので、私も人を育てるということに携われたらいいなと思いマルチスポーツ・コースに参加しました。

木村 莉子さん

自分の幼少期にスポーツをすごく楽しみながらやっていたということが大きくて、ソフトボールもバスケットボールも陸上競技も、私のやりたいことはどんどんやらせてもらった経験があって今の自分の運動能力の基礎ができていると思います。こうした自分の経験から、子どもたちにも体を動かすことを楽しんでほしいという想いがあり、そう思ってもらえるような指導を心がけています。

我喜屋 佑衣さん

高校生の頃は自分が通っていた新体操クラブで小さな子に教えるくらいでしたが、大学で体操部に入ってから学内や地域のイベントなどで体操教室をおこない、人に教える機会が増えてきました。マルチスポーツ・コースには先輩の紹介で入りましたが、人と接していくなかで、人に何かを教えたり、運動そのものの楽しさを伝えたりすることが好きなんだなと感じています。

神頭 匠さん

大学でハンドボールコーチング論という研究室に入っているのですが、そこに入ったきっかけは、部活動で後輩たちを指導するのはまた違った視点でコーチングを学んでみたいと思ったからです。マルチスポーツ・コースはハンドボール部の監督から声をかけていただきました。

JSPO Plus編集部

指導者としてのやりがいや、指導する上で心がけていることを教えてください。

三木 麻衣さん

子どもたちが本当に楽しそうに取り組んでいる様子を見ることが何よりのやりがいです。私はダンスが専門ですが、例えば決まった振り付けを丁寧に正確に踊るというよりも、何か自分から生み出される表現とか、それを共有できる楽しさなどを伝えていけたらいいなと思っています。
マルチスポーツ・コースではいろんな競技の方たちと協力しながらプログラムを作り上げていくので、自分が知らなかったことを知る機会にもなっていて、すごく魅力ある活動と言えます。

木村 莉子さん

私の経験からも、できなかったことができるようになることはとても楽しいので、子どもたちの「できた!」「楽しい!」という瞬間に立ち会えたとき、やりがいを感じます。また、保護者の方から「運動会のかけっこのモチベーションが去年と違う」「リレーを楽しみにしてます」というお話を聞くと嬉しくなります。

我喜屋 佑衣さん

私が専門にしている体操は競技志向のものではないので、成功と失敗の境界が曖昧のような動きがあります。そうした動作を通じて、運動が苦手な子がここで体を動かすことを好きになってくれたらいいなと思っています。マルチスポーツ・コースでは、それぞれ専門の競技にどこかつながりを持たせてプログラムを考えていくので、私としても経験が積めますし、子どもたちにしてもラートや大きなボールなどでいろんな動作を体験することができます。「今日は●●が楽しかった」など、その場で子どもたちの声を聞けるのもマルチスポーツ・コースのいいところだと思います。

神頭 匠さん

マルチスポーツ・コース以外で小学生にハンドボールを教えることがありますがそこではやはり競技に寄った教え方になります。マルチスポーツ・コースでは「ボール遊び」というふうにしてボールを投げたりキャッチしたりボールを使った遊びを楽しみます。実際に子どもたちが同じスポーツをしていくとレベルに差が出てきて、おこなう内容にもどんどん差が出てきますが、僕たちの場合は基礎の内容としていろんなものをずっと積み重ねていく感じ。そうした考えが子どもたちにもとっても、いい内容になっていると思います。

JSPO Plus編集部

今後の目標などを教えてください。

三木 麻衣さん

いろんな種目の指導の仕方、伝え方や内容の組み方など個人的にはすごく興味があり、とても価値ある経験ができていると感じています。この経験を活かしていろんな方々にダンスや運動の楽しさを伝えていけるように、もっと成長していきたいと思います。

木村 莉子さん

毎週子どもたちに会うたびに成長していると感じる部分があって、それは能力的な成長だけじゃなくて、子どもたちの内面的な成長というものをすごく感じています。こうした子どもたちの成長を見ることができるのもマルチスポーツ・コースの特徴と言えます。この先仕事に就いて指導という立場からは離れてしまっても、スポーツには「する・みる・ささえる」といろんな関わり方があるので、楽しむ気持ちを大事にしてずっとスポーツと密接に関わっていきたいと思ってます。

