「本当に自分がやりたいスポーツに出会える」「将来の選択肢が広がる」など、部活動改革で期待されるマルチスポーツとは?

中学校の部活動にやりたいスポーツがない、学校単位で活動することが難しい、などこうした問題の解決に向けて取り組みが進む「部活動改革」。令和8年の夏をもって公立中学校の部活動を廃止する静岡県掛川市の取り組みについてはJSPO Plusでも紹介してきました。 部活動改革では、総合型地域スポーツクラブやスポーツ少年団などが部活動地域展開の担い手となることで、複数のスポーツに取り組む(マルチスポーツ)機会が増えることを大きなメリットの一つと考えています。そこで、この記事では、マルチスポーツについて研究される筑波大学体育スポーツ局・体育系の大山高(おおやま たかし)教授に、マルチスポーツの特徴やメリットなどについてお話を伺いました。

目次

大山高(おおやまたかし)教授
筑波大学体育系教授・体育スポーツ局スポーツ事業部門 部門長/博士(スポーツ科学)
1979年生まれ。東京都府中市出身。ニュージーランド・クライストチャーチの現地高校を卒業し、立命館アジア太平洋大学に入学。2004年三洋電機株式会社に入社。本社ブランド戦略ユニットに配属され、自社のトップスポーツ協賛イベント(プロ野球サンヨーオールスターゲーム)や実業団チーム(ラグビーとバドミントン)の宣伝広報業務に従事。その後、Jリーグ・ヴィッセル神戸で営業、広報を担当。2009年に経営学修士号(立命館大学)を取得し、2010年より博報堂にてプロサッカービジネスに関わる。2017年に早稲田大学大学院スポーツ科学研究科博士課程を修了、博士号を取得。現在は筑波大学体育系教授。

1つの競技に打ち込むのが美徳と考えがちな日本のスポーツに対し、海外では一年に複数の競技をするのが常識。

JSPO Plus編集部

まずは大山先生がマルチスポーツを研究されるようになった経緯についてお聞かせください。

大山先生

これは私自身が中高生のときにニュージーランドで過ごした経験が大きく関わっています。海外(英国、米国、カナダ、オーストラリアなどのスポーツ先進国)では、一年を通じ複数のスポーツを経験するシーズン制でおこなうのに対し、日本の部活動をはじめとしたジュニアスポーツでは多くの場合、1つの競技に専念しておこないます。大学卒業後、スポーツに関わる仕事をするなかで、日本と海外のスポーツ環境の違いを再認識し、マルチスポーツについて研究してみようと思いました。
2023年にマルチスポーツに関する本を出版したのですが、タイミング的に国内の部活動改革の取り組みと重なり、“部活動改革の参考になる”と当時のスポーツ庁の室伏長官がお話されたことで「マルチスポーツ」というワードが広まったように思います。

JSPO Plus編集部

ニュージーランドではどのようにスポーツをされていたのですか?

大山先生

私は小学生の頃から野球が好きで中学では野球部に所属していました。中学生の途中からニュージーランドに行ったので、日本で毎日野球をしていた野球部の体験と、シーズン制で、半年間はサッカー、半年間はテニス、また半年間はバレーボール、半年間はバスケットボールといったふうに4年間に複数のスポーツをしてきた経験があります。
このシーズン制で複数のスポーツをすることに当時はすっかり馴染んでしまっていたのですが、このときの体験がいかに貴重で価値のあることだったか20年後に気づくわけです。そして、マルチスポーツという世界の子どもたちにとって当たり前の体験が、日本において新しい取り組みのアイデアになると考えました。

JSPO Plus編集部

海外では「マルチスポーツ」というワードはよく使われるのでしょうか?

大山先生

英語圏では、複数のスポーツをするのが当たり前すぎて敢えて「マルチスポーツ」という言葉が日常的に使われていませんでしたが、近年、米国やニュージーランドでのマルチスポーツに関する研究が盛んになってきているので一般的な用語として使われるようになっています。

JSPO Plus編集部

海外から見たときに日本の部活動はどのように思われているのでしょうか?

