子どもたちのやりたいスポーツをやりたいかたちで。「運動部活動改革」を契機に、JSPOが目指すジュニアスポーツの環境整備に向けた取り組み。

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子どもたちのやりたいスポーツをやりたいかたちで。「運動部活動改革」を契機に、JSPOが目指すジュニアスポーツの環境整備に向けた取り組み。
公立中学校の運動部活動では、少子化や教員・指導者不足などの要因によって十分に活動ができない学校が全国各地で増えています。こうした状況に対し、スポーツ庁をはじめ、さまざまな機関・団体が「運動部活動改革」に向けた取り組みを始めるなか、JSPOでもスポーツ少年団育成、総合型地域スポーツクラブ育成、指導者育成などを通じて運動部活動を含めたジュニアスポーツの環境整備に取り組んでいます。(JSPOの取り組みは記事の後半に記しています)。

しかし、「運動部活動改革」について、その基本的な考え方や意義などはまだまだ一般的に広く浸透していません。「運動部活動改革」は、現在「やりたいスポーツができない*」という深刻な問題に直面している中学生だけでなく、これから中学生になる子どもたちとその保護者にもこれから直面する現実としてぜひとも知っておいてほしい内容です。

本記事では、やりたいスポーツをやりたいかたちで選択できる環境づくりを目指す「運動部活動改革」について、その背景や意義、期待されることなどをご紹介します。

*進学先にやりたいスポーツがない、あっても「競技志向」や「楽しみ志向」など自分の志向と違っている、人数が揃わない、専門的な知識をもった指導者がおらず上達が難しいなどの理由から、子どもたちが望むようなスポーツとの関わり方ができない状況を指します。

目次

公立中学校での運動部活動をどうするか?「運動部活動改革」は学校関係者だけでなく、保護者も含め地域全体で考える問題です

日中は担任や担当教科の授業を受け持ち、放課後や週末は部活動の顧問を担当し、長時間労働を強いられている中学校の先生たち。部活動の顧問を進んでやりたい先生がいる一方で、その役割を負担に感じている先生も少なくありません。「運動部活動改革」は、こうした先生たちの長時間労働や、子どもたちがさまざまな理由から中学校で「やりたいスポーツができない」という問題を解決するために始まった施策です。

子どもたちがやりたいスポーツができない! 運動部活動を中心としたジュニアスポーツを取り巻く状況と課題の整理

現在、中学校の運動部活動をはじめ、ジュニアスポーツを取り巻く環境には、さまざまな課題があります。子どもたちがやりたいスポーツを、望むやり方、かかわり方で楽しむためには、小・中学生を中心としたジュニアスポーツ環境そのものの充実が必要です。中学生年代を中心としたジュニアスポーツを取り巻く主な課題を以下に整理しました。
運動部活動を中心としたジュニアスポーツを取り巻く、さまざまな課題とは?
少子化:
チームスポーツにおいては大会参加に必要な人数が揃わなかったり、部員が集まらず休・廃部になるなど、活動の継続が困難になっている学校があります。
<中学生徒数:昭和61年589万人→令和3年296万人に半減 出生数:令和5年(≒令和17年の新中学1年生)は過去最少の約75.8万人>
ニーズや志向の多様化:
運動部活動には興味のある競技種目がなかったり、競技レベルや方向性が合わなかったりするため、運動部活動に所属しない事例があります。
<運動部のみに所属している中学校等生徒 平成20年度 男子75.6%、女子56.7%→令和3年度 男子63.5%、女子49.6% また、運動部や地域のスポーツクラブに所属していない生徒であっても、男子生徒の約8割、女子生徒の約9割の生徒が、自分のペースでおこなえたり、興味のある運動やスポーツをおこなえたりするなどの状況があれば、運動部活動に参加したいと考えています>
指導する際の知識・技能の不足:
スポーツに関する基礎知識がない教員や、担当する部のスポーツを経験したことがない教員が指導することで、十分な指導がおこなえていない可能性があります。
<部活動顧問のうち「保健体育以外×当該競技経験なし」が26.9%となっており、また、部活動顧問の20%以上が「自身の実技指導力の不足」を感じています>
地域との連携:
運動部活動改革には地域のスポーツ団体や指導者等と学校との連携・協働が必要不可欠だが、現状では十分な連携・協働体制が構築できていない。
そのため、地域におけるスポーツ活動に参画する生徒が少ない状況である。
<総合型地域スポーツクラブの会員における中学校等の生徒の割合は6.9%(令和5年度)、スポーツ少年団員に占める中学生割合は12.4%(令和4年度)等>

