静岡県掛川市の部活動改革!子どもたちがやりたい種目を楽しむ「地域クラブ」の活動を現地取材。

「JSPO Plus編集部」は静岡県掛川市の教育委員会を訪れたのち、実際の地域クラブ(令和8年夏「かけがわ地域クラブ」となる市公認地域クラブ)の活動現場を2ヵ所見学しました。
最初の行き先は、サッカー部がない学区の生徒のためにスポーツ少年団が母体となって設立された「FC掛川South」。2つ目は、やってみたいスポーツとして人気が高いものの市内に部活動がなかったため既存クラブの対象年代をひろげ、誰でも参加できるかたちで設立された「掛川WINGバドミントンクラブ」。
そこには、やりたいスポーツをたのしむ子どもたちと、それをサポートする指導者たちの姿がありました。
サッカーを続けたいのに、それができない状況をなんとかするために、少年団を母体とした地域クラブ「FC掛川South」を創設。
ところが、市内の9中学校のうちサッカー部があるのは北部にある4つの中学校だけ。南部の中学生もクラブチームでサッカーをするという選択肢はありますが、セレクションがあるため、希望しても全員が入部できるわけではありません。
“スポーツ少年団を母体にしたクラブとして設立され、部活動を引き受けた”かたちの「FC掛川South」は、南部の子どもたちにとってまさに待望のサッカークラブ。活動の現場に伺い、指導者の方や保護者の方たちにお話を伺いました。
サッカーをやりたい子どもたちに、こうした受け皿があるのはすごくいい。(FC掛川South監督 杉谷さん(公認D級コーチ))
私自身、サッカーが好きで小学1年生からやっていて、今も社会人チームで自分もプレーヤーとしてやっています。自分自身も進んだ中学校にもサッカー部がなく、やむなくバレーボール部に入ったものですから、こうして地域で活動できるサッカークラブの話を聞いて、自分も指導に関わりたいと思いました。
指導の経験としては、もともと息子が地元の少年団でサッカーをしていて、そこでコーチとして関わるようになって、指導者と審判の資格もとりました。


実際に活動されてみて「FC掛川South」の良さはどんなところにあると思われますか?
そうですね、ここにいる子どもたちはもともと地元の少年団のチーム出身の子と、隣町のチームの子たちが多くいて、中学校で言うと3つの中学校の子どもたちが集まっています。サッカーができることはもちろん、中学校が違うとなかなか交流がないので、そういった交流の場としてもいいと思います。


令和8年の夏に部活動が廃止になることについてはどのようにお考えですか?
私の場合、中学校にサッカー部がなかったのでバレーボール部に入りましたけれども、「部活動」がなくなるのは少し寂しい気がします。ただし、こうして“やりたい種目”ができる、サッカーをやりたい子どもたちに、こうした受け皿があるのはすごくいいと思います。
ジュニアユースなどのクラブチームだとセレクションがあるので、サッカーが好きでも技術がないため入れないという子たちも出てきてしまいますから。


ありがとうございました。
自分たちの同世代の人たちができなかったこと、ずっとやりたかったことが今ここでできる。(FC掛川Southコーチ 中井さん(公認C級コーチ))

中井さんはどういった経緯で「FC掛川South」の指導にかかわるようになったのですか?
子どもが小学校でサッカーを始めたとき、最初は送迎だけをしていたのですが、自分も楽しみたいな、と。コーチで入ることでサッカーをもっと好きになれると思い、指導者のライセンスをとりました。


「FC掛川South」の良さはどんなところにあると思われますか?
コーチを引き受けたのは、自分がここ(活動拠点となっている大渕小学校)の出身だからということがあります。子どもの頃、ここの小学生たちが入っていた「大須賀SSS」に自分も所属していました。ですが中学校にサッカー部がないので、中学に入るときに全員サッカーをやめてしまう。そのときの思い出がずっと残っているんです。
実は僕たちが中学校に入ってからサッカー部をつくろうという動きがあったのですが、それでも部はできませんでした。
今回、「FC掛川South」という地域クラブは、自分たちの同世代ができなかったこと、ずっとやりたかったことが今ここでできるという嬉しさもあり、それに少しでも自分が協力できたらという思いで指導に関わっています。
ここができたことで地域にとってもサッカーを続けられる子どもたちが増えたことが何より良かったと思っています。


