「盗撮・性的画像被害からアスリートを守る~現状と課題~」をテーマとしたシンポジウムが開催されました。

ささえる
「盗撮・性的画像被害からアスリートを守る~現状と課題~」をテーマとしたシンポジウムが開催されました。
2021年5月23日(日)、アスリートを悩ます盗撮・性的画像の被害に関するシンポジウムがリモートで開催されました。実際の盗撮被害に悩む競技現場の現状報告をはじめ、被害の対象となる選手側の視点、選手の救済に立ち向かう司法の取り組みや、競技や選手について報じるメディアの立場など、さまざまな角度から発表があり、司会の宮瀬茉祐子氏(元フジテレビアナウンサー)の進行のもと、パネリストの皆様とともに闊達な議論が展開されました。
パネリストならびにプログラム

(1)問題の経緯と陸上競技における取り組み
工藤洋治氏(弁護士、日本陸上競技連盟・法制委員会)

(2)盗撮・性的画像被害の法的問題点
三輪記子氏(弁護士、日本スポーツ法学会会員)

(3)立法に向けた議論状況と課題
上谷さくら氏(弁護士、法務省「性犯罪に関する刑事法検討会」委員)

(4)アスリートの立場から
伊藤華英氏(オリンピアン、元水泳選手)

(5)取材で見えてきたもの
鎌田理沙氏(共同通信社名古屋運動部記者)
品川絵里氏(共同通信社大阪運動部記者)

(6)パネリストディスカッション

(7)質疑応答

盗撮・性的画像の被害によって、本来のスポーツの楽しみばかりか、人間の尊厳まで傷つけられている。

実際の陸上競技における被害や問題点について

以前からアスリートや競技関係者を悩ます「盗撮」について、実際の競技現場ではどんな被害や問題が起こっているのでしょうか。本問題に競技団体の立場で関わってこられた弁護士の工藤洋治先生はこう話します。
「ただ競技をしているだけなのに、なぜネット上でこんな仕打ちを受けなければならないのか…」。昨年7月末に陸上競技の複数の女性アスリートからこうした声が上がり、「日本陸連のアスリート委員会」に相談がありました。競技会における「盗撮」の被害はすでに2000年代からあったため、被害が発生しはじめたというよりも、被害が認知されるようになってきたと言えます。

盗撮の具体的な被害例は、「短距離のスタート地点後方でカメラを構え、選手が腰を上げた瞬間を狙う」「跳躍走路の正面から望遠カメラで股間を狙う」といったもの。短距離や跳躍種目が被害を受けやすいのは、競技特性から体に密着したユニフォームが選ばれやすいこと、競技動作の中で下半身が狙われやすい態勢になることが多いからだと考えられます。

選手はこうした撮影者の存在が目に入ることで、不安・心配になり、本来の動きに躊躇が生まれ、パフォーマンスが低下することに。最近ではSNSや動画投稿サイトが広く使われるようになり、被害がいっそう深刻になってきています。
【例】
・選手の画像に卑猥な言葉をつけてSNSに掲載する
・選手の写真に体液をかけた画像や、さらには動画などを掲載する
・コロナ禍で無観客開催となった大会でLIVE配信したところ、応援メッセージ欄に特定の選手に対する性的な書き込みがあった
こうした被害実態を受け日本陸連としては、これは陸上競技だけの問題ではない、スポーツ界全体の問題であると捉えJOCに相談に行き、その結果、JOCが関係諸団体と連携して昨年11月に共同ステートメント(アスリートの盗撮や写真・動画の悪用、悪質なSNS投稿は卑劣な行為です)が公表されました。

盗撮・性的画像の被害は、アスリートに限った問題ではない。

こうした盗撮・性的画像の被害は、何もアスリートに限った問題ではありません。弁護士の三輪記子先生はこう話します。
今や盗撮の手段のトップはスマホです。スマホは撮影していることがわかりにくいため、アスリートの盗撮以外でも、駅構内やショッピングモールなどの商業施設、学校、職場、航空機内でも深刻な問題になっています。

