運動の苦手な子どもほど楽しめる!? アクティブ チャイルド プログラム(JSPO-ACP)の効果を検証!

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運動の苦手な子どもほど楽しめる!? アクティブ チャイルド プログラム(JSPO-ACP)の効果を検証!
子どもたちの体力や運動能力の低下は、2000年を過ぎた頃から問題視されるようになりました。そんななか2008年から2010年にかけて、当時の文部科学省から「子どもの発達段階に応じた体力向上プログラムの開発事業」という委託を受け、JSPO(日本スポーツ協会)が調査・研究・開発したのが「アクティブ チャイルド プログラム(JSPO-ACP)※ 」です。
今回、JSPOでは一部の小学校を対象に、体育の授業の冒頭10分間程度に準備運動として、JSPO-ACPを導入した実証実験を実施。そこから見えてきたJSPO-ACPの効果について、JSPOスポーツ科学研究室の青野室長にお話を聞きました。

幼少期に多様な動きを経験することで、その後のスポーツライフが豊かになる。

JSPO Plus編集部
JSPO Plus編集部

まずはアクティブ チャイルド プログラム(JSPO-ACP)について、どのようなものか教えてください。

青野室長

アクティブ チャイルド プログラム(JSPO-ACP)は、子どもがさまざまな運動遊びを通して積極的に体を動かすことで、健やかな心と身体を育むプログラムです。
今、子どもの体力が低下していると言われていますが、実際はスポーツ少年団やスポーツクラブに所属している子どもたちの体力は昔も今もそれほど変わっていません。ただし、普段体をあまり動かしていない子どもたちやスポーツに関わっていない子どもたちが増えていて、そうした子がいきなりスポーツをおこなうのはちょっと敷居が高いので、まずはJSPO-ACPを通して、そういった子どもたちも楽しみながら身体を動かして、スポーツに馴染んでいってもらうというのが狙いです。

青野室長
JSPO Plus編集部
JSPO Plus編集部

すでにスポーツをしている子どもにとっては、JSPO-ACPは必要ないのでしょうか?

青野室長

いいえ。例えば、小さな頃からひとつの種目のみをしている子どもの場合、体力は高くても、その種目に関わりのある動きしか経験できません。いろんな動き、さまざまなスポーツに触れる経験をすることで、より豊かなスポーツライフが送れるようになるのではないかと考えます。
我々はJSPO-ACPを通じて、幼少期に多様な動きを経験させることが重要であるということを啓発しています。

青野室長

50m走の平均値が半年間で約0.6秒速くなった。JSPO-ACPに対してポジティブなコメントも。

JSPO Plus編集部
JSPO Plus編集部

今回、小学校の体育の授業に、JSPO-ACPを導入した実証実験を実施したとのことですが、どのような内容だったのですか?

青野室長

岐阜県のある小学校の全学年全クラス(小学1~6年生×3クラス:計524人)を対象に、体育の授業の準備運動として、冒頭10分間にJSPO-ACPを実践しました。通常だとラジオ体操や軽く走ったりするところに、オニごっこやボール遊びなどのJSPO-ACPを10分間、6ヵ月間継続して行いました。併せて、「50m走」「立ち幅とび」「ソフトボール投げ」の新体力テストを6月と12月に実施し、その記録の変化を全国平均と比較しました。

青野室長
JSPO Plus編集部
JSPO Plus編集部

新体力テストでは、どんな変化が見られましたか?

青野室長

50m走では、6ヶ月間で0.6秒速くなりました。下図の介入群の数値は、1~6年生まで男子と女子それぞれの記録の伸びの平均になります。ここでの全国平均の数値は、スポーツ庁が発表している1年間における記録の伸びを、6ヶ月分の伸びと想定して半分の値としています。結果、記録の伸びは、立ち幅とびやソフトボール投げでも大きな変化として見ることができました。
さらに、6ヵ月間JSPO-ACPをやってみた感想を子どもたちに書いてもらったところ、我々としても嬉しい声を聞くことができました。

青野室長
JSPO Plus編集部
JSPO Plus編集部

子どもたちはJSPO-ACPにどんな感想を持ったのですか?

