運動部活動の地域移行で、子どもたちの望む未来へ。JSPOは資質能力を備えた「スポーツ指導者」の育成を推進します

2023年度から、公立中学校の休日の運動部活動の段階的な地域移行が始まります。 休日の運動部活動を地域移行する背景には、学校の教育現場で部活動に取り組む「生徒」と、それをささえる「教員」や「学校」が抱えるさまざまな問題点があります。 こうした問題点と向き合い、生徒・教員・学校・地域にとって望ましいスポーツ環境を整備していくには、多様なスポーツ活動を推進するために必要な資質能力を備えた「スポーツ指導者」の確保が急務とされています。 本記事では、休日の運動部活動を地域移行するに至った背景とともに、地域移行に際して、資質能力を備えた「スポーツ指導者」を確保するためのJSPOの取り組みについて紹介します。

目次

生徒や教員・学校が運動部活動で直面するさまざまな問題とは

部活動に取り組む「生徒」と指導する「教員」。運動部活動に関連して、さまざまな問題点が指摘されています。(以下の問題点は『Sport Japan』Vol.61・63連載「学校運動部活動」およびスポーツ庁「運動部活動の地域移行に関する検討会議提言」などから要約引用)

【生徒が直面する主な問題点】

●中学生の人口が大きく減少。特にチームスポーツの編成が困難、存続の危機も
(例. 紅白戦はおろか、試合に出るメンバーを揃えるのがやっと ※1986年時は約589万人だった生徒数が、2021年には約296万人と半減 *1)
●現状の部活動を維持するのも精いっぱい。ニーズはあっても、部活動を新しくつくる余裕はない
(例. オリンピックの東京大会やパリ大会の影響などでスケートボード、ダンス(ブレイキン)などに興味を持つ生徒がいても、その希望に応える余裕が学校側にない)
●担当競技の経験がなく専門的な指導に不慣れな顧問も多く、専門的な指導が受けられない
●競技志向、レク志向、障がいのある生徒など、多様なニーズに応じられない
*1 文部科学省「学校基本調査

【教員・学校が直面する主な問題点】

●部活動指導に伴う平日の超過勤務や試合・大会への引率、運営への参画等による休日出勤など、過労死ラインを超えて働く教員も多い *2
●担当競技の経験がなく専門的な指導に不慣れな教員も顧問を引き受けざるを得ない
●顧問を引き受けたくない教員も顧問を引き受けざるを得ない
*2 文部科学省「教員勤務実態調査」(平成28年度)
顧問教員の実態についてJSPOがおこなった調査の結果、運動部活動の顧問を務める教員の約25%は体育以外の担当教科で当該競技の経験がない教員であり、その約30%は実技指導に不安を感じていることがわかりました。

JSPO運動部活動の実態調査

運動部活動の地域移行に関する検討会議提言がスポーツ庁長官に手交される

このような運動部活動における問題点の解決に向けて、2018年3月には、スポーツ庁の「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」において、学校と地域が協働・融合したかたちでの地域におけるスポーツ環境整備の方針が示されました。
2020年9月には、文部科学省の「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革」において、2023年度以降、休日の運動部活動を段階的に地域に移行する方向性が示され、2021年10月に検討会議が設置されました。
そして、検討会議での具体的な議論をまとめた「運動部活動の地域移行に関する検討会議提言(以下、「提言」)」が2022年6月6日にスポーツ庁の室伏広治長官に手交されました。

目指すのは、子どもたちの豊かなスポーツライフ

「提言」は、公立中学校等(義務教育学校後期課程、中等教育学校前期課程、特別支援学校中学部)における運動部活動を対象としたものであり、運動部活動の地域移行が目指す姿として次のように示しています。

【「提言」が示す、目指す姿とは】

●少子化の中でも、将来にわたり子供たちがスポーツに継続して楽しむことができる機会を確保。このことは、学校の働き方改革を推進し、学校教育の質も向上。
●スポーツは、自発的な参画を通して「楽しさ」「喜び」を感じることに本質。自己実現、活力ある社会と絆の強い社会創り。部活動の意義の継承・発展、新しい価値の創出。
●地域の持続可能で多様なスポーツ環境を一体的に整備し、子どもたちの多様な体験機会を確保。(スポーツ団体等の組織化、指導者や施設の確保、複数種目等の活動も提供)
「提言」の内容からも、運動部活動の地域移行は、現在の運動部活動を単に地域に出すということではなく、各地域の実情やニーズに合わせて、子どもたちにとってさらに充実したスポーツ環境を整備するものであり、学校や地域、スポーツ界など各方面の関係者がみんなで一緒に行う取り組みと言えます。

