無観客試合はスポーツにどのような影響を及ぼすのか。さまざまな角度から解説

ささえる
無観客試合はスポーツにどのような影響を及ぼすのか。さまざまな角度から解説
新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、スポーツ界でもアスリート、観客の協力のもとで無観客試合が開催されています。一方で無観客試合は、選手や観客だけではなく、経済面にも大きな影響を与えました。この記事では、新型コロナウイルスがスポーツ界に与えた影響をさまざまな角度から解説していきます。

明るい未来のために。新型コロナで変わったスポーツ界

新型コロナウイルスの影響により、「新しい生活様式」が求められる世の中に変わってきました。どの業界も明るい未来のために奮闘しています。もちろんスポーツ界も例外ではありません。新型コロナウイルスの影響で、スポーツ界にはどのような変化があったのでしょうか?

コロナによって一変したスポーツ界

新型コロナウイルスの影響で多くの人が外出を控え、旅行や飲食の機会が減りました。飲食店や施設でも、3密(密閉、密集、密接)を避け、手洗いなどの衛生管理を徹底するといったコロナ対策が取られています。

スポーツ界にも影響があり、多くの競技で試合の中止や延期、無観客試合が実施されました。Jリーグは、2020年2月下旬から予定されていた公式戦を延期。同年6月末より順次再開しています。プロ野球は、開催中のオープン戦72試合を無観客で実施しました。バスケ界は試合を延期、中止した後、無観客試合を開催しました。また2021年1月におこなわれた箱根駅伝では、毎年多くの観客が現地でエールを送る光景が見られますが、今年は選手の体調管理を徹底した上で、沿道での応援自粛などが呼びかけられています。

無観客試合はファンへはもちろん、選手の精神面や主催者側の経済面にも大きな影響を与えています。

今こそ結束が大切。無観客試合による経済への影響

無観客試合は、チームや興行主催者に経済的な影響を与えます。ここでは、無観客試合が経済に与える影響について説明します。

2020年上半期プロスポーツ業界の経済的損失は約1,272億円

2020年に開催されるはずの東京オリンピック・パラリンピックが延期となったほか、国民体育大会や日本スポーツマスターズなど数多くのスポーツイベントが延期・中止となりました。

関西大学の宮本勝浩名誉教授によれば、2020年1〜6月まで、国内プロスポーツ業界の受けた経済的損失は約1,272億円になったとのこと。関連業界を含めると2,747億円と推計されました。

東京オリンピック・パラリンピックに関する経済的損失

宮本勝浩名誉教授は、東京オリンピック・パラリンピックの1年延期による経済的損失を約6,408億円と推計。簡素化して開催される場合の経済的損失は約1兆3,898億円、無観客にて開催した際の経済的損失は約2兆4,133億円と試算しています。

また、もしも東京オリンピック・パラリンピックを中止と判断した場合は、経済的損失が約4兆5,151億円にも上るとのこと。

スタジアム経営は低迷

従来においてもスポーツ界では、特に企業母体のスポーツチームなどは、景気によりチームの運営や廃部など大きな影響を受けてきました。また、不景気による家庭の経済的理由でスポーツを断念する選手の事例も多くあります。

ですが、今、無観客試合によりスタジアムの経営はかつてないほどに低迷しています。

スポンサー収入は残っていますが、普段の観客がいないスタジアムでは集客価値も下がります。今後、スポンサー収入も減っていくと予想されます。

スタジアム経営への影響の他にも、チーム経営者の視点では試合をするのにコストもかかるので、観客動員による収入がなくなることによる経済的影響は計り知れません。また、興行主催者の視点から見ても、現状では、損益分岐点を考えて試合数を減らしたり、規模を縮小したりして、コストを削減していくしかないでしょう。

一方で、一部のフットボールクラブが所有しているスタジアムなどでは、こうした厳しい状況を少しでもつなぎとめようと、熱心なサポーターたちがクラウドファンディングやギフティングといった試みで支えてくれているという事実もあります。今こそ選手、経営者、サポーター、スポーツを愛する全員が結束することが大切なのかもしれませんね。

会場の盛り上がりもスポーツの魅力。無観客試合を選手はどう捉えている?

