日本スポーツをささえて75年。それぞれの地元愛が全国を元気にする「国民体育大会」の本当の"価値"

目次

「国民体育大会」(以下、国体)は、毎年開催される日本最大の"スポーツの祭典"です。

国体を主催するJSPO(日本スポーツ協会)では、毎年その開催を通して、ジュニア層を中心としたスポーツの普及、競技力の向上はもちろん、わが国を代表する祭典として地域活性化の役割も果たしてきました。

国体の参加者は毎年2万人以上にのぼり、オリンピックをも上回る人数のアスリートたちが都道府県対抗形式にて頂点を競います。開催県は各都道府県の持ち回り制ですが、国体開催に名乗りを上げた都道府県はなんと10年以上もかけてその準備に取り掛かります。

本記事では、第1回大会の開催から世紀を超えて日本のスポーツを支え続きてきた、国体の魅力と意義をご紹介します。

スポーツを通して日本に勇気と希望を。原点は「終戦後のスポーツへの郷愁と情熱」

国体は、立場は違えどスポーツに関わる多くの人たちにとって、様々な形でスポーツに触れられる特別な機会です。では、そもそも国体がどのようにして始まったのかをご存知でしょうか?まずはその歴史を振り返ることで、国体開催に込められた想いを紐解きます。

第1回国民体育大会は、1946年に戦災を免れた京都府を中心に、日本体育協会(現:JSPO(日本スポーツ協会))が発案し、主催しました。

日本体育協会は、オリンピック参加が契機となり大日本体育協会として創立されましたが、「国民スポーツの振興」と「国際競技力の向上」をミッションの二本柱として活動を続け、1946年以降の国体事業にも大きく力を入れてきました。

戦後、娯楽はおろか生活さえままならない当時の日本では、国民の心にスポーツへの郷愁と情熱が芽生えます。

そんな中、日本体育協会は、こうした戦後の混乱期において沈みがちだった社会情勢に鑑みて、「国体」という全国規模の体育大会を計画することで、スポーツを通して国民に勇気と希望を与えられないかと考えました。

実際に国体開催までの道のりは簡単ではありませんでしたが、全国のスポーツ人への呼びかけが彼らの魂を揺さぶるなど、次第に想いは一つに、そして大きくなっていきます。

こうして「国民体育大会」は世に産声をあげましたが、背景には、戦禍にあえぐ国民、とくに退廃した青少年に平和と民族愛の象徴としてのスポーツを浸透させようという大きな使命があったことも忘れてはなりません。

以来、第5回大会からは文部省が、第10回大会からは開催地都道府県が主催者に加わり、現在はJSPO、文部科学省、開催都道府県が共同で、毎年国体を主催しています。

国体が生み出す"新たな出会い"のきっかけ

スポーツは、「する人」「みる人」「ささえる人」の3つの立場の人たちによって成り立っています。現在の国体は、スポーツを「する人」が目指す都道府県対抗形式の大会というだけでなく、「みる人」「ささえる人」も含めた全員にとって、スポーツの素晴らしさを感じることができる場です。

郷土を背負う戦いを「する」アスリート同士だからこそ深まる交流

各県の持ち回りで開催される国体ですが、開催期間中、実際に出場する選手たちは郷土の代表選手団として全国から集まってきます。

出発前には、何百人規模の代表選手同士で結団式を執りおこなったり、地元出身のアスリートから激励を受けたりします。自分の参加競技チーム内はもちろん、他競技選手とも"同じ郷土を背負う者"同士ならではの交流が活発におこなわれるのです。

普段同じ県内でライバルとして競い合う選手同士ですから、地元では普段経験することのできない、かけがえのない経験です。

スポーツだけでなく、その土地の魅力を「みる」

JSPOでは、その場でスポーツを観戦することでしか味わえない迫力や感動が、代えがたい経験になると考えています。国内トップレベルの選手たちが熱い戦いを繰り広げる国体ですが、観戦料金は基本的に無料(総合開会式、高等学校野球など一部除く)。スポーツ好きならこれだけでも十分足を運ぶ理由になるはず。

さらに、国体の開催期間は10日以上にわたるので、観戦の合間に開催地をゆっくり観光できるのも楽しみの一つ。競技会場は県内に広く展開するので、たとえば自分の観たい競技に合わせて周辺地域を転々と巡れば、郷土料理や名産品の発見、想定していなかった地域の魅力や地元の方との交流も生まれるでしょう。

