50年先もスポーツを楽しめるように、 気候変動について知ってほしい、考えてほしいこと。

ささえる
50年先もスポーツを楽しめるように、 気候変動について知ってほしい、考えてほしいこと。
もし、あなたの大好きなモノやコトが気候変動によって失われていくとしたら…。今、スポーツの現場がさまざまな危機に直面していることをご存じでしょうか。
猛暑による干ばつや、乾燥した空気や強風などで起こる山火事。さらに大気汚染や、プラスチックごみなどによる海洋汚染、気候変動をはじめとする環境問題が深刻化しています。このような環境問題はスポーツにも大きく影響し、屋外競技を屋内でおこなったり、日差しの強い日中を避けて試合や練習をしたり、試合時間を短縮したりする動きも出てきています。特に地球温暖化による雪不足でウインタースポーツは深刻な危機に立たされています。
こうした状況のなか、50年先、さらにその先もスポーツを楽しんでいくためにはどのようにしたらいいのか?
スポーツを通じた環境・気候変動問題等SDGsの推進に取り組む一般社団法人SDGs in Sports代表理事の井本直歩子氏と、オリンピック・ムーブメントにおける環境史を専門とするJSPOの石塚創也氏(スポーツ科学研究室 主任研究員)が、「スポーツ×気候変動」をテーマにさまざまな想いを語りました。
※JSPOは、スポーツを通じたSDGsの取り組みをさらに進めていくため、2023年3月にSDGs in Sportsと包括連携協定を締結しています。

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気候変動によって起こるスポーツ現場の危機とは?

石塚
石塚

猛暑の影響で熱中症にかかったり、体調を崩してパフォーマンスを十分に発揮できなかったり、あるいは雪不足でウインタースポーツの実施が困難になる…。こうした気候変動の影響は、スポーツの環境整備を推進するJSPOにとっても由々しき問題です。

私の専門はスポーツ史で、特にオリンピックと環境問題について研究しています。スポーツと気候変動の話をする上でポイントとなるのが、地球温暖化対策の国際的な枠組みとして2015年に採択された「パリ協定」で、ここでは「世界全体の平均気温の上昇を産業革命以前よりも1.5℃以内に制限する」という努力目標が掲げられています。
気候変動に関する政府間パネルの第6次報告では、人間による活動が大気や海洋および陸域を温暖化させてきたことについては疑う余地がないと言われていて、人間生活における温室効果ガス(GHG)排出量が仮に現在の水準で維持されたとしても、2081年から2100年の間に2.1~3.5℃上昇する可能性が非常に高いと警鐘が鳴らされています。

このような気候変動は当然スポーツにも影響を及ぼします。過去にオリンピックが開催された都市が、気温の観点から2100年に開催地として適しているかという調査をした研究によれば、冬季大会では19都市のうち5都市、約3割に減少し、他の研究では2080年には札幌のみになるというデータもあります。

こうした状況のなか、今後スポーツはどうなっていくのか?また、気候変動に対して現在スポーツ界ではどのような取り組みがおこなわれているのかについて、気候変動アクションを実践する第一人者の井本直歩子さんにお話を伺いたいと思います。

井本

地球温暖化については2080年や2100年に予測されている事態を憂う前に、もう今が危機的な状況であることをお伝えしなければなりません。高校野球の甲子園大会では二部制が採用され、さらに9回制か7回制かの議論が活発におこなわれています。また、サッカーのワールドカップでは、ハーフタイムの他にハイドレーションブレイク(給水タイム)が導入されていますが、気候変動によってこうしたルール変更をせざるを得ない状況に追い込まれて、スポーツそのものが変わっていっています。

テニスの全豪オープン(2026年)は、約40℃という暑さのため、屋外で予定されていた試合は全て屋内でおこなわれましたし、マラソンでは真夜中にスタートする大会もあります。もう夏場にスポーツをすることがほとんど不可能になりつつあり、無理をすれば命にかかわる危険も出てきます。JSPOさんでは以前から熱中症予防を呼び掛けていますね。

井本
石塚
石塚

JSPOでは、WBGTという“暑さ指数”で危険レベルを示す熱中症予防運動指針を策定していますが、「運動は原則禁止」となる同指数31℃以上の日が、2010年の時点では5日でしたが、2024年には62日で約12.4倍に増加しています。