我喜屋 佑衣さん

体操というスポーツを教えることは数多く経験していますが、マルチスポーツ・コースにおける体操の指導法は少し違っていて、子どもたちが違うスポーツを通して成長していくように、私たちもそれぞれの競技特有の指導法を学び成長しています。マルチスポーツ・コース以外では、高齢者の方や幼児期のお子さんと触れ合う機会に恵まれているので、マルチスポーツ・コースで学んだ経験をより多くの方々の体操教室などで活かしていけたらと考えています。

神頭 匠さん

マルチスポーツ・コースの活動は参加する子どもたちも指導するスタッフもどんどん世代交代していくし、もしかすると今後は競技が増えるかもしれません。そうしたときに自分たちの代で、ある程度しっかりかたちになったものを残したいという目標があります。子どもたちはここで4競技を体験していますが、最後は「まだボール遊びがしたい」と言ってもらえるような指導ができたらと思っています。

JSPO Plus編集部

ありがとうございました。

いろんな運動をすることで自分の好きなことや得意なことに出会える。子どもの内面的な成長も感じています。

水泳や体操、野球、サッカーなどさまざまな教室があるなかで、筑波大学の「マルチスポーツ・コース」を選ばれた方々は、マルチスポーツのどんなところに惹かれお子様を通わせているのでしょうか。小学校の低学年クラス(1~2年生)に通う親子と、高学年クラス(3~6年生)に通う親子にそれぞれお話を伺いました。

低学年クラス(1~2年生)に通う油原千陽くん(写真右)と油原雅史さん(写真左)

JSPO Plus編集部

マルチスポーツ・コースに入られたきっかけを教えてください。

油原 雅史さん

子どもが通う小学校の広報の記事に掲載されていて、まず体験会に参加しました。息子も楽しかったようでやってみたいということで参加を決めました。

JSPO Plus編集部

どんなところが楽しかったですか?

油原 千陽くん

ボール遊び。今でもボールを投げるのが好きで、この前は新聞紙を丸めて投げて楽しかったです。

JSPO Plus編集部

マルチスポーツという取り組みについてはどのように思われましたか?

油原 雅史さん

息子に何かスポーツをやらせたいなと考えていたところ、こちらではいろんなスポーツを取り入れて教えてくれるということでとても興味が湧きました。
実際にマルチスポーツ・コースで楽しんでいる様子を見て、何か1つのスポーツに集中させるのではなく、いろいろと経験するなかで息子が興味を示したものをやらせていきたいと考えるようになりました。

JSPO Plus編集部

普段親子ではどんなことをして遊んでいますか?

油原 千陽くん

公園に行って追いかけっこしたり、お家でゲームしたりしています。

油原 雅史さん

私はあいにくスポーツが得意ではなく、息子も比較的インドア派というか、普段は絵を描いたりブロックで遊んだりすることが多いタイプ。マルチスポーツ・コースでいろんな運動をしたり、みんなと一緒にワイワイ遊んだりする姿を見るのはとても新鮮です。
マルチスポーツ・コースでは毎回やることが違うので息子は楽しんで参加していますし、そのなかで自分の好きなことや得意なことを見つけられるのがとてもいいと思います。

JSPO Plus編集部

マルチスポーツ・コースに参加するようになってお子さんに何か変化が見られますか?

油原 雅史さん

前回、初めて体験会に来た子に、自分から声をかけていました。運動を楽しみながら、そういった面も成長できているのかなと思いました。

JSPO Plus編集部

ありがとうございました。

高学年クラス(3~6年生)に通う西田美咲さん(写真左)と西田雅美さん(写真右)

JSPO Plus編集部

マルチスポーツ・コースに入られたきっかけを教えてください。

西田 雅美さん

小学校でチラシをいただいてきてマルチスポーツ・コースのことを知りました。一緒に入ったお友達が先に体験会に行ってくれてお話を聞いたら、いろんなスポーツを体験できるから絶対にやったほうがいいと言ってくれて。私たちも体験会に参加したら、本当に楽しくて参加を決めました。

JSPO Plus編集部

どんなところが楽しかったですか?