そもそも日本では「盗撮」といった行為や「性的画像投稿」を直接取り締まるような法律がないため、現状では各都道府県の条例などで対応していますが、都道府県の条例は各地で規制が異なるため、場所によって規制される・されないといった可能性も出てきます。

こうした条例は法律の範囲内での規定ですから、どうしても罰則が軽く、行為の抑止力が弱いことなども指摘されます。さらに航空機内(上空)ではどの都道府県の条例を適用するかが不明で、処罰が不可能になってしまうという問題もあります。

社会的には数ある「盗撮・性的画像被害」のなかで、アスリートの性的ハラスメント目的の撮影・SNS投稿が規制されるべき理由を見てみると
(1)アスリートは自身の競技力向上のために取り組んでいる。
(2)自分自身が性的に消費されるというのは想定の範囲外である。
(3)性的ハラスメント目的の撮影やSNS投稿というのは選手の身体に直接接触はないが、身体の接触のある痴漢行為に近いものがある。
(4)加害者にとっては一瞬の行為かもしれないが、被害者にとっては一生残る傷となる。
(5)こういった行為が放置されることでアスリートが競技から離れる可能性がある。
(6)すなわちその人がその人らしい行動ができなくなる。
こうした性的ハラスメント目的の撮影・SNS投稿によって、その人の尊厳が侵害されていると言えます。こういった状況は、一定程度の法的規制により保護されるべきと考えます。

個人の尊厳(憲法13条)の侵害は直接的な身体の接触がなく目に見えにくいため、人によって捉え方が異なります。この見えにくいものをどのように可視化していくか、「その人」がその人らしく生きていくには、周囲はどうすればいいか、そして「その人」はあなた自身かもしれないし、あなたの大切な人かもしれません。
盗撮・性的画像被害の問題は、アスリートはもちろん、日常生活でも大いに関わる可能性があるため、ぜひ多くの方々に興味をもっていただきたいと思います。

盗撮・性的画像の被害に対する現行法の問題点

三輪先生もご指摘されたように罰則が軽く行為の抑止力が弱い「盗撮・性的画像被害の問題」に対して、立法化に向けて取り組まれている弁護士の上谷さくら先生はこう話します。
こういった被害が立法課題になった背景には、平成22年4月から平成25年12月までの間に起こった「宮崎強姦ビデオ事件」があります。これはアロママッサージ店の中で、それを経営している男性が女性客に対して強姦や強姦未遂、強制わいせつなどを行った事件で、起訴されているだけでも5件ありました。

被告人はその様子を被害者に無断で隠し撮りしてデジタルビデオカセットに録画し、それを保管。逮捕後、被告人は「このビデオは無罪を証明するビデオだ」と主張し、強硬にビデオの原本を所持し続け、任意提出にも応じませんでした。
そのビデオをどう没収するかが争点となり、第一審の宮崎地裁では没収の言い渡しをしています。最高裁も没収を認める決定を出しましたが、被害者にそれぞれの犯行の様子を撮影・録画したことを知らせて捜査機関に被告人の処罰を求めることを断念させ、刑事責任の追及を免れようとしたため、という限定付きでした。
つまり、このような犯行場面を撮影していても無条件に没収できるものではない状況でした。

このような事態を受け、私が所属する犯罪被害者支援弁護士フォーラムでは、「盗撮罪」を立法化する必要があると考え、平成30年7月に啓発チラシと条文案を発表。以来、歴代の法務大臣に申し入れを続け、ようやく昨年の4月に性犯罪に関する刑事法検討会の論点にこの撮影の罪が入ることになりました。
【処罰されるべき対象行為として挙げられた類型】
(1)強制性交等などの犯行の場面を撮影する行為
(2)被害者に気づかれずに撮影する行為(現在の都道府県条例)
(3)アダルトビデオに出演を強要して撮影する行為
(4)ユニフォーム姿のスポーツ選手の胸部や臀部を殊更にアップして撮影したり、脚を開くなどの特定の姿勢を撮影したりする行為
(5)子どもの水着姿やブルマ姿の姿態を撮影する行為

