冬ランなど寒い日に走るならケガ予防は入念に!正しいウォーミングアップ&クーリングダウンを公認スポーツ指導者が解説

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新型コロナの影響で外出自粛が続く昨今ですが、運動不足の解消のためにも、感染対策を万全にした上で節度をもって体を動かすことは非常に大切です。寒い冬、筋肉や関節が冷えた状態でランニングをすると、ケガのリスクも高まります。ケガのリスクを抑え、毎日ランニングを楽しむために冬ランで気をつけるポイントを、JSPO(日本スポーツ協会)公認スポーツ指導者(アスレティックトレーナー)の岡戸敦男さんにお聞きしました。

岡戸 敦男さん プロフィール

JSPO公認アスレティックトレーナー、および陸上競技コーチ1。中学、高校、大学と長きに渡り陸上競技長距離選手としても活躍。現在は理学療法士、アスレティックトレーナーとして選手をサポートするほか、スポーツ理学療法の発展にも貢献している。

冬のランニングは、何よりも最初に筋温を上げること

冬は当然のことですが気温が低いため、私たちの筋温(体温)も下がっています。
筋温が低いと筋肉は固まり、本来持っている柔軟性を失っている状態です。また、関節の可動域も筋肉などの柔軟性に影響されます。つまり、筋肉の柔軟性が低下した状態では、関節の可動域が制限され、イメージしたように体が動かないのです。

このような状態で急に運動を始めると、筋肉や関節に負荷がかかりやすくなり、パフォーマンスが十分に発揮できないばかりか、肉ばなれや関節痛、腱の炎症といったケガのリスクが高まります。ケガを予防するためにも、冬ランは筋肉を温め、筋温を上げることが大切です。

①ランニングをスタートする前はしっかりとウォーミングアップを

よくウォーミングアップ代わりにウォーキングからスタートし、その後ランニングに移行して、徐々にペースを上げるランナーもいらっしゃいますが、気温が低い冬場は逆に体を冷やしてしまうため、あまりおすすめできません。

筋温が高い夏場は筋肉をほぐす程度のストレッチでも大丈夫ですが、冬のウォーミングアップは体を大きく動かすことを意識します。体を動かすと全身の筋線維が収縮・弛緩を繰り返します。それにより筋温が上昇し、筋肉の柔軟性が高まると同時に関節の可動域も広がります。

②走り始めはゆっくりとジョギングレベルでスタート

ウォーミングアップで少し体が温まったら、ランニングをスタートします。最初は人と会話が出来る程度のスピード、ジョギングレベルから入ることで、さらに筋温を上げます。早く体温(筋温)を上げようとして最初からスピードを上げて走るのは、ケガのリスクを高めてしまいます。十分注意して下さい。

筋肉と同じように血管も寒さによって収縮しています。普段から血圧の高い方は、特にゆっくりスタートすることを心がけてください。

ジョギングで十分に体が温まったら、徐々にスピードを上げていきます。ただし、冬の場合、ランニング強度を高めたいのであれば、スピードではなく、走る時間や距離を伸ばすことで負荷を増やすようにしましょう。

ランニングをこれから始めるビギナーの方は、無理にスピードを上げず、冬の間はジョギングレベルで体を慣らしましょう。無理をしてケガをするとせっかく始めたランニングを継続できなくなります。気温が上がり、暖かくなるまではケガをしないことを優先しましょう。

③ゴールした後はクーリングダウンで疲労回復

目標としている時間や距離を走りきったあと、寒いからといってすぐに終わるのではなく、クーリングダウンを行います。これは激しい運動によって興奮状態にある心身を落ち着かせるとともに体への負担を和らげるものです。

ゴールを過ぎた後、数分間ペースを落としジョギングをします。こうすることで心拍数をゆっくりと下げ、体を落ち着かせていきます。また、軽いジョギングには筋肉をリラックスさせる効果もあります。

ランニング後の体は思った以上に疲労しています。翌日に疲れを残さないために、ストレッチで筋肉をほぐします。ただし、汗をかいたまま外でストレッチをすると体が冷え、風邪をひいてしまいます。自宅がスタート&ゴールの場合は、家に入って着替えてからゆっくりストレッチをします。もし、ランニングコースが家から遠い場合は、ランニング後に体が冷えない程度に軽く、帰宅後にしっかりストレッチをするというように2段階でするのが良いでしょう。