近年は熱中症になる危険性が非常に高まっていて、すでに井本さんがおっしゃるように、試合時間や大会期間を変えたりしなければならない状況に、もうすでなっていることが分かります。
井本

2019年の世界陸上カタール・ドーハ大会の競歩は、気温31℃、湿度が74%にも達する過酷な環境下でおこなわれ、出場選手45人中17人が離脱するなか、優勝した鈴木雄介選手もレース終盤に熱中症の症状が出ていました。
そして、帰国後はオーバートレーニング症候群になり、翌年に予定されていた東京オリンピックの代表入りが決まったものの練習に復帰できず、結局オリンピック出場を断念。その後、2026年に引退されています。
熱中症はケガや体調を崩すだけでなく、選手生命をも奪う危険があるため、全ての屋外競技がルール変更どころか競技自体ができる期間が狭められている状況にすでに迫られています。

井本
石塚
石塚

熱中症による健康被害がますます深刻になっていますが、こうした気候変動に対して、どのような対策がとられているか教えてください。

井本

先ほども言いましたが、例えばマラソン大会ではスタートを真夜中にしたり、42.195kmを最後まで走り切れなくてもいいという大会が出てきたり、野球の試合が9回ではなく7回制にすることが検討されていたりと、さまざまな競技においてルール変更をせざるを得ない状況になってきていて、スポーツそのものが完全に変わってきています。

井本
石塚
石塚

暑さだけの問題ではなく、気候変動の影響によって大雨が増え、例えば Jリーグでは2017年までは大雨で中止になった試合が約2 試合でしたが、2018年から2023年までの6年間では平均 9.5 試合が中止になり、気候変動の影響が出てきているのではないかと思っています。

2024年2 月に開催された山形冬季国スポにおいては雪不足が問題になりました。全長 1051.5m の予定だったコースを 1/3以下の短いコースに変更して開催しましたが、そのコースも所どころに土が見えていて、選手が滑るごとに係員が雪を埋めていくという状況でした。
なんとか最後まで競技をすることができましたが、そもそも1000mあったコースが約300m になったことで、選手たちのパフォーマンスにも影響があったと思います。このレースは、気候変動によってルールが変更されたり、試合が開催できなくなることが、もうすでに起きている可能性があることを実感した出来事でした。

井本

そうですね。特にウインタースポーツは気候変動の影響が深刻で、2026ミラノ・コルティナオリンピックも、大量の人工雪を降らせなければ開催できない状況でした。こうしたオリンピックの話題はニュースなどで報じられますが、実際に起きている雪の状況についてはあまり議論されていません。
特に日本は豪雪地帯が多いですが、“ドカ雪”と呼ばれる現象も気候変動の影響が大きいと言われています。日本のパウダースノーを求めて海外からたくさんのスキーヤーやスノーボーダーが集まってきていますが、世界全体で見ると雪が少なくなっていて、ヨーロッパでは廃業するスノーリゾートが後を絶ちません(1950年代以降、フランスでは180以上のスキー場が廃業。イタリアでは2020~2025年で265のスキー場が廃業しました)。海外で合宿をする日本の選手たちにとっても、練習環境がままならない状況になっています。
先ほどオリンピックの2080年の話がありましたが、2040年に冬季オリンピックを開催できる国がもう10ヵ国しかないというデータもあり、ウインタースポーツはすぐそこに存続の危機が迫っていると言えます。

雪不足の他にも大雨、最近では国内外で山火事も増えています。日本では愛媛県や青森県、栃木県などでもありましたし、全豪オープンが数年前に大規模な山火事に見舞われた時もありました。2025年 1月頃にはロサンゼルスで山火事が起こりドジャースの試合も中止を余儀なくされました。

猛暑や雪の減少だけではなく、大雨や台風、洪水、山火事などが起こる確率がどんどん高くなると言われています。スポーツにおいては大規模な大会を開催する時には数年をかけて準備していくわけですが、こうした災害は運営する側にとってもリスクが大きいと言えます。