カメラからスマホへ、当時の被害の様子について

北京、ロンドンと2大会連続でオリンピックに出場した元競泳選手の伊藤華英氏は、当時の様子をこう話します。
私は2008年と2012年にオリンピックに出場しましたが、日本代表になったのが2000年の16歳の時でした。その当時からコーチや関係者の皆さんから、「どのカメラでどういうふうに撮られているかわからないから気をつけなさい」と言われたことを覚えています。

その当時は赤外線を使った悪質な撮影も行われていました。私の場合、プールから上がる瞬間にお尻を撮られたり、顔を下げたところ胸の部分を撮られたりしましたが、水の中にいる時間が長いので、陸上の選手に比べると撮られる時間は少なかったと思います。

まだSNSがそこまで発達しておらず、写真といえばカメラでしたが、やがてスマホで誰でも簡単に高画質で写真や動画が撮れるようになったことで画像投稿による被害という新たな問題が出てきました。私自身、SNSに変な動画が匿名のアカウントで何回も送られてきたことがあり、とても怖い思いをしました。

アスリートは別に写真を撮られたいために競技をしているわけではありませんが、純粋に競技の撮影として、競技の瞬間や、笑顔や真剣な姿などを撮ってもらえることはとても嬉しく思います。
ただSNSなどで個人の画像が勝手に拡散していったり、それによって誰かがお金儲けをしたり、そうしたことのためにアスリートが撮影されているわけではないので、ぜひ、ここでの議論が、将来いい方向に進めばいいと思っています。

取材を通して見えてきた、選手が抱える問題について

アスリートの活躍などを報じる立場で、この問題に取り組まれている共同通信社の品川絵里さんと鎌田理沙さん。取材を通して見えてきた問題点について品川さんはこう話します。
昨年の夏から取材を続けてきて強く感じたことは、未成年者もこの被害に遭い苦しんでいるということを、大人が深刻に受け止めていく必要があるということです。

ある大学生選手は、性的に加工された写真がSNSで拡散されたり、ダイレクトメッセージで性的や誹謗中傷のような言葉を受け取る被害に悩んでいて、同様の被害は高校のときから遭っていたと話してくれました。

こうした被害を受けていることは親に心配をかけたくないから話せない。また、友達にも話しにくいと言っていました。この問題は性的で他人には言いにくい内容であるため、特に未成年だとどう対処すればいいかわからないと思います。

多数の未成年者がインターネット上のハラスメントに悩んでいることを、今回取材して初めて知りました。スポーツ選手の例は氷山の一角、社会課題としてもっと向き合っていくべきだと感じています。
同じく共同通信社の鎌田さんはこう話します。
ユニフォームについて、いろいろ議論されていますが、工藤先生もおっしゃっていたように、アスリートはユニフォームに限らず自分の在り方を自分で選択する権利があると考えます。

昨年秋からの報道を受けて、ある陸上の女子選手に取材をさせてもらいました。その中で、SNSで女性のもとに「撮影されたくなければ露出の低いユニフォームを着ろ」といった心無いコメントが来たことを話してくれましたが、あまりにも相手へのリスペクトを欠いた乱暴なコメントだと感じました。

露出を控えろと言われたからユニフォームを変えるのではなく、セパレートのユニフォームでも、露出を控えたユニフォームでも、それぞれ尊重されるべきものだと考えます。そのためにも社会がアスリートや女性の権利を尊重する土壌を整えた上で、選手が自分の好きなユニフォームを着用できる環境がくればいいと感じました。

