【柔道 角田夏実選手インタビュー】戦っているときが一番楽しい!辞めたいときもあったけれど、今はやっぱり柔道が好き。

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【柔道 角田夏実選手インタビュー】戦っているときが一番楽しい!辞めたいときもあったけれど、今はやっぱり柔道が好き。
相手に「わかっていても防ぎきれない」と言われるほどの巴投げを最大の武器として、パリ2024オリンピックの柔道女子48キロ級で金メダルを獲得した角田夏実選手。
2019年に52キロ級から48キロ級に階級を変更したことでメキメキと頭角をあらわし、2021年から2023年まで世界選手権を三連覇。パリ2024オリンピックでは、東京2020オリンピックでは叶わなかった代表入りを果たし、見事に栄冠を手にしました。
これまで何度か柔道を辞めようとしたものの、家族や先生たちに支えられながら続け、今では本当に柔道が好きという角田選手にお話を伺いました。

もともと体を動かすのが好き。最初は柔道というよりも体を動かすのを楽しんでいた感じ。

--柔道を始めたきっかけは?

小学2年生のときに、整骨院を経営していた父に誘われて始めました。私には5歳上に姉がいるのですが、私は姉と違ってメンタルが弱く、いつも「学校に行きたくない」などと言っていたので、親が柔道をさせようと思ったようです。
父も柔道をしていたので教えてもらったり、地元の八千代市の警察署で柔道を習ったりしていました。そこでは、低学年と高学年で分かれて練習をしていて、低学年の頃はいきなり柔道というのではなく、前転や後転をしたり、ちょっと打ち込みをしたりする程度で、体を動かすことを楽しみながらやっていた感じです。

--柔道は自分に合っていると思いましたか?

私はそれほど気が強いほうではないのですが、負けず嫌いだったりやんちゃなところがあったりするので、そういったところでは合っていたのかなと思います。
柔道を始めた頃は楽しかったのですが、高学年になるにつれ男女の体力差が出てきて勝てなくなってしまい、柔道が楽しくなくなってしまいました。「柔道を辞めたい」と言ったところ、母に「せっかくここまで続けたんだから黒帯までとったら」と言われて、中学でも続けることにしました。

--柔道以外には何かされていましたか?

もともと体を動かすことは好きで、柔道より前に、小学1年生の頃から水泳をしていました。水泳は一通り泳ぎを覚えて、小学校の高学年で辞めましたが、体力や筋肉を付けるのに役立ったように思っています。

試合の前はいつも怖いので、好きな漫画を読んで気持ちを奮い立たせています。

パリ2024オリンピック決勝戦で巴投を繰り出す角田夏実(写真:©フォート・キシモト)

--パリ2024オリンピックで金メダルを獲得したときはどんなお気持ちでしたか?

あのときは、本当に柔道を諦めずにやってきて良かったなという思いと、ほっとしたという思い、たくさんの人に応援してもらっていたので、これで胸張って日本に帰れるなという思いなど本当に色々な感情がありました。
前回大会は出られなかったですし、一人だと諦めてしまいたくなることもあったけれど、本当にいろんな人の支えがあったからこそここに来ることができたんだなと思いました。

--試合の前はどんなお気持ちでしたか?

試合の前はめちゃくちゃ怖いです。今回のオリンピックは特に怖かったですよ。試合直前とかではなく、だいぶ前からもう怖くて、「試合したくない」とコーチにこぼしていました(笑)。
ただ、私には「修羅の門」という好きな漫画があるのですが、そのなかに「怖くない奴なんていない。逃げないことが大切だ」というセリフがあって、武術の達人である主人公もそう思うのだから私も逃げちゃダメだと。怖くても戦う準備はしっかりして試合に臨もうと、試合前にはこの漫画を読んで気持ちを奮い立たせています。
大学生の頃から読んでいて、ルーティンというか特に怖くなったときに読むという感じで、パリの前にもしっかり読んでから行きました。

俳優の堂本光一さんにお会いする機会をいただいたときに、「試合前は怖い」という話をしたら、あれだけステージに立たれている堂本さんも、どれだけ練習しても、何回経験してもステージに立つ前は怖いと。それでもやるしかないから、腹をくくって練習しているとおっしゃっていましたが、やっぱり最後は、いかに自分を信じられるかということなんだなと思いました。

--団体戦にも出場されていましたが、いかがでしたか?