こうした課題に対し、JSPOでは「地域スポーツの最適化」「ジュニアスポーツ環境の充実」を目指して取り組みを推進

「スポーツと、望む未来へ。」をコーポレート・メッセージに掲げるJSPOでは、誰もがスポーツを楽しめる環境の整備をおこなっており、ジュニアスポーツを中心とした地域スポーツのあり方も検討してきました。
一方、2022(令和4)年には「運動部活動の地域移行に関する検討会議提言」が出され、スポーツ庁による運動部活動改革の方向性が具体化しました。JSPOにもスポーツ庁長官から提言の内容をもとに協力要請があったことを踏まえ、部活動改革への取り組み方針などをまとめています。
JSPOが取り組む運動部活動改革への基本的な考え方と取り組み予定
JSPOは、これまで進めてきたジュニアスポーツ充実の取り組みを踏まえて、運動部活動改革に対する具体的な行動計画(ロードマップ)を取りまとめるとともに、基本的な考え方としてJSPOの既存事業を活かし、適切な資質能力を身につけた指導者の確保や総合型地域スポーツクラブおよびスポーツ少年団といった多様な運営団体・実施主体の確保について、加盟団体と連携・協働し、スポーツ界一体となって取り組むこととしました。

「スポーツ指導者」、「総合型地域スポーツクラブ」、「スポーツ少年団」の育成に向けた考えと取り組みについて

JSPOの既存事業をもとにジュニアスポーツの環境整備に取り組むJSPOでは、運動部活動改革をどうとらえているのか、各事業の考えや取り組みを紹介します。

【スポーツ指導者の育成】 指導者がいないからスポーツができない…という状況をつくらないためにも、指導者の「量」を増やし「質」の向上を目指す取り組み

運動部活動改革では、様々な事情で運動部活動の指導が難しい先生に代わって指導者資格を持った外部の指導者が子どもたちを指導する、そんな新しい部活動のあり方が注目されています。
JSPOでは、子どもたちの技術の向上はもちろん、安全・安心に楽しくスポーツができるように確かな知識を備えた指導者を育成しています。

確かな知識を備えた指導者を一人でも多く育成

教員免許を所持する方を対象とした「スタートコーチ(教員免許状所持者)」に加え、スポーツ指導の入り口として教員免許をお持ちでない方でも取りやすい「スポーツコーチングリーダー(※)」を養成するなど間口を広げ、一人でも多くの公認スポーツ指導者を育成するよう取り組んでいます。
※コーチングアシスタント資格の名称を2024年4月からスポーツコーチングリーダーに変更しています。
▼こちらから公認スポーツ指導者養成講習会のビデオ教材をご覧いただけます。
https://www.japan-sports.or.jp/tabid1377.html#coach_movie2024

「公認スポーツ指導者マッチング」を実施

JSPOでは、指導者を探しているスポーツ現場(運動部活動、総合型地域スポーツクラブなど)とスポーツ指導の専門家である公認スポーツ指導者を結びつける「公認スポーツ指導者マッチング」サイトをHPに用意しています。
指導者マッチングにより、学校運動部活動を巡る諸課題の解決の一助となるとともに、多くの人々がスポーツを「安全に、正しく、楽しく」実施できる環境を実現します。
担当者の言葉
スポーツ指導は、十分な経験や知識を持っていない自分には指導はできないとあきらめている人もいるのではないでしょうか。競技力を高め大会でいい成績を残すことだけではなく、子どもたちが安全・安心にスポーツを楽しむためにも指導者の存在は欠かせません。そのための知識・技能はJSPOの指導者養成カリキュラムで身につけることができますし、スポーツ現場では特定のスポーツの指導力だけでなくスポーツを楽しむための知識を備えた指導者が必要とされています。JSPOでは、指導者がいないからやりたいスポーツができないという子どもたちがいないよう、引き続き指導者育成に取り組んでいきます。

