【女子相撲・今日和選手インタビュー】 「実際にやってみたら楽しいんだよ!」ということを多くの人に伝えたい

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【女子相撲・今日和選手インタビュー】 「実際にやってみたら楽しいんだよ!」ということを多くの人に伝えたい
小学1年生で相撲の楽しさと厳しさに出会い、以来、相撲とともに人生を歩み続ける今日和(こん ひより)選手。得意の押し相撲で自分より大きい相手にも真っ向勝負を挑むいっぽう、国技としてしきたりを重んじる相撲の世界のなかで、つねに女子選手たちの活躍の場を求め、土俵以外でも戦い続けてきたと言います。
今選手自ら海外で相撲教室を行うなど、女子相撲の普及活動に取り組むなか、2019年には、女子相撲を題材に描かれたドキュメンタリー短編映画「Little Miss Sumo」に出演。同年、イギリスBBCの「100 Women」にも選出された今選手に、大好きな相撲にまつわるさまざまなエピソードについてお話を伺いました。

小学1年生でいきなり四股200回!相撲から楽しさとともに厳しさも学んだ

--今選手が相撲を始めたきっかけは?

小学1年生のときに3歳上の兄に誘われて、地元鰺ヶ沢の道場に行きましたが、行ったらいきなり四股200回ですよ(笑)。子どもにとって四股そのものでもきついのに、それをゆっくりと200回、1時間くらいかけて行ってから本格的な稽古が始まるので、厳しい世界だなと思いました。
道場では少しでも怠けていると、監督から「何自分に甘えているんだ!」と檄がとぶ。入門当初から、年齢や性別に関係なく一人の相撲人として、しっかり鍛えてもらいました。

--そういった厳しい環境のなかでも今選手を惹きつけた相撲の魅力とは?

私はもともと内気な性格だったのですが、土俵に上がると「勝ちたい!」と思ったりして自分の意志を感じることができました。しかも、頑張ったら頑張った分、結果にもあらわれてきて、そういうのが楽しくて、嬉しくて、そこから相撲にのめり込んでいきました。

--元大相撲の舞の海さんの出身地でもある青森県鰺ヶ沢町の人たちは、小さい頃から相撲に親しんでいるのでしょうか?

各小学校に土俵があって、みんな小さい頃から相撲をしていました。鰺ヶ沢に限らず青森県は相撲が盛んで、当時、鰺ヶ沢には道場が1つでしたが、津軽には5つか6つ道場がありました。
中学、高校と県内の学校に進み、相撲部で稽古に励みましたが、一番稽古したのは小学生の頃ですね。中学では新しい相撲の型を覚えたり、高校でさらに技術を磨いたりして、いい指導者にも巡り合えて、人間的にも成長できたと思います。
青森の相撲の教えは、本当に厳しいものがありますが、おかげで実力、心身ともに強くなることができました。ただ、練習はあまり好きではなかったです(笑)。

相撲は人との距離を近づける。相撲から学んだ土俵以外で戦う術

--しきたりを重んじる相撲の世界、女子選手として苦労された点も多いのでは?

女子相撲の場合、まだまだ競技人口が少なく、活躍できる環境が整っていません。女子相撲には中体連や高体連がなく、国内で女子部門がある全国大会は日本女子相撲連盟が主催する大会のみ。
競技に打ち込むための環境を自分でつくらなければならず、そのため多くの人を巻き込んで道を切り開いていくことには苦労が絶えません。

--そうした経験を今選手はどのように受け止めていますか?

子どもの頃に相撲ができていたのは、指導者(大人)の方々が環境を用意してくれていたからで、今思えば本当に恵まれていたなと思います。
他の競技でも、用意された環境で「ただ勝つこと」や「強くなること」だけを追い求める選手がいるなかで、私たちは相撲を通じて技術の向上だけでなく、交渉力など土俵以外で戦う術を学ぶことができたので、今はむしろ相撲に感謝しています。

--他にも相撲で身に付けたことが活かされる場面などはありますか?

大学4年生のとき「この先も相撲を続けたい」と思い、大学のOBの方などを通じて、相撲部があるアイシンを紹介していただき、面接では私の相撲にかける思いをプレゼンしました。
相撲を通じてとにかくいろんな人を味方につけなければいけないことを学びましたが、このことは仕事でも活かされていて、同僚や上司から「人の懐に入るのがうまい」と言われます(笑)。もともと人と関わるのが好きということもありますが、相撲を続ける中で経験したことが、相撲以外の場面でも活きていると思います。

海外の選手から「相撲好きか?」と聞かれて、改めて気づいた相撲の魅力

--子どもの頃から国際交流に関心があったそうですが

その意識が芽生えたのは小学3年生のときです。世界大会で勝ってきたという道場の先輩の話を聞いて、「なんだ世界って?みんなにチヤホヤされてるじゃん!」と思い、そこから世界に興味を持つようになりました。

--世界大会で出会った海外の女子選手の印象は?