水分補給、保温、コース選び。ケガ予防につながるポイント

汗をかいていなくても水分補給を忘れずに

汗の量が少ない冬場は、水分補給を忘れがちです。走る前にコップ1~2杯、1時間以上走る場合は、ランニング中も水分を補給します。ランニング後も、のどが渇いてなくてもコップ1~2杯の水分を摂りましょう。ランニング後は体が冷えるのを防ぐため、常温か温かいドリンクを飲むことも良いでしょう。

また、水分補給と同時に、ランニングで失われた栄養素を補給するドリンクがおすすめです。ホットミルクでたんぱく質を補給したり、ビタミンCやクエン酸など疲労回復につながる栄養素が含まれているホットレモン、ミネラルが豊富な温かい麦茶などを用意しておけば、栄養分を補給しながら体を中から温めることができます。

筋温を下げないためにランニングアイテムを活用しよう

ランニング中も体を冷やさない(筋温を下げない)ために、手袋、ネックウォーマー、帽子などの防寒アイテムを使いましょう。

特に手袋は必ず着用してください。手が冷えて、血流がさらに悪くなり、腕が振れなくなります。そうなるとランニングフォームが崩れ、ケガの発生にもつながります。

意外と忘れがちなのが足首の保温です。ランニング用のショートソックスを履いているとタイツとソックスの隙間ができ足首部分が露出します。足首周りが冷えると着地の衝撃吸収が上手くできず、ケガの原因にもなりかねません。肌を露出しないようにレッグウォーマーを着けたり、長めのソックスを履くといった工夫が必要です。

また、衝撃吸収という意味ではランニングシューズも季節によって変えるのがおすすめです。冬用にクッション性の高いシューズを用意しておきましょう。クッション性の高いシューズは足が着地したときの衝撃を和らげてくれるので、ケガの予防につながります。

体を冷やさないためには、ランニングウェア選びも大切です。冬は夏に比べ汗の量は減りますが、それでも汗をかきます。汗の吸収力が低いウェアを着ていると、汗がなかなか乾かず体を冷やしてしまいます。さらに長時間のレースでは低体温症の原因にもなりかねません。冬こそ吸水性が良く、速乾性の高いランニングウェアを選びましょう。

また、厚手のウェアを1枚着るのではなく、ランニング中に温度調整ができるように、薄手のウェアを何枚か重ね着しておくのが良いでしょう。

ランニングコースは明るく、慣れたコースを選びましょう

走る時間帯は筋温のことを考えると、気温が高い日中が理想です。とはいえ、平日はお昼に走る時間をとるのが難しいという人も多いと思います。その場合は、朝よりも夜の方が筋温は高くなっているため、ケガのリスクは低くなります。

どうしても朝しか時間がとれないという場合は、起床後30分程度経ってから、ウォーミングアップを念入りに行って走るようにしましょう。また、冬は日の出が遅く、日が落ちる時間も早くなるため、暗い時間に走ることになります。思いもよらぬ段差に足を取られ、足首を捻挫するランナーも少なくありません。ケガを予防するためにも、街灯が整備されている明るいコースや慣れたコースを選びましょう。

体重の減少にも要注意!

気温が低いと、体温を下げないようにするため基礎代謝が上がりエネルギー消費量が増えます。そのため普段運動をしていない人がランニングを始めると、体脂肪の燃焼効率がよくなります。

その一方で、ランニングが習慣化している人の体重減少は注意が必要です。脂肪には寒さから体を守る役割もあります。実業団の女子陸上ランナーを対象に行った我々の調査では、夏に比べ、冬は体脂肪量が約1㎏、体脂肪率は約2%増加していました。一方で除脂肪体重(筋肉量)には差がありませんでした。つまり運動が習慣化している人にとっては、冬は体脂肪が少し増えるのが普通だと言えます。

体重が減ったと喜ぶのではなく、必ず体組成計などで体脂肪量や体脂肪率、除脂肪体重(筋肉量)を測るようにしてください。体脂肪量や体脂肪率が減っていないのに体重が減っている場合は筋肉量が落ちている証拠です。筋肉量が落ちるとそれだけ、体への負荷が大きくなるため、ケガのリスクが高くなります。

ウォーミングアップ実践編

ウォーミングアップでは、体を大きく動かし筋温を上げることを意識します。体を動かすと全身の筋線維が収縮・弛緩を繰り返します。それにより筋温が上昇し、筋肉の柔軟性が高まると同時に関節の可動域も広がります。ケガを予防するために、ウォーミングアップで体を温めましょう。