【総合型地域スポーツクラブの育成】 学校の部活動にやりたいスポーツがない場合、地域のスポーツクラブを利用するという事例も注目されています

地域の人々が、ご自分の年齢や興味関心、技術レベルに合わせてさまざまなスポーツが楽しめる、『多種目』『多世代』『多志向』のスポーツクラブが「総合型地域スポーツクラブ(以下、総合型クラブとする)」です。
進学する中学校の部活動に自分がやりたいと思うスポーツがない場合、その受け皿としての役割も期待されています。
JSPOでは、地域の各クラブにおける参加者が安全・安心にスポーツを楽しむために登録基準を設けてクラブの資質向上を図るとともに、リスクマネジメントの実践を呼びかけるセミナー開催や、メールマガジン、動画などで役立つ情報をお届けしています。

全国1000を超すクラブにアプローチ

JSPOでは2022(令和4)年度から総合型クラブの登録制度を運用開始し、2024(令和6)年度は1,087(2024年5月時点)ものクラブが登録しています。
昨年度は登録クラブに対して、部活動の地域連携・地域クラブ活動への移行をはじめとした各クラブの現状や課題等を把握し、有効な支援施策を検討するための実態調査を行いました。
また、運動部活動の地域クラブ活動移行については、概要動画や進め方をまとめたステップ動画の公開や(学校部活動地域連携・地域クラブ活動移行に向けた動画 (japan-sports.or.jp) )、スポーツリスクマネジメントセミナー(イベント・セミナー情報 -JSPO (japan-sports.or.jp) )の開催、メールマガジンにて全国の登録クラブの取組事例等の発信などを行っています。

地域の方々のニーズにどう応えるかを支援

全国各地にある総合型クラブでは、地域の課題やニーズに合わせ、特色のあるクラブ運営をおこなっています。運動部活動改革による地域の課題やニーズに対し、今後さらなる期待が寄せられる総合型クラブの一助となるようJSPOでは、すでに部活動をクラブが担っているような好事例の紹介や、動画(地域課題解決に向けた取組を行うクラブ紹介動画 - JSPO (japan-sports.or.jp) )を公開するなど、登録クラブを支援しています。
担当者の言葉
総合型クラブにおける活動は、レクリエーションとしての活動から、競技志向の活動まで、活動の幅がクラブによってさまざまです。地域クラブ活動への移行により「ゆる部活」など新たな活動の在り方が増えてきているなか、総合型クラブによって、地域の環境やニーズに合ったスポーツ環境が整備されていくことが期待されます。
また、現在JSPOでは、部活動の地域クラブ活動への移行に関わる登録クラブに対し、更なる発展・成長していくことができるような、新たな制度の構築を検討しております。

