【体操・村上茉愛さんインタビュー 後編】自身の経験と「公認スポーツ指導者資格」での学びを活かして、選手たちの背中を押してあげられる存在になりたい。

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【体操・村上茉愛さんインタビュー 後編】自身の経験と「公認スポーツ指導者資格」での学びを活かして、選手たちの背中を押してあげられる存在になりたい。
2022年にJSPO公認スポーツ指導者資格の「公認体操競技コーチ3(※)」講習会を受講し、資格を取得。その経験を活かして、現在、母校である日本体育大学で後進の指導にあたられている村上茉愛さん。
後編では「考え方を改めなさい」私を変えてくれた瀬尾監督の一言や、村上さんが目指す指導者像、プレーヤーから見た村上コーチなどをご紹介します。

「考え方を改めなさい」私を変えてくれた瀬尾監督の一言。 指導者は選手をいい方向に導くヒントを与えてくれる存在。

--現役時代、コーチや監督(指導者の方)から言われて“自身の心にとめている”ような言葉や学びなどはありますか?

私はジュニア時代から、指導者に見てもらえないとやる気が出せないタイプでした。大学では自分で自分の考えを編み出して練習に活かしていかなければならず、指導者からは何も言ってくれない状況に最初はびっくりしました。大学での指導にギャップを感じてあまり練習ができずにいました。自己管理も全然できていなくて、大学1年生の4月におこなわれた全日本選手権で全く思うような試合ができず、その年の世界選手権の代表は補欠としての参加となりました。
最終的には繰り上がって出場はしたのですが、元々は代表選手から外れていた状況でしたし、すごく残念な試合をしてしまったときに、瀬尾先生(日本体育大学・瀬尾京子監督)と1時間ぐらいお話をして「あなたの考え方を改めなさい」と言われました。
当時はちょっと反抗的な思いもあったのですが、でも、そうやって自分を見てくれている先生の言葉を一度信じてみようと思い、本当に信じて行動に移してみたらいい結果が残せるようになりました。このことが自分の体操、自分の考えと向き合ういい機会になりました。
自分は思い立ったらすぐに行動に移すタイプなのですが、今ではこの一言が頭のなかにあるので、自分の考えはどうなのか、いったん踏みとどまって物事を判断できるようになりました。今となってはあのとき瀬尾先生に言われて、そのことに自分が気づけて本当に良かったと思っています。

--競技者にとっての「指導者」はどういう存在でしょうか?

私たちは意見や考えを提示することはできますが、変えようとしなければいけないのは結局のところ、選手自身。選手が自分のためにしっかり考えて実行するという考え方に自然となれば、(こんなこと言ってはいけないのかもしれませんが)指導者はいなくても、選手がいい方向に変わればいいと思っているんです。
選手が変わるために、私たちがどういうヒントをあげるか、それが指導者の役目だと思っています。瀬尾先生はヒントをたくさんくれて自分を変えてくれた人。体操の試合では、床フロアーの上では1人で演技をするので、最終的にはもう自分を信じるしかないのですが、瀬尾先生がそばにいるだけですごく心強く思えました。
試合のときにもチラッと先生を見て「よし!」と集中できたので、私にとってはお守りのような存在。私も瀬尾先生のようになりたいと思っています。

私はこうやっていたけど、あなただったらどうする?選手たちに考えさせることで、選手の選択肢が増えていく。

--選手たちを指導するにあたって村上さんが大切にされていることは何ですか?

選手と近い年代だからこそ、本音を聞き出せるというのが今の自分の武器だと思っているので、選手と会話するときには、強い口調にならないようにしています。選手は何か新しい技に挑戦する際など、チャレンジしたい気持ちはあるけれど、勇気が出ないことがあるので、私の役割としては「大丈夫!」と選手の背中を押してあげること。選手たちが辛そうな場面では励ましたり、場を和ませるような言葉をかけたりすることも心がけています。

--その他、何か具体例を挙げていただけますか?