国体は、スポーツをきっかけに開催地の食や文化、伝統に触れるという、スポーツツーリズムの側面も持ち合わせているんですね。

国体を「ささえる」人たちが、やってよかったと思えることが理想

国体は、10年以上というとても長い期間をかけて準備することからもわかるとおり、50年に1度の県をあげての一大イベントです。2万人を超える出場選手たちと、その活躍を見に全国から集まる観客。開催県にとって、これだけ多くの人々に自分たちの文化やグルメをアピールできる機会はめったにありません。

「地域の活性化」は重要な国体の副産物

国体の実施にあたっては、老朽化した競技施設を改修したり、交通網を整備したりと、インフラ拡充がおこなわれることもあります。それ以上に、県をあげて選手団や観戦客をおもてなしすることで、レンタカー、飲食業、宿泊施設などの観光関連産業が賑わうことにもつながり、地域経済が活発に動くのです。

また、国体開催期間中、学校によってはクラスごとに応援する都道府県が割り当てられ、その県のことを学んだり、実際に大会へ足を運んで担当の県を応援することも!

国体が終わったあとも交流が続き、選手が開催地に再び訪れたり、逆に開催地の選手が応援してもらった選手の県へ旅行に行くなど、スポーツを「する人」「みる人」「ささえる人」の枠を越えた交流が生まれています。

JSPOでは、こうした副次的な効果も、国体の重要な役割の一つとして捉えています。

スポーツの魅力を伝えることこそ、国体が担ってきた役割

トップ選手のプレーが、スポーツを「する」ための良い刺激に

国体に出場する選手たちは、みな強豪揃い。予選を勝ち抜いた代表が全国から集まります。こうした他県のハイレベルな選手はもちろん、年代の違う選手、競技すら違う選手のプレーを間近に見ることで、国体は選手一人ひとりにとってのかけがえのない成長機会となっています。

また国体を経ることで、各都道府県の競技団体には選手強化のノウハウが経験として蓄積されるため、その後の競技レベル全体の底上げにつながります。

こうして国体は、選手たちの意欲向上や互いに切磋琢磨するための最適な環境であるとともに、指導者レベルにおいても好影響を与えているのです。

様々なスポーツを「みて」、触れる機会を創出

国体では、毎年おこなわれる正式競技やデモンストレーションスポーツにおいて、国体選手が一般向けに競技体験会を実施しています。学校やレクリエーションで実際にやったことがある人が多い競技にくわえ、たとえばアーチェリーやライフル射撃といった、環境が整わないとなかなか触れる機会がない競技も気軽に体験できます。

スポーツにはメディアでよく見かける競技だけでなく、国や地域などによって数え切れないほどの種類が存在しますが、JSPOでは競技人口や知名度にかかわらず、すべてのスポーツが平等に素晴らしい価値を持つと考えています。

そうしたスポーツを観戦することで、特有のマナーや声援の送り方など、「観戦」そのものに対する経験が開催地の人々に根付くということも見逃せないポイントです。実際、各市町村で実施された競技は、国体が終わったあとも同じ市町村で盛んにおこなわれます。その結果、「◯◯と言えばこの市町村!」というように競技が人々に根付き、その競技の聖地になることもあるのです。

また、国体の正式37競技決勝をインターネット中継する国体チャンネルを利用すれば、日程が合わず現地で応援できなくても、いつでも気軽に郷土の代表アスリートの活躍を観ることができます。

こうして、普段なかなか触れづらい競技の魅力も余すことなく伝えることで、国体は全国のスポーツ推進に貢献しているのです。

県同士で「ささえあい」、国体を成功に導く

国体では、運営に関わった自治体に大規模スポーツイベントの開催ノウハウが蓄積され、将来的に大きな財産として残ります。また、将来の開催県が運営ノウハウや備品を引き継ぐため、以前に国体開催の経験がある県と連携して準備を進めることも。

また、国体は現地での運営の大部分がボランティア活動で成り立っているため、"ボランティア"そのものを推進するという影響もあります。

国体はスポーツの様々な可能性を示す道しるべ

毎年オリンピック以上の参加者が集い、県をあげたおもてなしで選手団や他県からの観客をおもてなしする。「スポーツを通して国民に勇気と希望を」との願いで、戦後復興から始まった国民体育大会の本質はいまも変わらず、連綿とスポーツに関わる人たちの想いを紡いでひとつにしてくれています。

「いろんなスポーツをみることが好き」「次の国体開催県はずっと旅行してみたかった」など、少しでも国体のことが気になったら、ぜひとも気軽に足を運んでみてはいかがでしょうか。