世界経済フォーラムが2026年1月に発表した報告書によれば、世界のスポーツ経済は、年間2.3兆ドル(約375兆円)、世界GDPの約2パーセントに相当する規模にまで成長しているものの、気候変動と運動不足という複合リスクによって2030年までに最大5,170億ドル(約84兆円)もの収益が失われかねないと警告し、暑熱の影響をスポーツ経済にとって最大の物理的リスク要因としています。

2030年に「FIBA女子バスケットボールワールドカップ」の日本開催が決まりました。こうした国際大会ではスポーツ全体の歳入が上がりますが、気候変動によって今後経済的な損失のリスクがものすごく大きくなっていくと思います。

井本

大好きなスポーツを続けていけるように、 適応策と緩和策の意識をしっかりと持つことが大事。

井本

部活動などで屋外が暑いと体育館で活動しますよね。ところが、公立の小中学校では地方に行けば行くほど空調設備が整っていません。公立中学校の体育館等における空調(冷房)設置率が 23.7% (文科省、2026年5月1日時点)。東京などの都市部では設備の整備も進み、地方とのスポーツ格差が広がり、地方にいるアスリートたちは都市部に遠征することもあります。

SDGs in Sportsでは、こうした状況を一刻も早く改善するために、小中学校の体育館の空調の設置や、そして空調だけでなく断熱も整えて空調効率を高める活動にも取り組んでいます。

井本
石塚
石塚

井本さんは水泳のオリンピアンですが、水泳をする環境にはどのような影響がありますか?

井本

学校のプールは、夏場は暑すぎてもう水泳の授業ができない状況になっています。昔は暑いからプールに入りたいという感じでしたが、今はもうお風呂のようなところもありますし、何よりもプールサイドの地面が暑すぎますね。
部活動の現場からは悲鳴のような声をよく聞きますし、熱中症はもとより、深刻な健康リスクを抱えながら、スレスレのところを見極めて練習をしていると思います。

井本
石塚
石塚

スポーツ基本法が令和7年に改正された際、第十四条「スポーツ事故の防止等」に関する項目に、「気候の変動への対応に特に留意しなければならない」という一文が追加されました。
「気候変動への対応」についてはこれまでスポーツ界でおこなわれていた熱中症予防などの「適応策」のほうが注目されがちですが、「緩和策」と「適応策」は両輪であるべきですし、今後はGHG排出量を削減するといった「緩和策」もスポーツ界として積極的に取り組んでいくべきと思います。

井本

まず、改正スポーツ基本法が変化する気候条件を認識したことは大きな一歩ですよね。私たちはまず、スポーツが続けられる環境を整備することに、大前提で取り組まなければならないことは間違いありません。しかしおっしゃるように、「適応策」だけではなく、スポーツ界が社会の課題を解決するために私たちが変わる、という思想に転換するにはまだ少し時間がかかるのかなと思います。

私たちが認識しなければならないのは、スポーツをする人たちは気候変動の影響を受けている被害者ではありますが、同時に加害者でもあるわけですよね。

普通にエネルギーたくさん使って運動をしている時に、「自分たちは被害者であるから」「守らなくては」というだけでは、スポーツとして社会にその意義を示せないと思うので、やはり自分たち自身もGHG削減に取り組み、しっかりと社会へのメッセージを打ち出していく、気候変度の影響を軽減することに貢献していく、そういった文化になるには、急速に意識の転換が求められていると思います。

井本
石塚
石塚

本当におっしゃる通りで、極端な話、スポーツってやらなくても生きていけるというところがあって、戦争をしている国や災害に見舞われた地域もある中で、平和な世の中だからスポーツを楽しめる状況があります。だからこそスポーツを守っていくために、スポーツ界から気候変動対策などを発信していかなくてはなりません。

ある意味やってもやらなくてもよいものを残していくためには、社会に受け入れてもらわなければいけないと感じていて、そうなるとやはりスポーツから、気候変動を含めた社会課題の解決に貢献するための動きをしていかなければいけないと強く感じています。

井本

こういった社会課題に対する考え方は多種多様なので、私もいろんな人と対話をしていく中で、どの角度で言えばみんなが腑に落ちるだろうと考えています。
自分たちが1番大好きなものができなくなってしまう、奪われてしまうんだと思って行動を起こす人もいれば、私たち大人が見過ごしている状況がそのまま子どもたちに受け継がれていくのを見過ごせないという人もいます。

