滋賀国スポの主会場となる「平和堂HATOスタジアム」。その特徴を トラック・フィールドの施工管理でスポーツをささえる日本体育施設の担当者に聞きました。

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滋賀国スポの主会場となる「平和堂HATOスタジアム」。その特徴を   トラック・フィールドの施工管理でスポーツをささえる日本体育施設の担当者に聞きました。
2025年9月、「国スポ」は滋賀県へ!第79回国民スポーツ大会本大会「わたSHIGA輝く国スポ」として開催します(※)。その主会場となる平和堂HATOスタジアム(彦根総合スポーツ公園陸上競技場)は、国スポに向けて新築された、滋賀県内最大の陸上競技場です。

※本会期:令和7年9月28日(日)から10月8日(水)まで11日間/正式競技34競技と特別競技1競技を開催 会期前(1):令和7年9月6日(土)から9月15日(月)まで10日間/正式競技3競技を開催 会期前(2):令和7年9月21日(日)から9月25日(木)まで5日間/正式競技1競技を開催。

スポーツを、する・みる・ささえる

夢や目標に向けてパフォーマンスを発揮する選手と、選手のパフォーマンスを楽しみ応援する観客、そして忘れてならないのが、選手やスポーツをささえる人たちの存在です。
国スポの主会場となる平和堂HATOスタジアムにおいて、選手が躍動する舞台となる、「トラック・フィールド」部分を施工したのは、日本体育施設株式会社。
1971年の創業から50年以上にわたり蓄積した経験と実績でこれまで数多くのスポーツ施設を手がけ、日産スタジアムなどのトラック・フィールド工事の施工も担当されています。
この記事では、平和堂HATOスタジアムの特徴などを紹介するとともに、「トラック・フィールド」部分に施工された素材や管理技術などについて、日本体育施設(株)の施工管理責任者・町田さん、芝生管理責任者・立花さん、トラック素材開発担当・小林さんに、お話を伺いました。

湖国の感動 未来へつなぐ。第79回国民スポーツ大会本大会“わたSHIGA輝く国スポ”

滋賀県での開催は1981年の第36回国民体育大会以来2回目。第36回大会では33競技(冬季大会を除く)が滋賀県内で実施され、県内競技に参加した選手・監督・本部役員の人数は計23,797名にのぼりました。
男女総合成績では、滋賀県が16競技で1位となり天皇杯を、女子総合成績では滋賀県が6競技で1位となり、皇后杯を獲得。地元選手たちの活躍する姿に、県民も大いに盛り上がりました。
あの感動をもう一度。スポーツをする人も、見る人も、支える人も、すべての人が主役として輝ける大会を目指します。
大会の愛称は、「わたSHIGA輝く国スポ」。
選手、ボランティアをはじめ、県民、来場者など大会に関わるすべての人が、様々な場面で主役として光り輝き、夢や感動、連帯感を共有できる大会を目指します。
大会スローガンは、「湖国の感動 未来へつなぐ」。
「琵琶湖」を擁する湖国滋賀で生まれた感動が、両大会に関わるすべての人の心に刻まれ、明日への活力、未来への希望として将来にわたって引き継がれるようにとの願いを込めています。
大会マスコットキャラクターは「キャッフィー」と「チャッフィー」
大会のマスコットは、ナマズ(琵琶湖の固有種:ビワコオオナマズ)のキャッフィーとチャッフィー。
第79回国民スポーツ大会本大会“わたSHIGA輝く国スポ”大会HP
https://shiga-sports2025.jp/

琵琶湖をイメージしたブルー、正面に彦根城を望む景観のいい「平和堂HATOスタジアム」。

“わたSHIGA輝く国スポ”の主会場(総合開・閉会式会場、陸上競技会場)となる平和堂HATOスタジアムは、国スポに向けて新築された、最大収容人数15,000人の県内最大の陸上競技場です。
「コンパクトな競技場」「歴史景観に配慮した競技場」「周囲を自由に回遊できる」「環境負荷の縮減を図る」「安全で安心な競技場」という5つのコンセプトを軸に、彦根城の世界遺産登録に向けた取り組みや防災機能の強化などに配慮した建物形状、競技者の使いやすさや構造安全性、環境負荷縮減への配慮など、これからの滋賀県スポーツの拠点として機能するよう総合的に考慮して建設されています。