海外には相撲のことが大好きな、いい意味でぶっとんだ選手が多いんですよ(笑)。初めて海外で試合したとき、ある選手に「相撲は好きか?」と聞かれましたが、これまでそんな質問をされたことがなかったので、正直返答に困りました。
日本だと女子相撲はすごくマイナーだし、それを頑張っているからといって何なの?とか言われることがあって、あまり自分から相撲が好きだなんて思えたことはなかったのですが、海外の女子選手たちがすごく堂々としている様を見て「かっこいいな」と思った記憶があります。

--日本と海外では相撲に対する向き合い方が違うのですね

今の日本の相撲界は、アマチュア相撲であっても、「大相撲」のイメージが強すぎて敷居が高いというか、どうしても男性主体の競技というイメージを持たれがちなように思います。
でも、大好きな相撲について語る海外の女子選手たちを見て、自分たちは彼女たちのように「相撲が好きだ」とか「相撲についてこう考えている」といった意思表示ができていない、自分たちの努力が足りていないことも、そういったイメージを与える一因になっていることに気づかされました。
こうした経験から、海外の選手たちのように女子相撲に対してもっと強いアイデンティティを持ち、自分の気持ちや考えとともに相撲の魅力を発信していこうと思うようになりました。

相撲は心の豊かさにつながる。相撲を通じて私が貢献できることがあると思った

--今選手は相撲の普及活動も行われているそうですね

もともと国際交流に興味があったので、大人になったら、海外に行って子どもたちに相撲を教えたいと思っていました。
競技として勝つことも楽しいですが、子どもを転ばせてあげたり、自分が転んであげたり、そういう遊びの要素が入った相撲もすごく楽しいんです。
楽しんだり、悔しがったり、仲間と協力し合ったり、海外で相撲に夢中になる子どもたちを見て、「相撲ってすごく心の豊かさに繋がるんだな」と思いました。
そして、心の豊かさを育むというところにおいては、日本の子どもたちに対しても私にも貢献できることがあるのではと思い、日本を拠点にして普及活動などに力を入れたいと考えるようになりました。

--女子相撲を題材とした映画にもご出演されていますね

はい。イギリスの映画監督が女子相撲の映画を撮るということで女子選手を探されていました。当時(2019年)、私は立命館大学の相撲部に所属していましたが、1つ上に相撲界で有名な先輩がいて、監督たちがその先輩に会いに大学に来たところ、「何やら、やたら相撲っぽいレスラーがいるぞ!」と私が監督の目にとまり、出演することになってしまいました。
映画を見た人たちからは「カッコよかったよ!」と言ってもらえました。相撲やスポーツをしていない人たちにも相撲の魅力を届けてもらえましたし、映画の中では女子相撲が抱える問題もいくつか取り上げられていて、そういうことも一緒に考えてくれる仲間ができたので、映画の機会をいただけて本当に良かったと思います。

--今選手の今後の目標は?

女子相撲の選手たちは日頃から並々ならぬ努力をしていますが、輝く舞台が十分に用意されていません。将来的にはやっぱり相撲をオリンピック競技にしたいと思います。
伝統文化を継承する大相撲は別格の存在であって、近代スポーツにおける相撲のプロフェッショナルというものは存在しないと私は思っています。たとえば、海外の男子選手の場合、特に実力があっても大相撲には人数の制限があるので入れない人も出てきます。
男女を問わず、相撲が好きでそれで生きていきたい人たちにとっては、相撲のプロフェッショナルリーグをつくるというやり方もあると思います。
私は今、働きながら相撲ができていることにとても感謝していますが、女子選手がいる実業団はまだまだ数が少ないので、今後もっと増えていくことを望んでいます。

相撲には勝ち負けを競うだけじゃなく、戦いの中にも「心の交流」がある

--今選手にとって相撲の魅力とは?

相撲は、心技体のすべてを一瞬にして、お互いが全力でぶつけ合う競技です。経験を積んでくると、組んだだけで、相手がどんな稽古をしてきたか、どんなことを思って土俵に立っているのかがわかるようになるんです。
勝ち負けを競うだけでなく、相手と戦っている間にも「心の交流」があって、人との距離を近づける力があると思っています。そのため、相撲で勝つことはもちろん楽しいですが、相撲が繋いでくれた縁というものをすごく大事にするようにしています。

--ずばり女子相撲の見どころは?

私自身もやっぱり団体戦が楽しいですね。チームで戦う、勝ち負けの流れというのも面白いと思います。
特に女子相撲の場合、階級別で戦うことが多く、軽量級の試合だと技の掛け合いがすごい。軽量級にはレスリングや柔道出身の選手が多く、俊敏さもあって、押し相撲とは違った多彩な相撲が見ることができます。
機会があればぜひ稽古を見てほしいですね。ある意味男子よりもすごい。男子選手はいい感じにピークをつくったところで稽古をあがりますが、女子選手はお互いに自分が勝つまでやめないんです(笑)。

--相撲以外にやってみたいスポーツは?

女子相撲には中体連や高体連がなかったので、中学ではバスケットボールと陸上の砲丸投げ、高校ではバレーボールの試合に助っ人として出ていました。
今はラグビーをやってみたいですね。あんなに走りながら、しかもぶつけ合いながら行うラグビーは本当にすごい世界だなと思っていて、相手がタックルに来たら、私だったらこうやっていなすとか、こうやって崩すとか、頭の中でいろいろ考えています。

--相撲をされている、これからやってみようと思う人にメッセージを

相撲は誰でもできる競技だと思っています。特に技術がなくても、ただ押すだけだったり、相手が大きくてまったく押せなかったり、そういうすべてが楽しい。まずは遊びとしてやってもらいたいと思います。
日本では大相撲など見るスポーツとしての相撲が定着しているので、まずはやってもらって、「実際にやってみたら楽しいんだよ!」ということをもっと多くの人たちに知ってもらいたいですね。

今日和選手プロフィール

今日和(こん・ひより)。1997年生まれ、青森出身。兄の影響で小学1年生から相撲を始める。小学3年時に道場のOGが世界3位になったことをきっかけに世界大会への出場を夢見る。2014年念願叶い、世界ジュニア女子相撲選手権大会に初出場・初優勝すると続く2015年には連覇を達成。2016年、相撲の国際的な普及のため国際関係学の勉強と相撲部の活動ができる立命館大学に進学。大学在学中の2018年2019年では世界女子相撲選手権大会にて無差別級準優勝。今後の自身の世界一、相撲競技のオリンピック化を目指し、日々精進している。株式会社アイシン所属。