私はずっと発展途上国で働いてきたので、気候変動による災害のしわ寄せが途上国に大きくのしかかってきていて、台風や干ばつ、飢餓などが起こり、難民が出てくるような状況になっているのを見てきています。
「気候正義」の問題には、先進国のGHG排出によって、途上国が自然災害の形でそれを請け負わなければいけない地理的な問題や、今までの世代のせいで子どもたちが異常気象を請け負わなければならない「世代間正義」の問題があって、私の場合はそういった不条理にすごく憤りを感じます。

スポーツのみならず、子どもがいる人は子どもの未来のためにと思うかもしれないし、コーヒーが好きな人にとっては大好きなコーヒーが飲めなくなるとか、魚が好きな人は大好きな魚が食べられなくなるとか、その人にとって大事なものが失われてしまう状況において、自分たちが何をすべきか考えられるような人が増えてくることに期待しています。

井本

さまざまなスポーツでおこなわれている 「グッドプラクティス」な取り組みとは?

石塚
石塚

次に気候変動対策として、スポーツ界でおこなわれている好事例、「グッドプラクティス」についてお聞きします。
ここ最近のオリンピック大会では、大会運営にかかる電力を再生可能エネルギーにしたり、聖火台やトーチに水素を使ったり、リユース・リサイクルを促進したうえで、最終手段としてどうしても削減することができないGHG排出量を「カーボンオフセット※」により実質ゼロにすることがおこなわれています。これは2024パリ大会も同じようにおこなわれていましたし、パリ大会の場合はそもそも排出されるGHGを、2012ロンドン大会と2016リオデジャネイロ大会の平均の排出量に対して半分以下に削減したことも話題となりました。
※カーボンオフセットは、最大限の配慮をしても、どうしても発生してしまう排出量を計算し、その分を他の場所で相殺・埋め合わせるという制度。例えば、風力発電や水力発電などの再生可能エネルギー開発プロジェクトに投資することにより実現できる削減量、あるいは、植林や間伐などの森林管理プロジェクト等により実現できる吸収量を、決められた方法に従って数値化し、取引可能な形態(クレジット)にし、自身が発生させた排出量の分のクレジットを購入するといった仕組みのこと。

オリンピックはもちろん、それ以外の国際的なスポーツイベントやスポーツ団体などで「グッドプラクティス」に取り組まれている事例などを教えてください。

井本

まず一番重要な「スポーツを通じた気候行動枠組み」という世界的な枠組みがあって、2030年までに今のGHG排出量の半分を目指して、そこからさらに2040年までに実質ゼロにする目標を掲げています。
みんなでGHG排出量を「計って、下げる」取り組みに対して、世界で300団体以上が署名。世界中の大きな団体が名を連ね、日本では日本オリンピック委員会(JOC)、日本ラグビーフットボール協会、Jリーグ、 FC東京、名古屋ダイヤモンドドルフィンズの5団体が活動しています。

オリンピックや世界選手権などのビッグゲームにおいては、こうした環境への取り組みが主流になっています。日本の例で言うと、昨年の世界陸上東京大会の前にワールドアスレティックスが定めた「大会の持続可能性評価基準」で最高位のプラチナ認証を獲得しました。

世界陸上に関しては、GHG排出量の算定・削減ということが招致の条件になってきていて、今後こうした大会がどんどん増えていくと思います。世界水泳も同じように変わりつつありますね。
取り組みを行なわないと国際大会を招致できなくなり、そうすると競争力が落ちますから、そこに対して国内のNF(中央競技団体)も対応してかなければいけない時代になっていくと思います。

井本
石塚
石塚

競技力向上と気候変動対策はもう表裏一体だということですね。最近はアスリートが中心となって気候変動対策を啓発するイベントも行われ始めていますね。

井本

JOCが開催したノルデイックスキー複合の渡部暁斗さんの気候変動対策を啓発するイベント「WATABE AKITO’s LAST JUMP powered by you」はすごく意味があるものでしたし、渡部さんをはじめ、スキージャンプの高梨沙羅さん、ラグビーの五郎丸歩さんといった方々が啓発イベントをどんどん実施されているというのは心強いなと思います。
あと日本では「ワールドトライアスロン・パラトライアスロンシリーズ横浜大会」が早い段階から国際環境認証を取っていますよね。