私は48キロ級なので団体戦で起用されることはほとんどありませんが、パリ大会では団体戦メンバーとして戦うことができました。団体戦はチームでみんなが一緒に戦っている感じがして、すごく新鮮な経験となりました。
決勝のフランス戦は負けてしまいましたが、悔しい想いも個人戦のときとはまた違った悔しさがあって、やっぱりみんなで優勝したかった…。戦っている選手のことをみんなで応援して、もちろん勝ってほしいですけれど、とにかく力を出し切ってという気持ちでした。こうした悔しい想いというのは、今後に活かしていけると思います。

--角田選手と言えば「巴投げ」。団体戦では2階級上の選手から鮮やかに一本を取りましたが、巴投げのこだわりについてお聞かせください。

巴投げは捨て身技なので、技としてしっかりかかっていないと認められず、技をかけた人が逆に不利な状況になってしまうことがあります。なので、しっかりと相手を持ち上げることを意識して、自分が投げにいっているという姿勢を出すことが大切です。
ただ私の場合は寝技を得意にしているので、巴投げが決まらず相手が上から攻めてきたとしても寝技に引き込めるので、捨て身技のリスクがないというのが強みと言えます。

お互いに畳を降りるまでは感情を出さない。柔道におけるフェアプレーの精神。

--柔道の選手は畳を下りるまでは、笑ったりガッツポーズをしたりしませんね

そうですね。柔道では始まりと終わりに相手にしっかりと礼をします。畳の上では笑ったり、ガッツポーズをしたりすることはよくないこととされているので、試合が終わって相手と一緒に畳から降りるまでは、感情表現を出さないようにしています。
勝つ人がいれば負ける人もいるわけで、たまたま今回は私が勝ったというだけのこと。相手には負けて悔しいという想いがあるでしょうし、勝って喜ぶのは後でいい。お互いに積み上げてきたものがあるので、勝ったからといって喜びをあらわにせず、相手をリスペクトする気持ちを持つことを学びます。

--フェアプレーを対戦相手や仲間に感じることはありますか?

試合が終わるとたいていの選手はしっかり握手をしてくれて、「おめでとう」と言ってくれる選手もいます。表彰式のときには、もうみんなが笑顔で「あなたと試合ができてよかった」と健闘を称え合います。みんな頑張って、勝ち負けはどうしてもついてしまいますが、それでもお互いに戦えてよかったと思える気持ちはすごく大事だなと思います。

フェアプレーはやっぱり相手を思いやる、ということ。相手がいて、練習や試合が成り立っているので、相手に感謝の気持ちを込めて思いっきり戦うということではないでしょうか。

いろんな人たちに支えられて今がある。柔道を続けてこられたことに感謝です。

--支えてくれた存在として感謝を伝えたい人は?

いっぱいいますけれど、まずは両親と姉ですね。私が社会人になったときは一応プロとはいえ、強化選手ではなかったですし、その頃は怪我の手術もして成績も出せていなかったので、収入がとても低かったんです。
そのときに、東京に住めるように親が家賃など金銭的なサポートしてくれたおかげで、今も柔道を続けられているわけで、社会人になっても親に甘えてしまった部分があるので今は少しでも恩返しがしたいですね。
好きなものを仕事にするというのはなかなかできることではないですし、こうやって柔道に専念させてもらっているということには本当に感謝しています。

また、今井コーチは本当に気持ちでぶつかってくれて、お互い言いたいことを言い合える頼れる存在です。二人で飲みながら、ときには泣いたりもしますが、“私はこう思う”というのをすごくはっきり言ってくれて、私がちょっとブレたりするとしっかりと正してくれます。
52キロ級から48キロ級に転向しようとしたときも、「挑戦しないで後悔するより、挑戦したほうがいいよ」と言ってもらって階級変更に踏み切りました。

--恩師の方から受けた影響などはありますか?