大山先生

日本では中学に入ると多くの生徒が運動部活動を選択してその競技に打ち込み、それが当たり前のように思われてきました。海外で「なぜマルチスポーツをするの?」と聞いたら、「なんでそんなことを聞くの」と言われます。日本の部活動のようにひとつの競技を集中しておこなうことは、例えば肘や肩など決まった箇所に負担がかかり、消耗してケガをするリスクが高まると考えられているので否定的です。科学的な根拠からマルチスポーツのほうが良いと主張していている彼らは、子どもたちにとって「多くの仲間たちや指導者に会える」「人生の選択肢が増える」「試合に出られて楽しいスポーツに出会う可能性が高くなる」という観点から話すので、日本の部活動の仕組みを話すと誰もが驚きますね。

また日本に限らずスポーツが盛んな先進国の部活動では、勝利至上主義による過度な練習や子どもたちへの精神的なプレッシャーなどが問題とされてきました。ある競技のプロ選手を目指して子どもが一生懸命練習に打ち込んでいる場合、「自分が決めてやりたくてやっているんだからいいのでは」、という声もありますが、その子どもたちの選択肢を増やすことも大人の仕事。“努力は裏切らない”、“一生懸命やれば必ず報われる”といったことを過度に煽り信じ込ませることは、それは「コーチングではなく虐待に近い」とまで指摘しています。
コーチングというのは、いろんなディレクションに自分の可能性を置いてあげること。“フラッグ”という言い方もしますが、コーチはフラッグ(旗)を置いてあげて、子どもたちが自発的にそれを取りに行けるようにしてあげる。“この道しかない”といういのは強制であってコーチングではありません。

JSPO Plus編集部

そういった問題は「スポハラ(スポーツハラスメント)」としてJSPO Plusでも取り上げてきました。

大山先生

ニュージーランドでも単一競技化が進み、国技であるラグビーの早期専門化が問題視されています。特にこの国では男子ラグビーのニュージーランド代表「オールブラックスの圧倒的な価値」が影響しています。また「サッカーやクリケットのほうが稼げる」という考え方が国民の間で広がってきてしまい、知名度が世界的に高いオールブラックスの選手になることや莫大な年俸が稼げるスポーツに専門化させる親たちが続出しているので「練習のやり過ぎ」、「指導者から子どもたちへのハイプレッシャー」がシーズン制部活動の仕組みの国ですら問題となっていることを知ってほしいです。つまり、スポーツハラスメントも含め、このような問題は日本だけが抱えることではありません。

マルチスポーツでは各競技の楽しさや、より多くの仲間や指導者、価値観などとの出会いが増える。

JSPO Plus編集部

マルチスポーツのメリットについて大山先生はどのようにお考えになりますか?

大山先生

マルチスポーツという考え方でシーズン制が採り入れられれば、複数の競技を体験することができ、その競技の楽しさや自分に合っているかどうかなどを知ることができます。そういった意味では、自分が本当にやりたい競技に出会うその選択肢が広がります。また、競技自体に限らず、それぞれの競技で出会う仲間や指導者、そこで学ぶ価値観などさまざまな出会いが増えることでメタ認知能力(自分の理解する認知活動を客観的に認知する力)が上がり、人生の選択肢が増える。子どもたちにとってウェルビーイングな環境に近づくでしょう。

日本の教育面でもメタ認知能力が重視され、小学校ではクラス替えが「1年に1回」があたりまえになってきていることや「算数などの科目によってはクラスを変える・先生も科目担当制」などがおこなわれるようになってきました。私が小学生だった頃はクラス替えは2年に1度でしたが、今は限られた期間にできるだけ多くの友達や先生に出会うことで、自己認知力(自分について正しく把握する力)を高めるようになっています。
こうした教育的な効果については現場で実践されているのに、スポーツにおいては依然として古い体質のまま。部活動改革は、日本の独特なスポーツ文化を考えるいい機会だと思っています。

他にもマルチスポーツのメリットとして、さまざまな競技をすることで限られた箇所の消耗が減るのでケガのリスク軽減や、バーンアウト(燃え尽き症候群)抑制なども期待されています。これらのメリットについては科学的根拠に基づく情報発信が米国、カナダ、ニュージーランド、英国等のスポーツ先進国でかなり多くなってきましたね。

JSPO Plus編集部

日本のスポーツが独特なのは、やはり部活動があるということでしょうか?