「する」「みる」人にとっても嬉しいスタジアム。

平和堂HATOスタジアムは、選手から見てホームストレートの正面に彦根城が臨めるなど景観や眺望が楽しめます。また、スタンドとトラック・フィールドの距離が近く設計されているので、選手をより身近に感じられるなど、スポーツを「する」人にも「みる」人にとっても嬉しい工夫が施されています。

平和堂HATOスタジアムHP
https://www.bsn.or.jp/hikone/

トラック・フィールドの施工管理・芝生管理でスポーツをささえる日本体育施設。 平和堂HATOスタジアムに採用された最新の技術とは。

今回、平和堂HATOスタジアムの「トラック・フィールド」部分の工事を担当された日本体育施設の施工管理責任者の町田さん、芝生管理責任者の立花さん、技術本部(開発)の小林さんに、採用された素材や技術などについて、お話を伺いました。
JSPO Plus編集部
JSPO Plus編集部

まさにスポーツをささえる立場の日本体育施設さんにお話を聞かせていただきます。まず滋賀国スポのメイン会場となる「平和堂HATOスタジアム」の工事ではどちらを担当されたのですか?

町田さん
町田さん

トラック・フィールドの全天候舗装とインフィールドの芝生ピッチ、それから雨が降ったとき表面及び地下の水を場外に出す排水や、芝生に水を撒くための散水設備、あとは陸上競技や球技競技の大会で使用する競技施設、ピストルと写真判定機などの電子機器を連動させる電気通信システムが私たちの担当した工事になります。

JSPO Plus編集部
JSPO Plus編集部

いろいろなスポーツ施設を手掛けられていますが、「平和堂HATOスタジアム」の印象や特徴について教えてください。

町田さん
町田さん

スタートの位置からは彦根城が見えて、反対側には伊吹山があって、立地にも恵まれたとても景観のいい競技場ですね。トラックのカラーがブルーという点も特徴で、選手たちは赤茶色のトラックとはまた違った感覚で競技できるのではないでしょうか。

立花さん
立花さん

周辺に高い建物がないので空がとても大きく感じられます。選手たちにとっても、落ち着いて気持ちよく競技に臨めると思います。

“人と環境にやさしい”。トラック・フィールドに採用されたWA認証舗装材「レオタンαエンボスSF」

町田さん
町田さん

トラックの一番の特徴は、舗装材として、当社が2021年に開発した環境対応型ウレタンを使用していることにあります。「レオタンαエンボスSF」という“人と環境にやさしい舗装材”が採用されています。

JSPO Plus編集部
JSPO Plus編集部

「レオタンαエンボスSF」の開発に携わられたのが小林さんですね。開発の経緯や苦労された点などお聞かせください。

小林さん
小林さん

「レオタンαエンボスSF」の開発は、私が日本体育施設に入社する以前から三井化学さん(化学品メーカー)と共同で進められてきました。
従来のウレタン舗装材には、ウレタンを固めるための硬化剤として、MOCA(モカ)と呼ばれる化学物質が使われていました。MOCAは発がん性のある有害な化学物質であるため、製造時や施工時での取り扱いには、厚生労働省で定められた「特化則」(特定化学物質障害予防規則)に沿った規制に対応していく必要があります。
そこで、当社はMOCAを使用しないことで、製造や施工に関わる方々にとって安全且つ、従来品と同等性能を維持できる材料の開発に取り組んできました。

JSPO Plus編集部
JSPO Plus編集部

実際に走行テストのようなものもされるのですか?

小林さん
小林さん

走行テストではないですけれども、世界陸連(WA)が陸上競技場の舗装材に対して設けている、走るときの反発や衝撃吸収の規格に合致しているかを確認します。
実験室段階ではいろいろクリアできていることが実際に現場でテストするとどうしても気候など外的な影響を受けるため、なかなか納得のいく結果が出せず、実は製品化するまでに長い歳月がかかっているんです。
性能も維持でき、製造や施工に関わる方々にとってより安全にはなりましたが、いかに現場で作業しやすい材料にするかという点が今後の課題です。

JSPO Plus編集部
JSPO Plus編集部

走る人にとってはクッション性が強いほうがいいと思うのですが、それも何か規定があるのでしょうか?

小林さん
小林さん

短距離では、記録を出すためにはなるべく硬い舗装のほうが望ましいとされています。衝撃吸収率が低いほど硬い舗装材になりますが、陸上競技では、記録向上性と安全性のバランスから世界陸連(WA)によって、規格値(衝撃吸収率など)が決められています。

芝生部分には暑さに強い「ティフトン」芝を採用

JSPO Plus編集部
JSPO Plus編集部

「平和堂HATOスタジアム」の芝生部分には「ティフトン」という芝生が採用されているそうですが、このティフトンにはどんな特徴があるのでしょうか?