井本
石塚
石塚

参加者から「環境協力金」を集めていて、さらに選手もそれを理解しながら参加するという非常に興味深い事例ですよね。

トライアスロンは実際に自然に触れながら競技をするというところで、自然をまもならければならいといった意識が芽生えるんだろうなと思います。

井本

実際に横浜の海もすごく綺麗になったそうですし、その実感があるのでしょうね。

井本
石塚
石塚

そうですね。「グリーントライアスロン」という大会のプレイベントでは海底清掃がおこなわれていますよね。

井本

参加者には「完走わかめ」という、乾燥と完走をかけたわかめが配られるのも洒落てますよね。

井本
石塚
石塚

日本の取り組みで言うと、日本セーリング連盟さんもさまざまな活動をされていて、サステナビリティに関する取り組みに対する支援や、インセンティブの施策として補助金制度などをおこなったり、個人で使えるアプリをつくったりされています。

また、大会ではGPSが搭載された自走式のマークブイを使用して船の稼働数を削減し、燃料による環境負荷を減らせるなど環境に配慮したレース運営をされています。

井本

国内の大会では鈴鹿サーキット、鈴鹿グランプリでも素晴らしい取り組みをされています。3日間で30万人以上の観客動員数がある巨大イベントですが、駐車場のカーポートに太陽光発電がズラリと敷かれ、自家発電でGHG排出量を削減していますし、F1車の燃料もどんどんバイオ燃料に変わっていっています。

会場内では使い捨てプラスチック類は販売されておらず、リユース食器が導入されたり、色々な面ですごくリサイクル率が高いことをされていて、2030年を前倒ししてカーボンニュートラルを達成するというイベントも計画されています。

他にも、日本水泳連盟では古着や着なくなった水着の回収をここ何年かおこなっていたり、横浜でおこなわれたカーリングの大会でもマイボトルを推進していて、ベッドボトルを極力少なくしてゴミを減らす活動に取り組んでいます。

井本
石塚
石塚

そういったことを色々な競技団体が取り組まれていると思いますが、あまりアピールをされていないから知られてないことがすごく多いように思います。一方、海外はPRが上手ですね。例えば、Amazon社のスタジアムには”Amazon” と謳わずに”Climate Pledge Arena”(気候制約アリーナ)と名前をつけて、気候変動への関心を呼び掛けていますね。

井本

そうなんですよね。鈴鹿サーキットを運営されるホンダモビリティランドさんは、ずっと環境対策に取り組んで先進的な取り組みをされているけれど、私たちが2年ぐらい前に注目し始めた際、他のスポーツの方々からそこまで評価されると思わなかったと。
環境対策をきちんと評価することをこれまで私たちはやってきていないから、やっても報われないと思ってしまい、良いことをしているのに疲弊してしまうところはあると思います。

そのような点では、今Jリーグがやっている「スポーツ・ポジティブ・リーグ」は“評価される”ことを考慮した好事例と言えます。
これはJ1からJ3までの60団体が、気候変動対策にとって重要な12項目の取り組み状況をポイント制で競ってランキング化され、上位のチームにはしっかりと活動奨励金が出るようなシステムになっています。イギリスから導入された制度ですが、気候変動に対する自分たちの取り組みをしっかりと見せていくことが、スポーツには求められると思います。

これが、自分たちの環境への負荷を下げるということだけになってしまうと、やはりインセンティブが小さくなってしまうと思いますが、制度化や「見える化」することでクラブのスタッフだけでなく、観客やプレーヤーの意識を変え、対外的なPRにもなっていると思います。
そういう意味ではJSPOさんの啓発ツールや指導者研修は、気候変動対策をPRする良い機会になるのではないでしょうか。

井本
石塚
石塚

確かにそうですね。JSPOが何か取り組みをするということも重要ですが、それと同時に我々は統括団体として、各団体が取り組まれていることを共有する立ち位置にいると考えています。スポーツ医・科学委員会では研究事業を立ち上げ、その成果を基に啓発ツールを制作しています。
啓発動画再生数はもう少し頑張らなくてはいけませんが、導入編は約2万回再生されていて、気候変動について少しずつ関心は持ってもらえるようになってきました。その他、国スポにおける取り組みや、先程紹介したトライアスロンジャパンさんや日本セーリング連盟さんの取り組みを取り上げさせていたただいています。