ありがとうございました。
誰でもサッカーを続けられるし、活動場所が近いのも助かります。(保護者の方)

地域クラブ「FC掛川South」を立ち上げた掛川市の取り組みについてどう思われていますか?
うちの息子は小学校の頃からスポーツ少年団に入っていましたが、中学校にはサッカー部がないので、サッカーを続けるにはクラブチームに入るしかありません。ですがセレクションで落ちてしまって…。新しくできたセレクションがないチームに入ったのですが、子どもたちの人数が集まらないという理由で活動停止になってしまいました。
そんななか、地域クラブとして「FC掛川South」ができてくれたことで、息子も地域でサッカーを続けていくことができるのですごく有難く思っています。


「FC掛川South」のいいところはどんなところでしょうか?
クラブチームだといろんな学校の子どもたちが集まってきます。うちの子は社交的な性格ではないので、溶け込むのが難しい面もありましたが、ここは小学生の頃にスポーツ少年団で一緒にやっていた子どもたちもいるので、うちの子としてはやりやすいと思っています。活動場所も自宅から近いので、送迎の面でも助かっています。


ありがとうございました。
【サッカーを楽しむ子どもたちのコメント】
バドミントンがやりたい!という子どもたちのニーズに応えた地域クラブ「掛川WINGバドミントンクラブ」。
「掛川ウイングバドミントンクラブ」設立までの経緯などについて、クラブの代表であり、ご自身もシニアの大会でプレーヤーとして活躍されている鈴木さん(JSPO公認バドミントンコーチ2)にお話を伺いました。
自分のレベルや志向に合わせてバドミントンを楽しめる環境づくりを。

「掛川WINGバドミントンクラブ」はどういった経緯で立ち上がったのでしょうか?
もともと2020年に「羽の風」というバドミントンクラブをスタートし、そこで小学生を教えていました。ところが掛川市の中学校にはバドミントン部がないものですから、その子たちが中学生になると活動する場がなくなってしまう。「羽の風」はその受け皿として中学生も受け入れていました。
その後、令和8年の夏に中学校の部活動がなくなるということを聞いて、競技志向の「羽の風」だけではカバーしきれないと思い、市のスポーツ協会と話をして、初心者から活動ができるクラブを新たに立ち上げましょうということで「掛川WINGバドミントンクラブ」をつくりました。


現在、何名くらいの中学生が活動しているのですか?
2022年の10月から、今(2024年12月の取材時)中学2年生の子たちが小学校6年生のときからプレスタートという形で受け入れを開始して、中学2年生が13名、1年生が8名合わせて21名の子どもたちが活動しています。


「掛川WINGバドミントンクラブ」の特徴について教えてください。
「羽の風」のほうは競技志向の子ばかりなので、子どもたちのやる気がそのまま出ています。「掛川WINGバドミントンクラブ」のほうは、楽しさを優先させている子もいて、まだバドミントンが自分に合っているのかどうか、そういったことも考えながらやっているんだと思います。
中学校で、卓球部や陸上部、吹奏楽部など部活動をしながらここでバドミントンをしている子もいますし、途中でやめる子も、途中から入ってくる子もいます。
2023年度は、新1年生だけの状況からのスタートでしたから、このクラブをまとめる上において、はじめに団体で行動することや挨拶、礼儀など、そういったことをこちらから教えていきました。


掛川市が令和8年の夏に中学校の部活動廃止を打ち出したことについては、どのようにお考えですか?
学校の先生たちの負担を減らすことも目的の一つでしょうから、それによって先生たちの生活自体がラクになってもらえたらいいですね。あとは少子化もあり、団体競技の場合、1つの学校だけでは人数が足りないといった問題もあります。ここ(クラブ)のようにいくつかの中学校の子どもたちが集合してやるというのも、時代の流れに沿っているのかなと思います。