一連の報道について改めて思うことは、私たちマスコミだけがあれこれ被害について問題視しても、記事として世の中に訴えることができません。当事者の皆さまの考えを世の中に伝える媒体になることが、私たちメディアの社会的役割だと思います。

問題は選手に対するリスペクトの欠如、被害に遭った側に行動変容を求める社会の論調

「盗撮・性的画像被害の問題」における直接の加害者は、隠れて選手を盗撮する者や、匿名で心無い書き込みを投稿する者ですが、こうした問題の背景には、社会的な風潮や論調があると言います。

共同通信の品川さんが取材を通して感じたのは、こうした問題は他人へのリスペクトの欠如が根底にあるということ。表舞台でパフォーマンスを披露する選手に対し、そのパフォーマンスを批評するのではなく、まったく関係ないところで勝手にイメージをつくって発信する。このことがどれだけ選手の尊厳を傷つけるかということを、社会全体で自覚する必要があると言います。

また、盗撮や性的画像の被害に遭うのは、露出の高い(セパレート型の)ユニフォームを着ている側にも問題があるとするかのような社会の論調について、弁護士の三輪先生は言います。

そもそも被害者の落ち度をあげつらうような論調が世の中にはびこっている。結果として、アスリートのユニフォーム問題においても、被害を受けている側に行動変容を求める論調が出てきてしまう。何を着るかは個人の自由であることと、被害者の落ち度をあげつらうのはおかしい、ということを強く言いたいと思います。

競技現場に生じる問題点と、社会的な問題点を整理

【競技現場に生じる問題点】
・選手が悪質な撮影者の存在を目にすることで、不安・心配になり、本来の動きに躊躇が生まれ、パフォーマンスの低下を招く
・被害に遭った選手が競技から離れてしまう
・悪質な撮影者がいるため、選手が着たいユニフォームを着ることができない
・競技本来の楽しさが失われてしまう
【社会的な問題点】
・盗撮された選手に対して「露出の高いユニフォームを着ているほうが悪い」とする社会の論調
・撮られたくなかったら「露出を抑えたユニフォームを着ろ」など、被害者に行動変容を求める社会の論調
・「露出の少ないユニフォームを着たら、誰が女子スポーツを見るんだ」といった社会の論調
・これまで盗撮などを直接取り締まる法制度がなく、加害行為に対する抑止力が弱かった
・「美人過ぎる●●」など競技に関係ないマスコミの文言などが性的被害のきっかけになることがある
・盗撮・性的被害などに対する国民的意識の啓発がまだまだ足りていない

競技者が個人の価値観や尊厳をもって競技に臨める環境を目指す

弁護士の上谷先生によると、先日「盗撮罪」の立法化について検討会の取りまとめが終わり、これから法制審議会で議論され、そのあと国会で議論されることになるそうです。撮影の罪を必要とする国民的合意がないとなかなか法制化されないため、今後世論をどう盛り上げていくか、これからの動きが非常に重要だと言います。

こうした法整備の進展に加え、マスコミの正しい報道、さらには競技現場の対応や、見る側のモラル(選手をリスペクトする気持ち)のもと、競技者が個人の価値観や尊厳をもって競技に臨める環境が必要です。

弁護士の工藤先生は、本来スポーツにおける撮影は競技を盛り上げる手段でもあり、マスコミの方々の報道も非常にありがたく、スポーツを楽しむひとつの要素であると言います。
そう簡単なことではないけれど、それぞれの立場の人たちで問題意識を共有していくことが解決につながっていくと話します。
また、昨年11月に共同ステートメント(アスリートの盗撮や写真・動画の悪用、悪質なSNS投稿は卑劣な行為です。)が公表された後の進展について、工藤先生から報告がありました。
【ステートメント公表後の進展】