それでは選手に対する影響はどうでしょうか。実は選手たちも、コロナ禍で初めて「スポーツの魅力とは何か」を再認識しているようです。ここでは、無観客試合に対する選手や監督の声、スポーツ心理学博士の意見を紹介します。

サポーターの声援がないことへの寂しさを感じる

無観客試合では、選手や監督達も寂しさを感じています。サポーターの生の声援による後押しがないことが残念だという声もあります。サポーターからの声援が選手への大きな力となっています。

コロナ禍でも試合ができることは幸せなことだという声もありますが、やはりこうした状況になってみて初めて、観客の熱い声援と会場の盛り上がりを含めた「スポーツの魅力」を再認識している選手もいるようですね。

無観客試合はプレーに影響が出るという説も

スポーツ心理学博士の1人であるイ・サンウ博士は、無観客試合が選手のプレーに影響を与えると語っています。選手はファンの声援をエネルギーに変えている部分もあります。無観客だと本来のパワーが発揮できない、集中力が欠けるといった恐れもあるでしょう。

それだけではありません。選手だけでなく試合の勝敗にも影響を与えています。無観客試合ではたとえホームゲームであっても、アドバンテージとしてサポーターの大声援といった後押しを受けることはありません。そのため、例えば、審判から出されるペナルティの数が減る、ホームゲームのアドヴァンテージ(優位性)が少なくなるなどの影響が少なからずあります。

サポーターも無観客試合が与える選手への影響を感じています。J:COMが行ったプロ野球に関する意識調査によれば、無観客試合の中継を見た人の4割が「無観客試合は選手のプレーや勝敗に影響する」と回答しました。
参考:株式会社ジュピターテレコム|プロ野球の無観客試合に関する意識調査
https://newsreleases.jcom.co.jp/file/20072101_print.pdf

直接応援したかった!無観客試合によるサポーターへの影響

無観客試合で影響を受けるのは、ファンやサポーターも同じです。通常、試合会場まで応援に行っていましたが、それもコロナ対策により制限されました。一方で、新たにリモート応援システムやオンライン観戦が始まっています。ここでは、ファン・サポーターの声を紹介します。

観客のいない客席が寂しく感じた

上記のJ:COMによるプロ野球に関する意識調査によれば、試合をテレビや配信で観戦したファンからは「ファンのいない客席が寂しかった」「声援・歓声などがなく寂しかった」という声があがっています。特に、女性からは「選手に会いたかった」「直接応援したかった」などのネガティブな声が多くありました。

「リモート応援システム」が始まった

会社員が自宅にいてリモートで仕事をするように、スポーツ界にもリモートが導入されました。Jリーグは、ヤマハが開発した『Remote Cheerer powered by SoundUD』を活用したリモート応援システムを導入しています。このシステムは、スマホのブラウザやアプリ上で選手を応援できます。ボタンを押すだけでスタジアムのスピーカーから「歓声」「拍手」「激励」ができる、シンプルな仕組みです。

リモート応援システムを使った試合後の選手コメントによれば、選手達も観客がいるような感覚で試合ができたとのこと。
この機能は、遠隔や仕事で試合にいけない人、病気や寝たきりの人といった、事情があって試合やイベントの現地に行けない人達でも楽しめるように開発されました。

寂しい反面楽しめたとの声も

無観客でも選手のプレーを見られることは、ファンにとって嬉しいことなのかもしれません。「選手の声が聞けてよかった」「開幕を待っていたので無観客でも嬉しい」との声が多数、寄せられました。

無観客試合の導入により、新しい応援スタイルも誕生しています。自宅などで試合中継を見ながら、ファン同士がビデオ通話を介してつながる「オンライン観戦」も注目されています。新型コロナウイルスへの感染対策を考えるファンにしてみれば、感染を気にしないで中継を見られるオンライン観戦も新たな選択肢になっているようです。

普段は聞こえないような「打撃音・補給音が聞こえた」「選手の声が聞けた」など、「無観客試合はスポーツの楽しみ方を広げてくれた」という意見もあり、限られた現状の中、前向きにとらえている人も見られました。

無観客試合になってもなお、熱い応援は続く

新型コロナウイルスの影響で、中止や延期を余儀なくされたスポーツの試合。入場制限・入場規制がされた上で、2020年7月から観客を受け入れる動きが始まりました。リモートでの応援も取り入れられ、新しいスポーツ観戦のスタイルも確立されつつあります。スタジアムに観客がいてもいなくても、選手に対するファンからの熱い声援は続いていくでしょう。

それでもやはり、スポーツファンとしては、気の置けない仲間や家族と肩を並べ、興奮渦巻くスタジアムやアリーナをワクワクしながら訪れ、選手に直接声を届け、現場ならではの迫力と臨場感に浸り、選手のプレーに熱中するあの楽しさを早く取り戻したいですね。心からコロナ禍の収束が待ち望まれます。