それにしても、バドミントンは子どもたちに人気ですね。結構、小学生のうちから始める子どもが多いですか?
バドミントンは端から見てると気楽にできそうとか、簡単そうだと思う子が多いのでしょうね。ですが運動量はかなりハードでそのギャップに驚く子もいます。
小学生たちは月曜日の夕方の時間帯に「かけスポジュニアバドミントン」というクラブがあり、小学3年生から6年生までだいたい26人くらいが活動しています。子どもたちはここでバドミントンの楽しさを覚えて、中学生になったら「掛川WINGバドミントンクラブ」か「羽の風(小5から加入可)」かで分かれます。
他にも「Hero’s」や「掛南バドミントン」というクラブもあって、そちらを選択する子たちもいますね。


小学校からやってきた種目を中学校に行っても続けられる、自分がやりたいことがやれることは子どもたちにとってすごく大切なことだと思います。
そうですね。もともと北部のほうにはバドミントンクラブがいくつかあって、南部のほうは少なかったのですが、私の仲間が「掛南バドミントンクラブ」をつくって、今は30人くらいいるのではないでしょうか。週に1回の子と、週2回やる子と時間割りをつくってやっています。
北部でも、楽しくバドミントンをするなら「掛川WINGバドミントンクラブ」、より高いレベルでやるなら「羽の風」と自分たちの志向性に合わせて選べるのもいいことだと思います。


今後の課題などについてお聞かせください。
指導者の確保ですね。私はもう仕事を引退していますが、他のコーチたちは仕事をしているので、残業などで急に来られなくなることもあります。大学生のコーチも2人ぐらいいたのですが、3、4年生になると就職活動などで忙しくなるので続けられなくなってしまいます。ですから、できるだけ毎回担当できる指導者を増やしたいと思っています。


ありがとうございました。
【バドミントンを楽しむ子どもたちのコメント】
小学生の頃は特にスポーツはしていなくて、中学校ではやりたいと思う部活動がなかったのでここに入りました。試合とかするのが楽しいです。(中学2年生、女子)
友だちが体験に行くと言ったので一緒について行って入りました。ここで知り合って仲良くなった友達もいます。(中学2年生、女子)

思えば約40年以上前、筆者が中学校に入学し部活動を選ぶときは、中学校にある種目の中から選ぶことになんの疑問も持っていませんでした。今では種目が増え、スポーツの楽しみ方が広がる一方で、その多様化や少子化問題などによって、やりたい種目ができないという状況が起きています。
こうした問題にいち早く取り組み、改革の道筋をたてた静岡県掛川市。今回、子どもたちが地域クラブでサッカー、バドミントンを楽しむ様子を見て、スポーツを楽しむためには、指導者や、スポーツ協会、教育委員会、スポーツ少年団、総合型地域スポーツクラブなど、「ささえる」人たちの存在が重要であると感じました。
JSPOも、運動部活動の受け皿となる組織(スポーツ少年団、総合型地域スポーツクラブ)を積極的に育成し、部活動改革に貢献していきます。
スポーツ少年団について(JSPO 公式HP)
▶https://www.japan-sports.or.jp/club/tabid66.html
総合型地域スポーツクラブについて(JSPO 公式HP)
▶https://www.japan-sports.or.jp/local/tabid67.html
本記事の前編では、掛川市教育委員会を訪れ、部活動改革の経緯や想いを紹介していますので、こちらも是非お読みください!
https://media.japan-sports.or.jp/column/152
運動部活動改革 特集ページ(JSPO 公式HP)
▶https://www.japan-sports.or.jp/tabid1377.html
JSPO Plus別記事 「運動部活動の地域移行で、子どもたちの望む未来へ。JSPOは資質能力を備えた「スポーツ指導者」の育成を推進します」
▶https://media.japan-sports.or.jp/column/101
JSPO Plus別記事 「JSPOが行うスポーツ環境整備とは。世代・技術・地域を越えた取り組みについて解説」
▶https://media.japan-sports.or.jp/column/66
JSPO Plus別記事「子どもたちのやりたいスポーツをやりたいかたちで。「運動部活動改革」を契機に、JSPOが目指すジュニアスポーツの環境整備に向けた取り組み。」
▶https://media.japan-sports.or.jp/column/134
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どういった経緯で「FC掛川South」の指導にかかわるようになったのですか?