青野室長

実施後のアンケートをテキストマイニング(テキストから単語の出現の頻度や出現傾向など、有用な情報を抽出する分析手法)で分析し、どんなキーワードが出てくるか確認したところ、下図のように「できる」ようになったとか、友達と「関わる」ようになったとか、「楽しい」といったワードなどが確認できました。1~2年生からは「疲れる」といった感想もありますが、これはきっとたくさん動いたから「疲れる(疲れた)」といったニュアンスだと思います。
我々の狙いとしては、たくさん動き回らせたかったので、すごく目的に合った言葉をもらいました。強制的にやらせて疲れさせるのではなく、自主的にもっと動きたい(もっと速く走りたい、もっと遠くにボールを投げたい)と思って動いた結果、「疲れる」という言葉が出てきたのはすごくいい傾向だったと思います。

青野室長

わずか6回の授業でも、子どもたちの心理面にいい影響が。長く続けることで、さらにいろんな効果が期待できる。

JSPO Plus編集部
JSPO Plus編集部

他の学校でもデータをとられたのですよね?

青野室長

東京都内にある小学校2校に協力してもらって、ここでは小学5年生だけ、2クラス×2校(計88人)を対象に、岐阜と同じように体育の授業の準備運動として冒頭10分間にJSPO-ACPを実践しました。
ここでは1単元、だいたい6回くらいの授業だったので、体力・運動能力に何か変化が出るとは考えにくく、前後で運動遊びに関するアンケート調査をしました。

青野室長
JSPO Plus編集部
JSPO Plus編集部

どういった項目でアンケートをとられたのですか?

青野室長

ここでは、運動遊びによる心理社会的効果(メンタルヘルス、社会性、意欲、集中力など)を評価するために「プレイフルネス」という考え方に注目しました。運動遊びの実践によって、結果として心理社会的効果が得られるわけですが、運動遊びと心理社会的効果を結びつける役割が「プレイフルネス」という考え方になります。すなわち、運動遊びそのものをおこなえば心理社会的効果が得られるというよりは、意図して「プレイフルネス」の要素を運動遊びの中で強調することで、さらに心理社会的効果を高めることになります。
したがって、運動遊びの実践により心理社会的効果を得るためには、単に運動遊びをおこなわせるだけでなく、「プレイフルネス」の要素を意図する必要があると考えられます。
この考えのもと、体育の「鉄棒運動」の準備運動としてJSPO-ACPを実践し、プレイフルネスを評価するための5つの質問(①夢中になれましたか? ②自分で決めたことを行うことができましたか? ③できるようになった・うまくなったと感じましたか? ④ルールを守れましたか? ⑤みんなといっしょに楽しめましたか?)などを用意し、それぞれ5件法で、「全く思わない」~「すごく思う」までどれかにマルしてもらいました。
その他、普段の生活習慣として、朝食を毎日食べるか、毎日どれくらい眠るかを調査しました。

青野室長
JSPO Plus編集部
JSPO Plus編集部

その回答からどういった効果が得られたと考えられますか?

青野室長

下記図にて質問の回答はそれぞれ次のワードとして示しています。
 ①夢中になれましたか?→「没頭」
 ②自分で決めたことを行うことができましたか?→「自己決定」
 ③できるようになった・うまくなったと感じましたか?→「有能感」
 ④ルールを守れましたか?→「集団ルール」
 ⑤みんなといっしょに楽しめましたか?→「人とのつながり」
回答を見てみると、「有能感」以外については介入後のほうが高く、プレイフルネスが強化されたと言えます。「有能感」とは「運動有能感」のことです。さすがに1単元6回の授業では、自分の変化にそこまで影響はなかったですが、わずか6回ぐらいの体育の授業でも子どもたちの心理面や、友達と仲良くできるというところにも結果的に良い影響が得られているので、1単元だけでなくもう少し長いスパンで実施できれば、さらにいろんな効果が得られると思っています。