その他オンデマンド研修会「JSPOスポーツと環境フォーラム」を開催し、指導者の皆さんにもこのスポーツと気候変動の問題についてご理解いただくための仕組みづくりをおこなっています。

また2026年度からはスポーツ医・科学委員会が主管する研修会では、参加料と併せて「環境・気候変動対策協力金」をいただくことにしました。これはJSPOの組織運営全般にかかる温室効果ガス排出量を削減する活動費に充てることで、スポーツ界に還元させていただきます。
例えば、JAPAN SPORT OLYMPIC SQUAREで使用する電力の再エネ化。そして皆さんにお配りする印刷物の環境負担軽減など。印刷物については環境に配慮した紙やインクを使用したり、認定工場を選ぶとなるとその分経費が上乗せされるので、そこに充当することを考えています。

JSPOの活動について報告させていただきましたが、井本さんが理事をされている日本バドミントン協会は今新しい活動されていて、そちらもすごく気になっています。

井本

昨年ようやくサステナビリティ戦略「Rally for Earth」を打ち出しまして、2026年の4月から日本財団の助成金を得て、今その取り組みが始まったところです。
バドミントンは、シャトルを作るのに水鳥の羽の恩恵をもらってプレーができているスポーツですから、水鳥や自然に感謝し、生育環境を知り、水鳥が置かれている危機についてしっかり理解をして、それを防ぐために行動を変えていくことを目標としています。

今はまだ始めたばかりですが、まずは協会内での勉強会や大会での啓発を始めています。今後は使い捨てプラスチックの削減や、大会におけるリサイクル活動、GHG排出量削減などに取り組みたい。バドミントンは子どもにも人気のスポーツですから、網羅的に分かりやすい形で教育的な要素をしっかりと考えて、「バトミントン=鳥と人間の生育環境を守っていくスポーツ」というふうに文化を変えていきたいと思っています。

井本
石塚
石塚

競技人口も多いので、スポーツを通じた気候変動対策のリーダーになり得る競技だと感じています。

私は昔バドミントンをやっていたのでわかるのですが、羽が折れるとプレーに影響がでるため、かなりの頻度でシャトルを交換しますよね。当時はあたりまえのようにシャトルを交換していましたが、水鳥や自然環境にまず感謝の気持ちを持つことが大切なんだなと感じています。

井本

まずは水鳥の羽が使えていること、それらが当たり前ではないという状況を知って、感謝をすることですよね。バドミントンができていること、シャトルの供給が難しければナイロンに移行すればいいと思う方もいると思いますが、これまで続いてきたバドミントンの“起源”は変わりません。自然に感謝する気持ちを、体育館競技ですけれども、大切にしていきたいと思います。

井本
石塚
石塚

グッドプラクティスの部分で、「HEROs PLEDGE(ヒーローズプレッジ)」というアスリートを中心とした活動がありますが、こちらの活動についてもお聞かせください。

井本

こちらは2年ちょっと活動してきましたが、スポーツ界横断でアマチュアもプロもみんなで気候変動の問題に向き合えたのは画期的でした。担当者同士が繋がって、みんなで学んで、みんなでアクションするというプラットフォームができてきたというのがとても大きいと思っています。

勉強会を20~30回と重ねてきたので課題に対する知識はすごく上がっているし、何をしなければいけないかも、みんな分かってきています。その中で、最終的にはコストがかかるとか、スポンサーをつけなければというふうになってしまうのは多少仕方ないところもあるんですけれども、お金をかけなくてもできることって実はたくさんあると思うんです。

たとえばゴミを減らすことによって、ゴミの処理代が下がります。そういったことも学び、情報交換していけるような、ありとあらゆるスポーツ団体、リーグと企業、専門家も含めて繋がるプラットフォームができたと感じています。

井本
石塚
石塚

ヒーローズプレッジにはどんな競技のアスリートがいるのですか?