立花さん
立花さん

「ティフトン」は日本で使われている暖地型芝生という芝生の一種で、暑さに強く、強度にも優れるといった特長があります。
これまで同じく暖地型芝生の「コウライシバ」がよく使われていたのですが、「ティフトン」が普及した背景として、サッカーを中心に競技がプロ化したことが挙げられます。
一年中芝生を緑にしておくために、冬にオーバーシード(既存の芝生に新しい種を撒くこと)といって夏芝の上に冬芝の種を撒くのですが、その工法がやりやすい点も大きな理由です。

JSPO Plus編集部
JSPO Plus編集部

Jリーガーの経歴をお持ちで、現在は芝生を管理されている立花さんには、芝生へのこだわりも人一倍あるかと思います。芝生によってプレーしやすい・しにくいことはあるのでしょうか?

立花さん
立花さん

個人差はあると思いますが、やっぱり足裏の感覚とか、ボールの転がり方とかそういうのは影響してくるので、芝の種類によっては変わってくると思います。
私がプレーしていた頃は、暖地型芝であれば「コウライシバ」か「ティフトン」、冬芝になると「ケンタッキーブルーグラス」や「ペレニアルライングラス」という種類が主流でした。そのなかで、どれが好き、どれがプレーしやすかったかと言うと、結局、自分がいいプレーができたところがいいと感じる、そういうものではあります(笑)。
私の場合は、HATOスタジアムにも使用している「ティフトン」や「ライングラス」の芝生が好きでしたね。

JSPO Plus編集部
JSPO Plus編集部

日本体育施設さんでは、今回のHATOスタジアム以外にも、過去に国民体育大会の会場を手掛けられていますか?

町田さん
町田さん

開会式等の行われるメイン会場のスタジアムで言うと、2002年に日韓サッカーワールドカップ、その次の2003年に静岡国体が開催された、エコパスタジアムです。ワールドカップの会場として使用し、なおかつ国体としても使えるようなメインスタジアムとして担当しました。
他にも、三重国体の会場(三重交通Gスポーツの杜伊勢陸上競技場:2021年開催予定/コロナ禍により中止。2035年開催順序了解)や和歌山国体の会場(紀三井寺公園陸上競技場:2015年)などを当社で担当しています。

時代の一歩先を行くスポーツ施設を作りたい。スポーツする人たちを応援できる会社でありたい。

陸上競技場をはじめ、野球やサッカー場などの各施設を施工・管理する日本体育施設さんは、まさにスポーツに関わる会社として、学生時代にスポーツをしていた方やスポーツ好きな社員が多いそうです。そこで、スポーツをささえる立場のみなさんに、日本体育施設さんの取り組みにおける想いについて聞いてみました。
JSPO Plus編集部
JSPO Plus編集部

まさにスポーツをささえる立場のみなさんに、仕事のやりがいや、仕事に対する想いについてお聞かせください。

町田さん
町田さん

私たちが心がけているのは、施設を利用する人たちが安全に安心して使える施設をつくり、管理・運営していくということです。設計から営業、工事管理に至るまで全員がそういった気持ちで取り組んでいます。
当然、利用される方があってこその仕事ですし、その対象は競技スポーツから社会体育までさまざまで、健常者も障がい者も、トップアスリートになる人もいれば健康のためにスポーツを楽しまれる人もいます。そういったそれぞれの人たちに喜んでもらえることが何よりのやりがいとなっていて、そのことを次の世代のスタッフにも伝えていけたらいいなと思っています。

立花さん
立花さん

私の場合、芝生を管理しているので、サッカー選手から「プレーしやすい」など直接言ってもらうこともありますし、自分たちが改善する部分を探すという意味でこちらから「今日の芝生はどうでしたか?」と話せる機会があれば直接聞くようにしています。
また、公園内を散歩されている方たちから声をかけていただいたり、みなさんが施設を利用して楽しまれている様子を見たりするのは嬉しいですね。

JSPO Plus編集部
JSPO Plus編集部

立花さんはどういったきっかけで日本体育施設さんに入られたのですか?