大山先生

部活動の顧問の先生方も教育面の学校現場の制度改革については納得されていても、部活動の現場でユニフォームを着ると別のスイッチが入ってしまうことが多いかもしれません。日本の部活動のように週6でおこなっていればその競技の競技力は確実に上がるでしょう。ただし、週6だと他のことが失われるし、先生たちも疲弊しますよね。ですから、私が強調したいのは「バランス」ということなんです。

JSPO Plus編集部

バランスというワードは興味深いですね。

大山先生

競技力向上のためにフィジカルのバランスはもちろん大切ですが、他にもメンタルや社会性のバランスがあります。自分が将来何になりたいかと考えることは、メンタルや社会性に近いバランスだと思います。こうしたバランス感覚を、部活動や体育の授業で教わる機会がもっと増えていくと良いと感じています。ニュージーランドではすでに学校教育の中で「ウェルビーイングを高める教育(名称:ハウオラ)」が導入されており、「スポーツの関わり方」が極端にならないように、日常的にバランスが重要である教育を重視しています。ちなみに私がニュージーランドにいた頃にはこのようなウェルビーイングの教育はありませんでした。

JSPO Plus編集部

改めてマルチスポーツの定義についてお聞かせください。

大山先生

学術的に言うと定義は定まっていません。国によっても違います。わたしたちがスポーツ庁と一緒に考えているところで言えば、“一年間のうちに複数のスポーツを体験すること”というのが共通認識となっています。難しいのは同時期に2つの競技をするのもマルチスポーツですし、シーズン制のように半年ごとに別の競技をするのもマルチスポーツということです。

JSPO Plus編集部

それぞれの効果というか、目的は同じなのでしょうか?

大山先生

同時期に2つの競技をするのも、シーズン制のように半年ごとに別の競技をするのも目的は同じで、要はバランスをとることが重要だと考えています。ウェルビーイング(一般的に個人の権利や自己実現が保障され、身体的・精神的・社会的に良好な状態であること)の文脈で言うとキャリアウェルビーイングという言葉に近づきますが、今の部活動の仕組みはピークを目の前の大会に持っていき過ぎているように思います。

中学の部活動で実際に活動できる期間は約1年半です。1年生のうちはなかなか試合に出られませんし、2年生になって出られたり出られなかったりで、3年生になると夏ごろまでには最後の試合を終えて引退となります。なかには、その子の先のキャリアを考えてやりたいことを引き出してくれる指導者もいますが、こうしたウェルビーイングの考え方に持っていかないと生涯スポーツになっていきません。

ニュージーランドで複数の競技をすることで「自分はこんなにスポーツができるんだ」ということを実感。

JSPO Plus編集部

大山先生のスポーツ体験についてお聞かせください。

大山先生

冒頭でも言いましたが、私は小学生の頃から野球を始めて、今でも野球が一番大好きです。私自身、早期専門化(主に18歳以下の子どもが幼少期から複数のスポーツを経験せず、特定の競技だけに特化して8ヵ月以上取り組むこと)の経験もしていますし、いっぽうでニュージーランドではシーズン制で複数の競技を体験することができました。

ニュージーランドでサッカーやテニスをしたときに「自分はこんなにスポーツができるんだ」ということに気づきました(笑)。特にサッカーは3軍まであったなかで、当時中学3年生の私が、高校3年生たちの一軍でレギュラーになれたのです。
テニスは先生から、サーブを入れるためにはスライスをかけて山なりのサーブを打つように教わりましたが、野球をやっていたのでスライスのかけ方が変化球を投げる感覚に近く、すぐにサーブを打てるようになりました。これは感動しましたね。