井本

サッカー、バスケットボール、ラグビー、セーリング、トライアスロン、バドミントンの6競技。Jリーグや日本バスケットボール協会など、いろんな方々が参画してくれています。

井本
石塚
石塚

環境問題に取り組む姿勢とか、積極性のある競技に何か特徴がありますか?

井本

今のところJリーグが制度化されているので進んでいますね。日本セーリング連盟やトライアスロンジャパンは、国際競技連盟(IF)がかなり進んでいてそれが降りてきている現状がありますし、東京世界陸上はワールドアスレチックスからの評価基準があったと先ほど話しました。やはり日本人の場合、外圧が大事だなと思います(笑)。

井本

個人一人ひとりができることを、 チームや組織の動きにして、大会でおこなえるようにしていく。

石塚
石塚

気候変動対策としてスポーツ界の取り組みについて話してきましたが、個人やもっと身近な単位でおこなえることについて話したいと思います。JSPOとSDGs in Sportsさんで作成した「スポーツ×気候アクションリスト」もありますが、私たちが気候変動対策に取り組む際のポイントなどを教えてください。

井本

個人の取り組みももちろん大事ですが、それをチームでやるとか、大会でやるとか、より多くの人と一緒にやっていく、個人の活動だけにしないということがすごく大事なポイントと言えます。
できればその取り組みを年間を通して当たり前におこなうような動きを、選手や指導者たちに起こしてもらいたいですし、そういう大会を増やしていくことが求められているように思います。

井本
石塚
石塚

大会を増やしてくというのは、「環境×スポーツ」や「気候変動×スポーツ」のように冠にそういったワードがついているような大会イベントを開催していくということでしょうか。

井本

そういうプロモーションも大事だと思いますし、あとはそれをルール化していって、1つの大会だけではなく、より多くの大会でそれが当たり前になってくるといいですね。
ドリンクにしてもペットボトルではなく、マイボトルを持参したり、地球に良いことを積極的におこなうスポーツになっていくことをみんなが心がけていく。一人ひとりの意識も大切ですが、それを集約してチームや組織の動きに変えていき、それが大会の動きになっていくような社会変革の努力が求められていると思います。

井本
石塚
石塚

そうですね。個人の行動には限界がありますし、日本人は節約思考でいろんなことをやっていると思いますが、それを集団でやるとなるとなかなか難しい。トップダウンじゃないとなかなか動かないというところがあると思います。

井本

私が今のままの行動をしていては地球温暖化はどんどん進んでしまうので、現状のシステムを変えていく意識をみんなが持たなければなりません。それを痛みや不便に感じるのではなく、私たちがよりよく暮らすための活動なんだと、みんなで思えるようにならないといけないですね。

井本
石塚
石塚

まずは個人や団体でできることとして、「スポーツ×気候アクションリスト」を活用していただきたいですね。

井本

例えば、ゴミを減らす、そのためにも買う前にそれが本当に必要か考える。マイボトルやエコバッグを使うなど、リストには何をしたらいいかが分かりやすく書いてあります。

その中でも、スポーツをする上では、移動にかかるGHG排出量が実はとっても大きいということに私たちは気づかなければいけません。
そのためにも、車で送迎する場合には乗り合いにしたり、みんなでバス移動したり、飛行機にしても国内線だったらある一定のところまでは飛行機ではなく他の公共の交通機関を使うことでGHG排出量削減につながります。また、体育館や室内で使用する電源を再エネに切り替えたりすることでもGHG排出量を減らすことができます。

繰り返しになりますが、気候変動対策は個人の努力だけではなく、ぜひチームとしても取り組んでいただき、より多くの人たちに呼びかけていってほしいと思います。

井本

地球の未来、スポーツの未来は、みんなで守る。

JSPO Plus編集部
JSPO Plus編集部

スポーツをする人たちは気候変動の影響を受けている被害者であると同時に加害者でもある。対談中、井本さんが語ったこの言葉が印象的でした。
暑さを回避するためにナイターでおこなう。するとそこには膨大な電力が消費されます。練習場所や試合会場まで車で移動すれば、GHGが排出されます。このようにスポーツと環境問題は切り離すことができません。
50年先もスポーツが楽しめるように、まずは一人ひとりが気候変動や環境問題に関心を持ち、そして周囲にも呼びかけて、みんなでこの問題に取り組んでいきましょう。