地域移行の実現に向けて課題となる資質能力を備えた「スポーツ指導者」の確保

子どもたちが安全かつ安心してスポーツ活動を楽しむには、適切な資質能力を身に付けた「スポーツ指導者」の存在が欠かせません。運動部活動の地域移行を実現させる上でも、適切な資質能力を身に付けた「スポーツ指導者」をいかに確保するかが課題となっています。
プレーヤーがスポーツに親しめるよう導いたり、プレーヤーの成長を支援したり、誰もが快適にスポーツを楽しめるように、JSPOではスポーツ指導に求められる資質能力を身に付けたスポーツ指導の専門家として「公認スポーツ指導者」を育成しています。
「公認スポーツ指導者」に関する記事はこちらもご覧ください。

公認スポーツ指導者育成に関連したJSPOの取り組み

JSPO公認スポーツ指導者の認定者数は、2022年10月現在約22万人(スポーツリーダー資格を除く)にのぼりますが、その多くは、すでにさまざまな指導現場で活躍しています。そのため、運動部活動の地域移行で生まれる新たな活動場所で指導できる人材には限りがあります。
そこで、JSPOでは、運動部活動をめぐるさまざまな動向や第3期スポーツ基本計画等を踏まえ、公認スポーツ指導者の育成に関連した以下の取り組みを進めています。

【公認スポーツ指導者育成の促進】

中央競技団体等と協力して、スポーツ指導に必要な資質能力を備えた公認スポーツ指導者の育成を促進します。
○各地方自治体や大学・専門学校等(大学スポーツ協会(UNIVAS)を含む)における指導者養成の取り組みとの連携を促進し、所定の基準を満たした講習等の受講者やカリキュラム履修学生が公認スポーツ指導者資格を取得できる仕組みの活用を促進。
○競技を特定しない講習等では「コーチングアシスタント資格」、競技を特定している講習等では「コーチ1資格」等を取得できるよう、仕組みの構築に向けた中央競技団体等との調整と連携先への周知・徹底。
○スポーツ指導に積極的な教員への公認スポーツ指導者資格取得の促進。

【公認スポーツ指導者資格義務付けへの対応】

中央競技団体等と協力して、監督・コーチ等への公認スポーツ指導者資格の取得義務付けを、下記のように段階的に進める。

※義務付け対象資格は、競技別指導者資格を基本としつつステップや当該競技における養成・認定状況に応じてコーチングアシスタント資格やスタートコーチ(教員免許状所持者)、スタートコーチ(スポーツ少年団)等も対象とする。
※「日常的な指導の場」での義務付けは、例えば、中央競技団体が定める指導者やチーム登録に関する規程等において監督・コーチ等は資格保有者が望ましいといった条文を加えるといった対応を想定。

地域移行の実現にはスポーツ指導に積極的な教員免許状所持者の協力が不可欠

提言においても、公立学校教員等の公務員の方々の中には、専門的な知識や技量、指導経験があり、かつ、地域でのスポーツ指導を強く希望する方もおり、そういった方々の協力を得られれば、地域スポーツ振興の観点からも効果的であることが示されています。
スポーツ指導者資格をお持ちではない教員免許状所持者の方で、地域移行後も引き続きスポーツ指導を希望される方、携わる予定のある方は、子どもたちを取り巻くスポーツ環境が大きく変わるこの機会に、スポーツ指導に関する学びを深め、JSPO公認スポーツ指導者資格を取得されてはいかがでしょうか。

「スタートコーチ(教員免許状所持者)」資格の養成を開始

JSPOでは、主に、体育以外の担当教科で担当競技の経験はないものの、スポーツ指導に積極的な教員の方を対象とした資格として、「スタートコーチ(教員免許状所持者)」を創設し、2022年6月から講習会を開催しています。
教員免許状を所持されている方を対象とした資格であるため、講習内容をスポーツ指導において必要とされる最低限の内容に精選している他、多忙な中でも受講しやすいように、すべてオンラインで受講可能となっています。

スタートコーチ(教員免許状所持者)資格の内容を動画で紹介

スタートコーチ(教員免許状所持者)申込延長(2022年度第2コース)

なお、すでに特定の競技の専門的な指導を行っている(行うことが決まっている)方で、当該競技において「スタートコーチ」資格や「コーチ1」以上の資格が養成されている場合は、当該資格の取得もご検討ください。