うーん、難しいですね。具体例というか基本的に選手は試合前、今年(2024年)で言えばオリンピックの選考会があるので選手たちは試合前すごくピリピリしたり、ストレスがすごく溜まったりしてきます。そうしたなか、リラックスして話す環境をつくるように心がけ、普段の練習で気づいた選手にはアドバイスをおくります。
例えば、本人ができていると思っていても、第三者から見ると足りてないと思うところはあるので、そうしたときには「こことここは足りてないよ」「でもこういう練習はすごくいいと思う」というふうに伝えてから、「じゃあ、どうしていこうか?」と、お互いに案を出していきます。
平均台が得意な選手は平均台ばかりに行ってしまいがち。他の3種目(ゆか、段違い平行棒、跳馬)も均等に練習しなきゃいけないのに偏りがどうしても出てしまうので、平均台を30分練習したら他の種目は40分ずつ練習していこうと、練習の計画案とかも出してやっています。
今の3年生以上は私が選手のときにも一緒にやっていた子たちなので、私の選手時代を知ってくれています。指導者としての意見のほかに、「私が選手だったときはこうしていたよ」とか、「ただそれが全てではないけれど、これはいいと思うよ」と、選手だったときの意見を言うことで、より現実的に選手たちが考えやすくなり、選択肢が増えるといった効果もあります。

まずは日本体操女子を強くしたい!オリンピックで銅メダル以上のメダルを1個獲る、それを獲り続けられるようにしていくのが一番の目標です。

--村上さんが考えるいい指導者とは?

基本的に指導者である以前に、人として自分の意見がしっかり言えて、自分のダメなところもしっかり受け入れられる人ではないでしょうか。

やり方を間違ったときなどに、ダメだったところを自分で受け入れて、次に活かしていける。つねに学び続ける意思がある人がいい指導者だと思います。指導者としてグレードを上げていくためには大切なことですし、そういった指導者が自分にとっても理想だと思っています。

--指導者として今後どのようなことを目指していかれますか?

基本的には、自分は今後体操界に関わっていくなかで、まずは日本の体操女子を強くしたいという目標があって、オリンピックで銅メダル以上のメダルを1個獲る、それを獲り続けられる日本女子にしていきたいというのが一番の目標です。
それを叶えられるような指導を学んでいくことはもちろん、今後は体操だけの繋がりではなく、いろんな競技との繋がりをつくり、いいものはしっかり受け取って、体操に活かしていきたいと思っています。
学び続ける意欲は常に必要だと思いますし、指導者の講習の現場で、「学ぶことをやめたら指導者は終わり」との声もよく聞くので、常に新しいものを見つけていかないと、選手たちも飽きてくるというか面白みも何もなくなってきますし、強みや、さらなる発展に繋がっていかないと思うので、そうした横の繋がりを、指導にしっかり取り入れていきたいと思います。

--今後の村上さんの夢などについてお聞かせください。

選手のときと違って指導者としてリードする立場になると、目に見える成績というのがなかなか分かりません。選手たちはいっぱい練習すれば、成績に現れますが、指導者の場合、正解は一つではありません。自分の意見がハマれば強い選手が生まれる可能性はありますが、全員が全員そのやり方でうまくいくとは思ってないので、まずはいろんな情報を学んでいきたいと思っています。

もう1つは単純な願いというか、「茉愛さんに教えてもらって良かったです」と一言でも多く言ってもらえる指導者を目指していきたいと思うので、これからも頑張っていきたいなと思います。

指導を受ける選手から見た、村上茉愛コーチとは?