【スポーツ少年団の育成】 「スポーツ少年団」は小学校を卒業したら“卒団”ではなく、中学生や高校生になっても活動を継続することができます

中学生になったら部活動は何部に入ろうか?とワクワクした気持ちがある一方で、進学する中学校の部活動に自分がやりたいスポーツがなくてがっかりすることもあるようです。
小学生のときにスポーツ少年団でスポーツをしていた、あるいは現在も団員としてスポーツをしているお子さんもいるのではないでしょうか。そして、小学校卒業とともに少年団も退団する、いわゆる“卒団”するケースがほとんどかと思いますが、実は「スポーツ少年団登録規程施行細則」では、団員の登録要件として年齢の上限は定めていません。そのため中学生や高校生がスポーツをする場として受け皿ともなり得るのですが、JSPOの周知不足により正しい情報をお伝えできておらず、“卒団”という発想が多く広まってしまっているのかもしれません。(※)。
JSPOでは、こういった認識を改善するための情報発信により中学生以上の年代の登録を促進するとともに、少子化などによりそもそも子どもが少なくなるなか、登録団員数の減少に歯止めをかけるべく取り組んでいきたいと思っています。
※令和4年度における団員たちの年代別構成比率:小学生86.2%、中学生12.4%、高校生以上1.4%。
※入団条件は各単位団にて定めていますので、ご注意ください。

「スポーツ少年団」は日本最大の青少年スポーツ団体です

スポーツ少年団では、子どもたちは野球やバレーボールなどのスポーツを楽しむだけでなく、野外活動やレクリエーション活動、文化・学習活動や社会活動などを通じて、協調性や創造性を養い、社会のルールや思いやりのこころを学びます。
また、スポーツを楽しむだけでなく、指導者の卵ともいえる次世代のリーダーを養成するという役割もあり、ジュニアリーダー、シニアリーダーの養成制度にもつながっています。小中学生のうちに、こうした経験ができることもスポーツ少年団の魅力と言えます。

「綱引」や「馬術」など特徴のあるスポーツを行うクラブも

全国各地で展開するスポーツ少年団のなかには、「綱引き」や「馬術」などといった珍しいスポーツ種目を行う団もクラブもあります。こうしたスポーツは限られた団でしかおこなわれていませんが、「綱引」も「馬術」も中学生を含む幅広い年代の団員たちが活動しています。
スポーツ少年団は、子どもたちがスポーツを始めるきっかけとなり、生涯にわたってスポーツと関わっていけるような、気軽にスポーツと触れ合える環境づくりを目指しています。
担当者の言葉
スポーツ少年団で、小学生が中学生になっても継続してスポーツをおこなう場合、例えばバレーボールやバスケットボールなどはコートの広さや、ネットやリングの高さなどの用具の規格が変わってくるというように、小中学生が一緒にプレーする上では物理的な障壁が発生する競技もありますが、年代毎にそれぞれ練習時間を設けるなどの対応で中学生を受け入れている団もあります。また、用具に左右されない野外活動やレクリエーション活動などを実施する単位団は幅広い年代が一緒に活動しやすいため、中学生が活動に参加するハードルも低いのではないでしょうか。

「運動部活動改革」によって期待される、生徒、保護者、指導者、先生など地域全体にとってのWell-beingに向けて

生徒数や指導者数、スポーツが盛んな地域とそうでない地域など、公立中学校の運動部活動の状況はさまざまですが、すでに全国各地でそれぞれの取り組み・呼びかけが始まっています。
子どもたちがやりたいスポーツをやりたいかたちでおこなえるように、JSPOでも運動部活動改革をきっかけにジュニアスポーツの環境を改善・充実させ、「地域スポーツの最適化」につなげています。
*Well-beingは、良好・幸福な状態を表す言葉として、スポーツ指導の現場などでも用いられています。
読者の皆さまも、部活動だけでなくスポーツ少年団や地域スポーツクラブなどで適切な資格を持った指導者が指導する現場を子どもたちが選び、心ゆくまでスポーツを楽しむことができる未来を想像しながら運動部活動改革に注目いただければと思います。
学校運動部活動指導者の実態に関する調査
https://www.japan-sports.or.jp/coach/tabid1280.html
運動部活動改革 特集ページ
https://www.japan-sports.or.jp/tabid1377.html
JSPO Plus別記事 「運動部活動の地域移行で、子どもたちの望む未来へ。JSPOは資質能力を備えた「スポーツ指導者」の育成を推進します」
https://media.japan-sports.or.jp/column/101
JSPO Plus別記事 「JSPOが行うスポーツ環境整備とは。世代・技術・地域を越えた取り組みについて解説」 
https://media.japan-sports.or.jp/column/66
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