フェンシング初心者のためのやさしいルール解説。見どころやトリビアも

みる
フェンシング初心者のためのやさしいルール解説。見どころやトリビアも
フェンシングは、1896年のアテネオリンピックより正式種目に採用され、120年以上にわたるオリンピックの長い歴史において、すべての夏季大会で実施された数少ない種目の1つです。しかしながら、サッカーや野球などに比べると競技人口が少なく、そのルールや種目についてはあまり知られていないようです。この記事では、初心者の方にもわかりやすい基本のルールや種目、試合の見どころやトリビアについて解説していきます。

フェンシングの種目とルール

フェンシングは種目によってルールや見どころが異なります。まずはフルーレ、エペ、サーブルというフェンシングの3つの種目について、解説していきましょう。

基本の流れ

ピストと呼ばれるコートで1対1で試合が行われる点は、3つの種目共通です。まず主審の「ラッサンブレ・サリュー(気をつけ・礼)」の掛け声に合わせて、選手同士が礼をします。これは騎士道精神の表れとされていて、フェンシングの試合では全体を通して礼儀を重んじています。ちなみに、試合用語はフランス語です。

続いて、主審の「オンガルド(構え)」でマスクを着用し、「アンガルド(スタート)」でラインにつま先を合わせます。主審が「エト・ヴ・プレ(準備はいいか?)」と問いかけ、選手は「ウィ(はい)」または「ノン(いいえ)」と答えます。「ウィ」なら「アレ(始め)」と試合開始の合図に。

試合終了後は選手が互いに握手をして退出するまでが基本の流れです。

種目①フルーレ(fleuret)

フェンシングの種目の1つ、フルーレでは頭部と両腕を除く胴体部分が有効面で、胴体には背中も含みます。有効面とは得点になる範囲のことで、圧力500グラム以上の「突き」に対して剣先のセンサーが反応し得点となります。

フルーレでは、先に攻撃を仕掛けた側に攻撃権が与えられるため、双方が有効面を同時に突いた時は、攻撃権のある選手だけにポイントが付与されます。防御側が相手の剣をたたいたり払ったりして攻撃を阻止すると、攻撃権が移動するルールです。

攻撃ー防御ー反撃ー再反撃といったスピーディーな攻防のやりとりや技の応酬が見どころです。

フルーレ剣は、全長110センチ以下・剣身90センチ以下・重量500グラム以下と定められています。柔軟な四角いブレード(剣針)の軽い剣が使われます。

種目②エペ (Epée)

エペの有効面は広く、頭からつま先まで全身すべてが有効面です。相手より先に有効面を突くとポイント取得です。エペでは、圧力750グラム以上の突きに対して剣先のセンサーが反応してランプが点灯します。

エペにはフルーレやサーブルのような攻撃権がなく、同時に突きが決まった場合(クードゥブル)は双方がポイントを取得します。

攻撃権がなく全身が有効面なので、いかに相手の意表を突くかといった駆け引きが多いのですが、シンプルなので初心者にもわかりやすい種目です。

エペ剣は全長110センチ以下・剣身90センチ以下・重量770グラム以下と定められています。三角形の断面で曲がりにくく、長い剣身を持ち、大きな丸いお椀型の鍔(ガルト)があります。

種目③サーブル (Saber)

サーブルでは両腕と頭部を含む上半身が有効面です。サーブル用の剣のセンサーは剣先ではなく剣身全体にあります。なぜなら、有効面への攻撃が突きだけでなく斬り(カット)もあるからです。

サーブルでは、フルーレ同様に攻撃権があります。ダイナミックな斬りの攻撃やスピード感が見どころです。

サーブル剣は全長105センチ以下・剣身88センチ以下・重量500グラム以下という規定。フルーレ剣よりも細身で断面がT字形です。

フェンシングの試合の種類と勝敗の決め方

試合では、上述した3つの種目が男女別に開催されます。試合形式は個人戦と団体戦の2種類です。ここでは、フェンシングの試合の流れやルールを簡単に説明します。

個人戦の予選プール

フェンシングの試合の勝敗は種目、または男女による違いはありません。個人戦の予選プールでは、1試合が3分間です。5ポイント先取で勝利となります。5ポイント未満で試合時間が終了した場合は、得点が多い方が勝利。同点の場合は延長戦になりますが、1分間1点先取となっています。

個人戦の決勝トーナメント

個人戦の決勝トーナメントでは、1試合が3分間x3セットの9分間です。15ポイント先取で勝利ですが、15ポイント未満で9分間が経過した場合は得点が多い方が勝利します。