(1)JOC特設サイトに「情報提供窓口」が設けられ、令和3年5月10日までの半年間で約1000件の情報提供が寄せられ、今も日々増えている。

(2)令和3年3月、東京オリンピック・パラリンピックの観戦ルールの中で、性的ハラスメント目的の撮影が禁止事項(禁止行為)として追加された。

(3)同じく3月、スポーツ庁から全国の各スポーツ団体に対して、相談窓口の案内や今後の大会における取り組みが呼びかけられた。
紹介されている相談窓口の代表例は、総務省が設置した「違法・有害情報相談センター」。これはアスリート問題に限らず、ネット被害全般を扱う専門窓口であり相談件数は年間5000件以上。この10年で4倍に達している。

(4)令和3年5月、JOCの情報提供窓口に寄せられた情報をもとにした、初めての逮捕事例もあった。選手個人に負担をかけることなく迅速に立件できる案件として、まずは「著作権法違反」の事案が選ばれたと聞いている。今後は、名誉毀損(※)など、さらに別の犯罪類型での立件も期待される。
逮捕事例:女性アスリート画像に卑猥な文言を付してアダルトサイトに無断転載→著作権法違反
※シンポジウム開催後の翌6月には、実際に名誉毀損での逮捕例も出ています。

メディア、指導者、競技団体、それぞれの立場ですべきこと

競技会場で撮影している人が盗撮目的かどうか外見からは判断がつきにくく、またSNSなどの悪質な投稿者は匿名で他人を侮辱するため、犯人を特定することは必ずしも容易ではありません。
こうした状況のなか被害をなくすには、それぞれの立場の人たちが問題意識を共有し、それぞれの立場でできることを行うことが、解決につながっていくと考えられます。

(1)メディア

共同通信の品川さんは、メディアの取り上げ方にも問題があると言います。

競技中の写真に性的文言をのせて掲載したり、性的に見える角度や瞬間を意図的に狙って撮影したり。また、あきらかに選手へのリスペクトを欠いた報道として、選手にあだ名(例:美人過ぎる●●など)をつけて、競技からかけ離れた部分を執拗に注目するような報道もこの問題に加担してきたと、メディア自身、報道の在り方を見直す必要があると話してくれました。

同じく共同通信の鎌田さんも、体型や容姿など競技とあまり関係ないものを取り上げることを疑問視し、スポーツの現場に行くときは、その点に気をつけていると話してくれました。

(2)指導者

元競泳選手の伊藤さんは、指導者は選手にとっていちばん近い存在で、親には相談しにくい問題も監督やコーチに相談するケースが多いと言います。
選手から相談を受けたときに気をつけてほしいのが、「仕方がないだろう」といった加害者の肩をもつような発言。指導者はつねに選手の立場に立ち、選手の悩みを真摯に受け止める、選手の悩みを解決するための入口となる存在であり、いつでも味方でいてほしいと話してくれました。

弁護士の三輪先生は、指導者がハラスメントの二次的な加害者にならないかということをとても心配されます。選手が真剣に悩みを打ち明けた際、受け止める側がしっかり受け止めてあげられないと傷つく選手が出てくると話してくれました。

弁護士の上谷先生も、性被害自体よりも、その相談を受ける中で、「そんなの気にするな」「自分に落ち度があったんじゃないか」などと指導者に言われたことでPTSD(Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害)を発症することが多いと感じているそうです。
選手の悩みに寄り添うことはとても重要とされ、指導者の皆さんはそのことをより強く自覚し、今後も研修などを行っていただきたいと話されました。

弁護士の工藤先生は、昨年の秋以来の取り組みとしてJOC内にできた情報窓口について触れ、まずは最低限、被害に遭われたあるいは指導している選手が被害に遭っている場合は、この情報提供窓口への一報を呼びかけます。

(3)競技団体

競技団体の立場で盗撮などの被害に取り組まれる弁護士の工藤先生によると、今年の1月から2月にかけて日本陸連が全国の陸上競技団体(各都道府県の陸上競技協会や、各協力団体:実業団・学連・高体連・中体連など)にアンケート調査を実施したところ、ほとんどの団体が、迷惑撮影への対策をとっていることが確認できたそうです。