西田 美咲さん

陸上のリレーが一番楽しかったです。走るのが好きで、速くなるのも楽しいし、リレーとかをしてみんなを追い抜かすところも楽しいです。

JSPO Plus編集部

お子さんはこれまで何かスポーツはされていましたか?

西田 雅美さん

いえ、特にやっていません。マルチスポーツ・コースに来るようになって走るのが好きになったのでちょっと驚いています。具体的に「こういうふうに走りなさい」と習ったわけではないのに、すごくかっこよく走れるようになりました。

JSPO Plus編集部

どんなことを教えてもらったら足が速くなりましたか?

西田 美咲さん

上げる足の反対のほうの腕を一緒に上げるとか、大股で走るとか、いろんな走り方をしたら速くなったように思います。

JSPO Plus編集部

マルチスポーツという取り組みについてはどのように思われましたか?

西田 雅美さん

ここに来るまでマルチスポーツという言葉を知らず、お話を聞くと何か1つの競技を集中してするのではなく、いろんな競技の動きを取り入れて楽しく体を動かすということでした。例えば、走るにしても「腿を上げて」とか「腕を振って」というのではなく、大股で走ってみたり、小さなハードルを跳び越えるように走ったりすることで、自然と走る姿勢がよくなり実際に速くもなって。もともと娘も陸上が好きというタイプではなかったのに、今では走るのが大好きになりました。

JSPO Plus編集部

マルチスポーツ・コースではいつもどんなことをしていますか?

西田 美咲さん

例えば、ダンスだったらいろんな振り付けを組み合わせてダンスを踊ったり、ボールだったら上手にできるコツを教えてもらって的当てをしたり、陸上は走るコツを教わって、みんなでリレーをしたりします。

JSPO Plus編集部

マルチスポーツ・コースに参加するようになってお子さんに何か変化が見られますか?

西田 雅美さん

もともと外で遊ぶのが大好きなタイプですが、体育はそれほど得意なほうではなかったのですが、4年生から始まるクラブ活動では陸上やドッジボールを希望していて驚きました。女の子たちには手芸や塗り絵などが人気ですが陸上が第一希望だったので、リコ先生(陸上担当の先生)に伝えました。

JSPO Plus編集部

マルチスポーツ・コースのどんなところに魅力を感じていますか?

西田 雅美さん

何よりも娘が楽しめていることが一番の収穫です。いろんな競技の動きをすることで、競技が変わっても、ある程度自分がどんな動きをすればいいか考えられるようになっていくとも聞いています。中学校の部活動など全体的にそういう方向になってくれたらいいと思います。

JSPO Plus編集部

ありがとうございました。

楽しみながら技術も向上。マルチスポーツの入口は、夢中にさせること。

今回、筑波大学マルチスポーツ・コースで、マルチスポーツを体験する子どもたちの様子を取材してきましたが、みんな元気よく動き回り、夢中で楽しむ姿が印象的でした。
取材当日は「体操」の日。子どもたちはマット運動で側転をしたり、大きなボール(Gボール)の上で跳んだりバランスをとったりして楽しみました。
取材当日におこなわれていた内容
【種目】体操
【プログラム内容】
ウォーミングアップ:フラフープ(足裏ほぐし、ストレッチ、動物ステップ)
Gボール:これまでにやったことを軽く復習(はずむ、バランス) 全身を固める&緩めるトレーニング(ラート側転につながるように)
ラート(サーキット):デモンストレーション(側転、2人ゆらゆら、綱渡り、ラート歩き)
各ブース5分目安で4チームに分かれてローテーション
【実践ポイント】
これまで実践してきた体操の内容を振り返りながら、ラートを使用してバランス感覚を養う

ラートの競技者でもある我喜屋 佑衣さんのパフォーマンスも披露されました。

マルチスポーツにはさまざまなメリットが期待されていますが、その入口は、興味を持ち、夢中になること。ぜひ皆さんもマルチスポーツの取り組みにご注目ください。