芦川うらら さん

試合前に思うように調子が上がらないときに話を聞いてくださったり、あとは試合の調整の仕方とかを細かく教えてもらったりしています。調子が上がらないときや伸び悩んでいるときに、「そういう時が来るのは悪いことではない」と言ってもらったことで、自分でも壁にぶつかることは悪いことではないと考えられるようになって、そこから少しにラクに体操ができるようになったかなって思います。

坂口彩夏さん

村上先生はとっても元気で、選手に寄り添った考えを持って指導をしてくれる先生です。つい最近まで現役選手だったこともあって、感覚の面でも教えてもらうことがとても多いです。大学に入ってから表現というものを気にし始めているのですが、先生は動きが上手なので、そういった面からも動きの改善や修正をしていただいて、そこが一番自分にとっては大きいポイントだなと思っています。先生に出会えて良かったし、ここ日本体育大学に来て、指導していただいて本当に良かったなって思っています。

瀬尾京子監督から見た、指導者としての村上茉愛さんとは?

--資格取得時の講習会受講の前後で、村上さんの変化に気づいたことがあれば教えてください。

現役を終えて指導者としてスタートするにあたり、体操競技ではこの「公認体操競技コーチ3」資格がすごく大切で、まず取らなければなりません。さらに茉愛も自分でいろんなことを学びたいという思いがあっての受講だったので、今すぐに目に見えるところはないですが、ここから先、活用できる内容ではあったと思います。
私たちは大学内で指導していますが、私が監督として組織上の1番上にいて、選手がいて、選手との間にスタッフとして指導の手伝いをしてくれている学生がいて、さらにその学生の指導スタッフと私の間に今の茉愛のポジションがあります。指導者の意見を取り入れながらも、選手たちを見て、その間にいる自分の立ち位置がすごく重要であることを理解している。いろんな知識を得たなかで自分の立ち振る舞いはどうするべきかというところを積極的に考えながら取り組んでくれています。そういったところでは、いろんな講習会で得たところ、選手に対する考え方やコミュニケーション、それから全体の組織としてなど、いろんな視点から考えることができるようになってきたかなと思います。

--かつての教え子だった村上さんが指導者になられて、その村上さんの指導ぶりをどのように感じてらっしゃいますか?

かなり積極的で、指導者として人が3年かけて覚えるところをもう1年で習得しようというその勢いはすごかったです。補助をするとか自分が得てきたものを全て選手たちに教えるというところの姿勢が、人の倍早かったと思います。
なので、今、直接携わっている選手たちはすごくいいものを教えてもらっていて、また、茉愛がトップの選手だったことも分かっているのでそこから吸収しようという、その前向きな姿勢が選手からも感じられるので、とてもいいポジションで、説得力のある指導者になっていけるんじゃないかなとすごく期待しています。

--瀬尾監督と同じく競技者から指導者という道を進む村上さんにエールをお願いします。

一番はやっぱり選手に寄り添えるコーチになって欲しいなということ。そのなかで、必要な知識を身につけて、取れる資格は全て取ってもらいたいという気持ちと、あとは得られたものを現場で活かしてもらうためにも、やっぱり本人の理解が一番必要だと思うので、いろんなものを培い、現場をより良いかたちにしていってもらいたいなと思っています。

インタビューの様子を動画でもご覧いただけます。

【体操・村上茉愛さんインタビュー】自身の経験と「公認スポーツ指導者資格」での学びを活かして、選手たちの背中を押してあげられる存在になりたい。

【村上茉愛さんプロフィール】

1996年生まれ。4歳で体操を始め、中学2年の時に、全日本選手権で優勝。高校2年で世界選手権日本代表に選出され、種目別ゆかで4位入賞。リオ2016オリンピックでは団体総合で4位入賞を果たし、翌17年、世界選手権種目別ゆかで優勝。2021年の東京2020オリンピックでは女子種目別ゆかで3位。体操女子個人で日本史上初のメダルを獲得。同年10月に現役引退を発表した。現在は母校・日本体育大学で指導者を務める。
※記事内に登場される人物の所属や肩書は取材当時(2024年3月時点)のものです。