JSPO Plus編集部

大山先生はもともと運動やスポーツが得意だったのですね。

大山先生

特別得意だとは思っていませんでした。日本にいるとき野球部では補欠でしたし。ですが、補欠だったからいろんなポジションを経験して、補欠だったことがニュージーランドでの運動体験に活かされたように思います。
野球が好きで、自分には野球しかないと思い込み、当時は試合に出られないつまらなさを当たり前に我慢していました。ところが、ニュージーランドでいろんなスポーツをするうちに、つまらないことを我慢してやるくらいなら、他に自分が得意なものを見つけてそれで活躍したほうがその競技を好きになるだろうし、生涯スポーツにもなるだろうなということに気づくことができました。

JSPO Plus編集部

野球の経験が活きたことの他に、スポーツを楽しむ環境があったということでしょうか?

大山先生

サッカーにしてもテニスにしても、始めたばかりでもある程度できました。試合にも出られたので楽しかったですね。日本では当たり前に補欠の文化がありますが、これは日本独特の文化で世界的には全員が試合に出るような仕組みになっています。
私の場合、ニュージーランドに行って「自分はこんなにできるんだ」と思えたことで、よりスポーツを楽しめましたし、高校3年のときにはSPORTS MONITOR(スポーツ模範生)という、さまざまな競技や種目ができる人に与えられる称号までいただきました。

目先のところにピークを設定しない。これもマルチスポーツの大切な考え方なんです。

JSPO Plus編集部

大山先生の本を読んで、アメリカではMLB(米国プロ野球リーグ)とNFL(米国プロアメリカンフットボールリーグ)の両方から1位指名を受けた選手がいると知り驚きました。

大山先生

アメリカのカイラー・マレー選手は、史上初MLBとNFLから一巡目指名された本当にすごい選手ですが、海外では双方のドラフトに選ばれる選手は結構います。さらに、ドジャースのムーキー・ベッツ選手はボウリングの現役プロボーラーとしても活躍していますし、NBAのステフィン・カリー選手はバスケットボールだけでなく、野球やアメリカンフットボールをして育ったことでも有名です。
MLBとNFLの両方からドラフト指名されていたり、オリンピック選手が2種目以上の代表になっていたり、こうした話をするとみなさん驚かれますが、その感覚こそ世界的なスポーツの流れに日本は相当遅れているなと感じてしまいます。

JSPO Plus編集部

MLBで活躍する日本人選手は確実に増えてきていますね。

大山先生

日本人選手たちの活躍もあって「日本人が野球で成功している」と思われがちですが、ドジャースを例に見ると大谷翔平選手、山本由伸選手、佐々木朗希選手は目立ちます。しかし日本の人口約1億2千万人、さらに言えば日本の野球人口を考えると、もっと日本人メジャーリーガーがいてもおかしくありません。そう考えられないのが今の日本の現状なんだと思います。

JSPO Plus編集部

そういったお話を聞くと、選手としてのピークやスポーツとの関わり方が日本とは大きく違うことがわかります。

大山先生

アメリカでは、プロのアメフト選手が第2のキャリアでメジャーリーガーに転身してそこで選手生活を終えることがありましたが、今は第3のキャリアとしてメジャーリーガーの次にラグビーでワールドカップに出場する選手まで出てきています。
また、ニュージーランドのオールブラックスの選手は冬にラグビー、夏の時期にはプロのクリケット選手として1億円を稼ぐアスリートの光景がもう30年も前から存在する話で、こうした情報をもっと皆さんに知ってほしいですね。

JSPO Plus編集部

海外の選手たちが長いスパンで選手生活のプランを考えるのに対し、日本では目先の栄光を目指してしまう傾向にあるのですね。

大山先生

そうですね。目先のところにピークを設定しないのがマルチスポーツの大切な考え方なんです。こうした考えから、中体連はゆくゆく全国大会がなくなることもあり得ることを想定して全国大会のあり方について議論されていますね。