スウィングエクササイズ  左右10~20回

脚を大きく動かし、下半身の筋肉を温めます。脚を動かすことで血流がよくなり、体全体の筋温を上げることができます。

①脚を1本の棒のように伸ばし、片脚立ちになります。浮いている方の脚を大きく後ろに振ります。

②脚をそのまま前にスウィングし、膝を上げます。これを左右各10~20回行います。最初はスウィングを小さく、徐々に大きく動かして関節の可動域を広げます。

走っているときの脚の動きをイメージして太ももやお尻の筋肉などをしっかり動かすことを意識しましょう。

お尻の筋肉(殿筋群)と股関節前部の筋肉(腸腰筋)のストレッチ 20〜30秒

スウィングエクササイズ後、膝をしっかりと曲げ、お尻の筋肉(殿筋群)と股関節前部の筋肉(腸腰筋)を伸ばします。反動をつけながら筋肉を動かすことを意識します。

太ももの筋肉(ハムストリングスと大腿四頭筋)のストレッチ 20~30秒

太ももの裏の筋肉(ハムストリングス)と太とももの前の筋肉(大腿四頭筋)を伸ばします。このときも反動をつけながら筋肉を動かすことを意識します。

①つま先を上げながら、体を前に倒します。

②反動をつけながら太ももの裏の筋肉(ハムストリングス)とふくらはぎを伸ばします。

③太ももの裏の筋肉(ハムストリングス)を伸ばしたら、後ろに足を曲げ、腕でつま先を引き上げます。このとき太とももの前の筋肉(大腿四頭筋)を伸ばすことを意識します。

④これらは左右20~30秒ずつ行います。

カーフレイズ  10~20回

ふくらはぎは血流に大きな影響を与えると言われています。ふくらはぎの筋肉を動かすことで血流を促進し、筋温を上げていきます。
①階段など段差のある場所に、足を肩幅に開いて立ちます。

②かかとをできるだけ上げ、つま先立ちになります。

③最初はゆっくりからスタートし、徐々にスピードを上げて動かして筋温を上げていきます。10~20回行います。
④その後、段差を使いかかとを沈ませて、ふくらはぎを20~30秒伸ばします。反動をつけながら筋肉を動かすことを意識します。

スクワット(母趾球荷重)  10回

太ももの筋肉(ハムストリングスと大腿四頭筋)やお尻の筋肉は体の中でもトップクラスに大きな筋肉です。そのため、スクワットをすると短時間で筋温を上げることできます。

①足を肩幅に開いて立ちます。このとき母趾球(足の裏の親指の付け根にあるふくらみ)を意識します。

②母趾球の上に乗るイメージで、膝を90度ぐらい曲げたら、ゆっくりと体を元に戻します。

③これを10回行います。太ももの筋肉だけでなく、股関節を動かすことも意識しましょう。

ランジエクササイズ 10回、ランジウォーク  左右10歩

①スクワットの姿勢から、大きく一歩足を前に踏み出します。その後、元の姿勢に戻ります。次に反対の脚を大きく一歩足を前に踏み出します。左右交互に10回ずつ行います。脚全体の筋肉を使って行います。


②ランジエクササイズの次は、ランジウォークを行います。ランジエクササイズと同様に大きく一歩足を前に踏み出し、次にその姿勢から反対の脚を大きく一歩足を前に踏み出して前方に進んでいきます。左右10歩ずつ行います。
③ランジエクササイズとランジウォークでは、膝と足先の向きを一致させます。膝が内に入ったり、足先が外に向いたりしないように注意しましょう。正しいやり方を覚えて、習慣化しましょう。

クーリングダウンの注意点

クーリングダウンは、ランニングで疲労した筋肉の疲れをストレッチでほぐします。

ウォーミングアップで実施したお尻の筋肉(殿筋群)、股関節前部の筋肉(腸腰筋)、太ももの裏の筋肉(ハムストリングス)、太とももの前の筋肉(大腿四頭筋)、ふくらはぎのストレッチをウォーミングアップとは逆に反動を使わず、体を静止させた状態で筋肉をゆっくり伸ばすことを意識します。

クーリングダウンでは、それぞれを2~3セット実施すると良いでしょう。

無理は禁物。ケガに気をつけてランニングを楽しもう!

冬ランは、筋温を上げることを意識しながら、無理をしないことがケガの予防につながります。特にこれからランニングを始めるビギナーの方は、寒い季節はジョギングレベルで走れる体を作り、暖かくなってきたら徐々に負荷を増やすくらいの気持ちで始めてほしいです。最初に無理をしてケガをしてしまうと、ランニングが楽しくなくなってしまいます。定期的なランニングを続けるためにも、コロナ対策を万全にし、ケガの予防を第一に心がけてゆったりとしたペースを守って走ってほしいですね。