大学(東京学芸大学)の柔道部では先生が「柔道を楽しめ」という方でした。自分を尊重してくれるというか、これが正しいというような練習法ではなく、やる練習全てが面白い。興味を持って練習に取り組むようになり、そこから柔道がより楽しくなりました。
高校時代の先生には、もう柔道を辞めたいと言ったときに、「続けた方がいい」と言っていただいて。パリ2024オリンピックが終わって、今までの柔道人生を振り返ったときに、あのときあの言葉がなかったら、きっと柔道を辞めていただろうなと思うことがあります。

心を動かされるというか、みんな私のことをよく知ってくれた上で言ってくれているので、反抗する理由もなくなっちゃうんですよね。本当にタイミングよく、会うべくして人に出会っているなと思います。

--他に影響を受けた方はいますか?

子どもの頃から一緒に柔道してきて、強くて一度も勝てなくてずっと私の憧れだった人がいます。彼女は高校で柔道を辞めてしまったので、以来会うことがなかったのですが、この間久しぶりにお会いして話したんです。
当時を振り返って、その後の私の活躍を応援しつつもちょっと悔しい想いで見てきたことや、高校時代に私のことをライバル視してくれていたことを知ってすごく驚きました。一緒に柔道を頑張ってきた人の存在も、私の支えになっています。

--自分が成長したなと思うのはどんな時ですか?

やっぱりパリ2024オリンピックに内定してからの一年間は、気持ちが折れかけたり、ちょっと妥協しようとしてしまったり、そういったときに自分を見つめ直す機会が結構増えてきました。
以前だったら練習をしていても「これくらいでいいかな」と思っていたことも、たくさんの人に応援してもらっているので、自分が妥協して結果が出せなかったら皆さんに顔向けができない。そう思って自分と向き合い、今どうすべきかを考えて行動するようになったのは成長できたところだと思います。

体が動く限り競技を続けて、柔道の面白さをもっともっと伝えていきたい。

--今後の活動についてお聞かせください

そうですね、競技はできるところまで、体が動く限り柔道は続けていきたいですね、やっぱり好きなので。試合前は怖いけれど、戦っているときは一番楽しいですし、確かにきついこともありますが、できるところまで戦っていきたいです。
現役を引退してもずっと柔道には携わりたいと思っていて、柔道人口も減ってきてしまっているので、子どもたちにもっと柔道に興味を持ってもらえるように、普及活動のようなこともしていきたいと考えています。
柔道は強い人が必ず勝つというわけではなく、本当に駆け引きがあったり、一発逆転があったりする面白さがあります。こうした柔道の面白さを多くの人たちに知ってほしいですね。

--スポーツをしている子や、これから何か始めようとしている子にメッセージを

柔道や他のスポーツをしているお子さんには、試合でも練習でも力を出し切って後悔のないプレーをしてほしいと思います。いろんな競技があるなかでも柔道は特に体を鍛えたり、気持ちを鍛えたりすることができるので、ぜひ挑戦してほしいと思います。
プロフィール
角田 夏実(つのだ・なつみ)
千葉県出身。1992年8月6日生まれ
SBC湘南美容クリニック所属

2013年の学生体重別選手権で自身初の全国優勝を果たす。
2021年ブタペスト、2022年タシケント、2023年ドーハと、世界柔道選手権大会を三連覇。
2023年はアジア競技大会、グランドスラム・東京で優勝、
2024年はグランドスラム・アンタルヤ、パリ2024オリンピックで優勝。