できないことに出会って、工夫する、夢中になる。 マルチスポーツの意義を伝えるために「アカデミー」を開催。

JSPO Plus編集部

筑波大学さんにはマルチスポーツを実践する場として、「スポーツアカデミー」を開催されていますがその活動についてお聞かせください。

大山先生

筑波大学ではマルチスポーツを研究していくために、「スポーツアカデミー」という実践する場を設けています。当初は、今日はハンドボールをやってみた、今日はラグビーをやってみたという体験することが大事だと思っていたのですが、いろんな国の人たちと1年間、スポーツ庁との取り組みの研究を推進した結果、「これはマルチスポーツではない」と言われました。
例えばバドミントンをするときに、ある子はシャトルを打つことができるのに、ある子はラケットに当たりもしない。そこで「なぜだろう?」と考えて、ラケットにシャトルが当たるようにするための全身運動を促進させることにマルチスポーツの意義があると言うのです。実際、子どもにただバドミントンを体験させただけでは、バドミントンをやってみた…できなかった…という感想しか残らないのです。

JSPO Plus編集部

ではその場合、「バドミントンをやってみよう」ではなく、「シャトルをラケットに当ててみよう」というふうに導くのでしょうか?

大山先生

そうですね。まずはシャトルがラケットに当たることを楽しむゲームのような感覚で、いろいろな運動や動きをマルチスポーツというふうに考案しないと、子どもたちはスポーツを嫌いになってしまいます。
マルチスポーツでは、どのスポーツを体験しても、楽しみながら運動能力を向上させるようなスポーツプログラムを考えることが大事だと教わりました。

JSPO Plus編集部

目標は競技力の向上になるのでしょうか?

大山先生

いえ、そう思われがちですが、私たちが目指しているのは競技力の向上ではなく、やってみて楽しいと思える、子どもたちが夢中になれることなんです。アカデミーでは、体操、陸上競技、ダンス、ハンドボールをバックボーンに持つスタッフがいますが、例えばドッジボールをやろうとしたとき、ボールに馴染みのない体操、陸上競技、ダンスのスタッフが中心となって、どうすれば子どもたちが楽しめるかプログラムを考えます。誰でも楽しめるように工夫しながら、できないことをできるようにする。そこにマルチスポーツの意義があり、スポーツアカデミーはそのことを伝えるために立ち上げました。

JSPO Plus編集部

「これはマルチスポーツではない」と誰から言われたのですか?

大山先生

スペインのアスレチックビルバオで育成に携わるランデルさんという方です。ビルバオはラ・リーガ(スペイン、プロサッカー1部リーグ)のクラブで、そこでジュニアの子たちのスポーツ教室を見るとサッカーボールを全く使っていません。いきなりリフティングやドリブルはできないから楽しくないわけです。だから彼らは鬼ごっこのような簡単に楽しめる独自のプログラムを用意して、子どもたちの興味を引き出しています。

JSPO Plus編集部

スポーツアカデミーでは具体的にどんなことをされているのですか?

大山先生

体操、陸上競技、ダンス、ハンドボールの4種目あって、以前はこの4種目を一通りやりましょうと言っていましたが、今では今週は体操、次の週は陸上競技と週ごとに種目が変わりますが、毎回次の種目に“つなげる”ための動きを考えて指導していくようにしています。それぞれの競技をやりましょうというよりも、何かできるようになりましょうと呼びかけています。

マルチスポーツは「スポーツサンプリング」という言い方もしますが、体験だけだと物足りない。やっぱりある程度続けないとできないことをして「なんでできないんだろう?」と自分で考えさせる時間というのも必要だと考えています。
ちょっと体験して、これは好き、これは得意というだけではなく、マルチスポーツのシーズン制のいいところは、できない時間を過ごすことで思考力、工夫する力が上がります。そのためにも「できないことに出会う」ことが大事なわけです。

JSPO Plus編集部

生徒募集の際、「マルチスポーツ」という言葉はどのように受け取られたのでしょうか??