青野室長

学校体育の目的は生涯にわたって運動やスポーツに親しむ素養を培うこと。できた・できない、体力が上がった・下がったはそれほど重要ではない。

JSPO Plus編集部
JSPO Plus編集部

こうした調査結果を得て、JSPO-ACPの魅力はどういったところにあるとお考えですか?

青野室長

ジュニア期のスポーツ活動においては、体力・運動能力が高い子どもほど楽しく、「有能感」を感じ、体力・運動能力が低い子どもは「劣等感」を感じてしまいがちです。ですが、JSPO-ACPの実証実験では、もともと運動有能感が高くない子のほうが運動有能感は高まっています。
だから我々は、「JSPO-ACPは運動やスポーツが苦手な子どもにこそ響く」と考えます。

青野室長
JSPO Plus編集部
JSPO Plus編集部

運動やスポーツが苦手な子どもにこそ響く、つまりみんなが楽しめるということですね?

青野室長

はい。だから学校の体育にも導入しやすいと思います。学校体育の目的は、生涯スポーツの基礎を培うことにあると文部科学省は掲げています。そこでできた・できないということをあからさまに強調して劣等感のようなものを植付けられがちですが、こうした体力や運動能力が上がった・下がったというのはそれほど重要であるとは思っていません。やればみんな上がりますから。
JSPO-ACPの目的としては、体力や運動能力を上げることが直接的な目的ではなく、楽しく積極的に運動・スポーツに関わるようになることなので、子どもたちが楽しく積極的に運動遊びに関わった結果として今回の結果が得られたことはとても嬉しく思います。

青野室長

JSPO-ACP親子体験イベントでは、運動遊びを通じて改めて親子の絆が深まると喜んでくれる親御さんの姿も。

JSPO Plus編集部
JSPO Plus編集部

これまでのお話を聞いて、JSPO-ACPはスポーツの入口としてぴったりだと思いました。

青野室長

今までは我々もスポーツ少年団や公認スポーツ指導者の方にJSPO-ACPをお伝えしてきて、スポーツ界では浸透しつつあるのかもしれませんが、次の課題として、教育現場や子どもたちを見守る保護者や親御さんに対して、JSPO-ACPでスポーツに対する意識やスポーツに期待するところを変えていきたいと思っています。

青野室長
JSPO Plus編集部
JSPO Plus編集部

今回、教育現場の事例を伺いましたが、親子向けのイベントなどもおこなわれているのですか?

青野室長

JSPO-ACPの親子体験イベントを開催しています。プロ野球選手やプロバスケットボール選手をゲストにお呼びして、毎回たくさんの方々にJSPO-ACPを体験していただいています。
小学生にもなると親子でスキンシップをとる機会も減ってしまいますが、実は親御さんは潜在的にそれを求めています。JSPO-ACPでは、親子で手をつないでオニごっこをしたり、積極的にスキンシップを図ったりするような運動遊びがあるのですが、JSPO-ACPを通して改めて親子の絆が深まると喜んでくれる親御さんが見られます。
「お子さんにタッチする代わりに抱きついてください」と言うと、親御さんたちはこのときとばかりに、一生懸命お子さんに抱きついていますから(笑)。

青野室長
JSPO Plus編集部
JSPO Plus編集部

JSPO-ACPは親子のスキンシップにも一役かうのですね!
貴重なお話ありがとうございました。

JSPO-ACP総合サイトはこちら▶https://www.japan-sports.or.jp/Portals/0/acp/index.html
JSPO-ACP親子体験イベント情報はこちら▶https://www.japan-sports.or.jp/Portals/0/acp/event_info.html