実際、競技会場で「迷惑撮影」か「競技を対象とした撮影」かは、見た目ではなかなか判断できませんが、撮影をしている人自身はそのことをわかっている(うしろめたさはある)と言います。

そこで、競技会の現場で「迷惑撮影を許さない」とアナウンスしたり、観客も一体となってその価値観を共有することで、迷惑撮影をしにくい雰囲気(迷惑撮影をするような人にとっては、この会場に居づらいなという雰囲気)を会場全体、社会全体でつくっていくことが大事であると話します。
【競技会場で盗撮を阻止する取り組み例】
・会場で「迷惑撮影を許さない」とアナウンスする
・撮影エリアに禁止エリアを設ける
・望遠カメラの持ち込みを許可制にする

被害が発生後の取締りではイタチごっこ、被害が発生する前の抑止が大切

陸上の日本インカレなどでは10年以上前から迷惑撮影の被害に悩まされてきたと弁護士の工藤先生は言います。
こうした被害に対し、当初は大会スタッフが巡回して不適切な撮影者を発見して注意するという、一種の取締りで対応していました。しかし、あまりにも被害がひどくなり、被害が発生したあとの取締りではイタチごっこで限界があるという考えに至り、被害の発生自体を最小化すること、つまり被害が発生する前の抑止が大切だという発想に転換しました。

そこで迷惑撮影防止を訴えるチラシやうちわを配ったりして、それによって観客も一体となってそうした行為を許さないという環境を醸成していこうという取り組みや、競技場のスクリーンに動画を流すようにしたんです。

この動画は、スポーツを愛する大学生たちが、大好きなスポーツを守るために、盗撮や悪質な投稿廃止を呼びかけるため自ら制作。動画のキャッチコピーは「陸上が好きだ。だから私は、迷惑撮影を許さない。」
この動画を含め、他の競技でもぜひ参考にしてほしいと思います。

迷惑撮影によって選手がベストなパフォーマンスをできない状況というのはスポーツを観戦して楽しむ私たちにとっても望ましくない状況です。これを他人事としてではなく、スポーツをする人、見る人、報道する人、スポーツを楽しむ私たち全員の問題として捉えて、一緒に抑止をしていく、ということが大切だと考えます。

本シンポジウムの提言について

最後に次のとおり「シンポジウムの提言」が示されました。
皆様が、各々の立場でこの問題にどのように取り組んでいけるのかを考える際に、このシンポジウムの内容が参考になることを願っております。
【本シンポジウムの提言】

①アスリートの撮影被害・ネット被害を取り締まる立法措置が急務
②アスリートを侮辱する卑劣な行為を許さない
③誰もが安心してスポーツができる環境を、スポーツ組織、各競技団体、そしてスポーツを楽しむ私たちが作り上げていく

シンポジウムの総括

今回のシンポジウムについて、シンポジウムの主催者である日本スポーツ法支援・研究センターの会長で弁護士の伊東卓先生は、次のように総括を述べています。
今般、「盗撮・性的画像被害」をテーマとしたシンポジウムを開催させていただきました。この問題については、JOCが共同ステートメントを発表してからマスコミに取り上げられるようになり、最近では、著作権法違反や名誉毀損罪での逮捕事案も出るようになりました。ようやく一歩前進したというところですが、被害実態が深刻であるにもかかわらず有効な対策が打てていないという状況は、まだ打開されていません。今回のシンポジウムでは、この問題について、主に法的な観点から現状と課題を分析し、問題解決に向かって提言を試みました。このシンポジウムが、今後の被害の防止、アスリートの救済、立法的な解決に結び付いていくことを心から願ってやみません。

シンポジウムの動画はこちら

「盗撮・性的画像被害からアスリートを守る~現状と課題~」