立花さん
立花さん

私は神戸出身なのですが、中学3年生のときに阪神淡路大震災が起こりました。高校生からはあるサッカーのクラブチームに入る予定でしたが、練習場として予定されていた場所が瓦礫置き場となり、練習場がなくなってしまったんです。
それでも監督やコーチが駐車場のスペースなどなんとか練習できる場所を探してくれて、高校3年生のときには全国大会に出場することができたのですが、その全国大会の会場が福島県にあるJヴィレッジで。そこには芝生のグラウンドが10面くらいあって、その光景が強烈な印象として残っていました。
卒業後はJリーガーになりましたが、現役を引退した際に、これからは芝生の管理をしたいなと考えたとき、Jヴィレッジの芝生を管理していたのが日本体育施設だと知って、当社の門を叩きました。

JSPO Plus編集部
JSPO Plus編集部

小林さんはどんなところにやりがいを感じますか?

小林さん
小林さん

ある学校の校庭のウレタン舗装を改修したときに、工事期間は走る場所(練習する場所)がなく、工事が終わるまで待たせてしまったことがありました。工事が終わり学校に引き渡したあと、すぐさま練習を再開されて、「ありがとうございました」と感謝の言葉をいただいたときに、この仕事をしていて良かったと思いました。
私自身は大学まで野球をしていて、スポーツ施設に関わる仕事がしたいと思って入社しました。入社後、様々なスポーツ施設の施工や芝生の管理を通して、施工・管理する方々がいかに利用者のことを考えて日々取り組んでいるのか、ということを知りました。

JSPO Plus編集部
JSPO Plus編集部

「もう一歩先のフィールドへ」という企業スローガンのように、今後目指されていくことは?

町田さん
町田さん

1991年に東京で世界陸上がありましたけれども、そのときに我々の「レオタンαエンボス」という素材が採用されていい記録が出ました。その後もウレタンの開発を続け、最近は「レオタンαエンボスSF」を開発しましたが、私たちは常に今よりいいものを目指して取り組んでいます。
最近では、夏の暑さで人工芝の表面温度は非常に高くなるので、それを抑制するミストと散水、それと環境問題として海洋プラスチックごみを出さないように、自然素材を使った人工芝の工事など、“一歩先へ”工事を含めた形でやっていこうと考えています。

立花さん
立花さん

気象条件などが毎年変わってくるなかで、状態のいいグラウンドを提供していくことは、とても難しい状況ではありますが、そういった変化にもしっかり対応していけるようにしていきたいですね。

小林さん
小林さん

元々ウレタン舗装は、ウレタンの上にチップ材のウレタンのチップ材を撒いていた工法でしたが、1991年の世界陸上東京大会のときからエンボス仕上げ工法に変わり、それが現在までずっと、主流になっています。
今後これに変わる新しい形のものを何かウレタンで生み出せないかと、ちょっと長期的な視点になりますがそういったことをテーマに、“もう一歩先”を目指して取り組んでいきたいと思っています。

JSPO Plus編集部
JSPO Plus編集部

福井の国体で記録が出たことで「9.98スタジアム」となったように、滋賀の国スポでも日本体育施設さんが手掛けたトラックで記録が出るといいですね。

小林さん
小林さん

はい。ぜひ選手のみなさんに頑張っていただきたいと思います。
私たちの手掛けた施設で高記録が誕生することはとても嬉しいですが、まずは参加される選手の皆さんが、納得のいくパフォーマンスを発揮し、その上で自己ベスト記録を更新されることを期待しています。

JSPO Plus編集部
JSPO Plus編集部

ありがとうございました。

取材を終えて

日本体育施設さんのホームページには、“「提供する人」「利用する人」の架け橋になる。”“フィールド、ピッチ、コートそしてグラウンド。そこから生まれる感動と喜びは、スポーツの価値そのものです。”とあります。
そうした感動と喜びに出会うため、常により良い素材や製品を目指して研究開発を続け、快適かつ安全な施設を手掛けるために、提供する人(事業主・管理者)や利用する人(アスリートなど)人たちの声を積極的に取り入れていると言います。
スポーツを「する」「みる」その場所には、スポーツを「ささえる」人たちの存在が欠かせません。今回お話を聞くなかで、利用する人たちに喜んでほしい気持ちはもちろん、アスリートを応援する気持ちなど日本体育施設さんの “スポーツ愛”を強く感じました。
 
9月の第79回国民スポーツ大会本大会“わたSHIGA輝く国スポ”では、皆さんの想いがこもったトラック・フィールドで、躍動する選手たちの活躍が期待されます。
日本体育施設株式会社HP
https://www.ntssports.co.jp/

JSPOHP>>国民スポーツ大会概要紹介ページ
https://www.japan-sports.or.jp/kokutai/tabid181.html

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