大山先生

いきなり「マルチスポーツコース開講」と言っても「何それ?」とという感じで、最初はマルチスポーツという言葉を推し過ぎてしまいました。
チラシの表現も検証を重ねた結果、マルチスポーツという言葉はサブタイトルにあればいいんだと気づき、キャッチコピーを「ここに来たら自分の夢中が見つかる!」としたら、応募が劇的に増えました。

文武両道より文武不岐。勉強とスポーツが重なり合うから、やることが1つになるんです。

JSPO Plus編集部

日本には「文武両道」という言葉がありますが、マルチスポーツの考えもこれに近いのでしょうか?

大山先生

筑波大学では文武両道よりも文武不岐(ぶんぶふき)という言葉を重んじています。筑波大学は一般入試で運動部活動に入ってくる学生が85%、2000人いる学生アスリートのうち推薦入試はわずか15%です。それでもスポーツが強い。
文武両道は勉強とスポーツを2つの道で考えさせるため、勉強する時間とスポーツをする時間をそれぞれ確保しなければなりません。いっぽう文武不岐は勉強する時間もスポーツの一部、スポーツをする時間も勉強の一部と考え、重なり合うからやることが1つになるんです。

JSPO Plus編集部

文武不岐の考えによって他にどんな効果が生まれますか?

大山先生

例えば筑波大学の硬式野球部には部員が約150人いますが推薦組はごくわずかです。9割の選手たちが一般入試で入ってくる学生で彼らが推薦組と交わると文武不岐が起こります。
面白い話があって、自分たちの合理的なデータで自分のスキルを上げようとする一般入試組と、感性でプレーする推薦組が交わると、推薦組も刺激を受けデータにこだわり始めるんです。そうした相乗効果もあって、筑波大学硬式野球部は昨年の首都大学野球秋季リーグでも優勝を成し遂げました。

文武不岐のように“重なる”ことが大切と考え、私たちは競技の垣根を越えて、さまざまな競技の学生アスリートたちと一緒にセミナーや研修を受講させるようにしています。ここでもマルチスポーツ思考のメリットとして社会性や全体的なバランス感覚も良くなり、お互いの考え方や立場に目線を合わせ自分事として捉えられるようになるため、マルチスポーツという考え方を用いて、組織のリーダーを輩出していく取り組みも始めています。

こうして複数の円が重なっていくので、私が見てきた学校では、スポーツができる子は頭がいい。スポーツができる子でさらに優秀な子は音楽や芸術に親しむ傾向にあります。

JSPO Plus編集部

マルチスポーツを提供される上で心がけていることなどありますか?

大山先生

結局やり過ぎると良い効果は得られません。競技数で言うと海外では3~5の競技を経験することがウェルビーイングを高めると言われています。保護者や指導者の方には、正しい情報を収集する努力をしていただきたいということを伝えています。

JSPO Plus編集部

最後にマルチスポーツの取り組みにおいてJSPOに期待することはなんですか?

大山先生

マルチスポーツの対象も、多世代・多志向・多種目です。総合型地域スポーツクラブなど、日本は比較的スポーツをする環境が整っているので、ぜひ多くの方にマルチスポーツの良さが伝わるといいなと思います。

JSPO Plus編集部

ありがとうございました。
(参考リンク)

部活動改革に関する過去の記事
・子どもたちのやりたいスポーツをやりたいかたちで。「運動部活動改革」を契機に、JSPOが目指すジュニアスポーツの環境整備に向けた取り組み。 
https://media.japan-sports.or.jp/column/134
・子どもたちが望むスポーツを。令和8年夏に向け部活動改革を進める静岡県掛川市の取り組み。
https://media.japan-sports.or.jp/column/152
・静岡県掛川市の部活動改革!子どもたちがやりたい種目を楽しむ「地域クラブ」の活動を現地取材。
https://media.japan-sports.or.jp/column/153
スポーツ少年団でもマルチスポーツを実践している団があります
スポーツを通じて、社会のルールを学び思いやりのこころを育む。-スポーツ少年団-
https://media.japan-sports.or.jp/column/88