同点の場合は1分間で1点先取の延長戦に。延長戦に入る際に抽選で優先権を決めます。延長1分間でも決着がつかない場合は、この時の抽選結果で勝敗が決まります。

団体戦

続いて、団体戦について解説していきます。1チームはそれぞれ3選手で、試合数は9つです。試合時間は1試合3分間で、9対戦あるのでトータル27分です。1対戦で5ポイント先取、もしくは試合時間終了で次の対戦に移ります。

9つの対戦を合わせて45ポイント先取したチームが勝利です。45ポイント未満で試合時間が過ぎた場合は得点が多い方が勝利。同点の場合は、1分間で1点先取の延長戦をおこない勝敗を決めます。

フェンシングの見どころ

実際に試合の様子をテレビ中継などで目にすると、フェンシングにはいくつもの魅力がある事に気づかされるでしょう。選手同士の駆け引きが見られる試合展開や、フェンシング特有の剣など、見どころを解説します。

スピーディーな試合展開

フェンシングの見どころの1つは、スピーディーな試合展開です。試合の1セットは3分間なので、あっという間。その短い時間の中で、選手同士の駆け引きが堪能できるところが大きな見どころです。

フェンシングの剣

フェンシングは剣技なので専用の剣を使用します。この剣も、大きな魅力の1つです。

先述の通り、突きのみのエペ、フルーレと、突きと斬りが認められたサーブルのように、種目別に剣の種類と名称が異なります。サーブルは、ハンガリーの遊牧民が使っていた馬上の武器がルーツ。フルーレは「レイピア」という戦闘用の武器が元になっているとされています。エペは、近代のフェンシングにおいて伝統的に使われていた決闘用武器に最も近い形の剣です。

どの剣も、現在では安全基準を満たしたもののみ使用可能となっています。剣先はもちろん、剣身部分も鋭利にとがらせたり、やすりをかけたりしてはいけないという規定があります。

フェンシングのトリビア

どんなスポーツであっても、トリビアを知っていると試合観戦がより楽しめます。いつ、どこで誕生したのか、スポーツの種目として競技化したのはいつからか、日本への伝来など、フェンシングの歴史やトリビアを見ていきましょう。

フェンシングの成り立ちは中世の剣技から

フェンシングの誕生は、中世ヨーロッパと言われています。当時のヨーロッパでは道徳や忠誠、武勇に、神への奉仕を重んじる騎士道精神が尊ばれていました。フェンシングは騎士達が自身の身、つまり名誉を守ることを重視して発達した剣技として磨かれ、発達してきたのです。

実際の戦いの場では銃火器が主流となる中で、剣を手にした美しく俊敏な動きは競技化へと傾いていきます。1750年には安全のための金網製マスクが開発されました。

細長いコートは城内を想定

ピストと呼ばれるフェンシングのコートは、フランス語で「滑走路」という意味です。その大きさは、幅2メートル×長さ14メートル。城内の廊下での戦いを想定した寸法という説があります。

日本への伝来

日本へフェンシングが伝わったのは、明治の初めにフランス人教官が片手軍刀術として陸軍戸山学校で教えたのがきっかけとされています。その後、1932年にフランス留学から帰国した岩倉具清が、スポーツとしてのフェンシングを大学生に伝えました。日本のフェンシングチームのオリンピック初参加は、1952年のヘルシンキ大会です。

第1回近代オリンピックからの正式種目

1896年にアテネで開催された第1回近代オリンピック以来、フェンシングは常に正式種目として選ばれています。1914年にIOC国際会議で統一的な「競技規則」が採用され、フェンシングの国際性が確立されました。規則が統一されたことにより、見解の相違などによる論争やトラブルが一気に陰をひそめたことも、フェンシング人気を高める一助になっています。

判定は人ではなく機械で行う

フェンシングは、判定方法が他のスポーツと大きく異なります。ほとんどのスポーツは「人の目(審判)」によって得点などを判定しますが、フェンシングでは「電気審判機」が得点を判定。

選手の持つ剣の先端にはスイッチが内蔵されていて、相手の有効面に触れると通電し、機械が攻撃の有効・無効を判定しているのです。

ただし、攻撃権の判断は機械ではなく、審判(人間の目)が判定します。

ルールを知ってフェンシング観戦を楽しもう

フェンシングはヨーロッパを中心に根強い人気があります。ここでは基本的な試合の流れや種目ごとのルールの違い、得点の加算方法や歴史などを解説しました。ルールを知って、フェンシングの試合観戦をより楽しんでみませんか。
公益社団法人日本フェンシング協会:https://fencing-jpn.jp/