スノーボードのオリンピック種目とは?それぞれのルールや見どころを解説
みる
2022年2月、冬季オリンピックが中国・北京で開催されます。注目の競技のなかでも比較的歴史が浅いスノーボードは、種目の違いなどがよくわからないという人も多いのではないでしょうか。
特に、JSPO Plusのアスリートインタビューにも登場してくれた岩渕麗楽選手が出場予定の「スロープスタイル」は2014年のソチオリンピックから、「ビッグエア」は2018年の平昌オリンピックから新種目として採用されたばかり。
そこで今回の記事では、北京オリンピックで行われるスノーボード種目について、そのルールや見どころなどを解説します。
スノーボードは「フリースタイル種目」と「アルペン種目」に分かれる
スノーボードがオリンピックに登場したのは1998年の長野オリンピック。このとき行われたのは「ハーフパイプ」と「パラレル大回転」の2種目でしたが、その後、人気の高まりとともに種目が追加されていき、北京オリンピックでは、ハーフパイプ、ビッグエア、スロープスタイル、スノーボードクロス、パラレル大回転の5種目が行われます。
これらの種目は大きく、「フリースタイル種目」と「アルペン種目」とに分けられます。
エアの高さや技の難易度を競う「フリースタイル種目」、スピードを競う「アルペン種目」
北京オリンピックで行われる5種目のうち、ハーフパイプ、ビッグエア、スロープスタイルは「フリースタイル種目」、スノーボードクロス、パラレル大回転は「アルペン種目」になります。
「フリースタイル種目」は、エアの高さやトリック(技)の難易度・完成度などを競い、ジャッジのスコアによって順位が決まります。いっぽうの「アルペン種目」は、決められたコースをどれだけ速く滑走できるかスピード(タイム)で競います。
「フリースタイル種目」と「アルペン種目」では使用するボードにも違いが
大きなエアとともに多彩な技を繰り出す「フリースタイル種目」では、スピンしたり、後ろ向きで滑ったり・着地することもしばしば。そのため、前後どちらの向きでも滑れるように、フリースタイル系のボードは、前と後ろが反り上がったツインチップ形状で、比較的軽量なつくりになっています。
いっぽうスピードを競う「アルペン種目」では、高速での安定性と高精度なターン性能が求められます。進行方向が前方のみのアルペン系のボードは、トップ部(前)は反り上がっていますが、テール部(後)はターンをしっかり仕上げられるようにフラットに設計されています。
スノーボード各種目のルールや見どころは?
ここからは、北京オリンピックで行われる各種目(ハーフパイプ、ビッグエア、スロープスタイル、スノーボードクロス、パラレル大回転)のルールや見どころなどについて解説します。
【ハーフパイプ】
ハーフパイプは、1998年の長野オリンピックで採用され、スノーボード種目のなかでは「パラレル大回転」とともに一番初めにオリンピック種目となりました。
ルール
斜面を半円筒形に削ってつくられたパイプの中を振り子のように右へ左へと滑りながら、5~6回エアトリックを行い、エアの高さやトリックの難易度・完成度で競います。
予選を勝ち抜いた上位者たちが決勝に進出。予選で2回演技を行い、決勝では1人3回跳んで一番高い点数で競うベストスコア方式。6人の審判のジャッジのうち最高点と最低点がカットされ、真ん中の4人のジャッジの合計が得点となります。
予選を勝ち抜いた上位者たちが決勝に進出。予選で2回演技を行い、決勝では1人3回跳んで一番高い点数で競うベストスコア方式。6人の審判のジャッジのうち最高点と最低点がカットされ、真ん中の4人のジャッジの合計が得点となります。
コース
雪の状態やコースによって多少変わりますが、オリンピックで使用されるハーフパイプのサイズとして、2018年の平昌大会では横幅:20m、全長:180m、高さ(深さ):6.8mとなっています。
見どころ
圧倒的な高さ
パイプの壁にほぼ垂直に加速して行くため、リップ(パイプの縁の部分)から飛び出たその「高さ」と高難度な技や独創的な技に注目。さらに、全体としての演技構成なども見どころのひとつです。
トップ選手はリップから跳び出す高さが5~6mに達し、ボトムからの高さはなんと11~12m超え。その高さはビルの4階に相当すると言います。
これまでもっとも高く跳んだのはオーストラリアのヴァレンティノ・ギュゼリ選手で、7.3m(24フィート)。2021年3月31日にスイス・ラークスのハーフパイプでフロントサイドエアを成功させ、15歳の若さで世界記録を塗り替えました。
多彩な技と演技構成
ライダーが宙を舞うエアトリックには、横回転のスピン系トリック、それに縦回転を加えた3D系トリック、空中でボードをつかむグラブ系トリックなどがあります。
スピン系のトリックの場合、半回転(180°)はワンエイティー、1回転(360°)はスリーシックスティ、1回転半(540°)はファイブフォ-ティと回転数がそのまま技の呼び名として用いられています。なかには4回転する選手もいて、この場合はフォーティンフォーティ(1440°)となります。
また、横回転に縦回転を加えた3D系トリックのなかでもダブルコーク(ダブルコークスクリューの略)と呼ばれるトリックはさらに難度が高く、横に3回転、縦に2回転する「ダブルコークテン」や、横に3回転半する「ダブルコークトゥエルブ」などの大技もあります。
確実で安定感のあるラン&トリックでまとめるか、多少のリスクを冒してでも大技に挑むか、演技構成や戦略などが勝敗のカギとなります。
【ビッグエア】
ビッグエアは、2018年の平昌オリンピックから採用された種目です。
ルール
1回の演技につき1ジャンプ。巨大なキッカー(ジャンプ台)をめがけて加速し、その名の通りビッグなエアトリックを決め、そのスゴさ(エアの高さ、飛距離、空中姿勢、技の難易度、着地の完成度など)を競います。
ジャッジによるスコア方式で、予選を勝ち抜いた上位10名が決勝に進出。予選で2回演技を行い、決勝では1人3回跳んで点数が高い2回の合計で採点されますが、その場合2回の演技は違う技であることが条件となります。
コース
スキーのジャンプ台をひとまわり小さくしたようなジャンプ台を使用します。平昌大会のジャンプ台を例にとると、スタート地点の高さは約50m。そこから約70mのアプローチバーン(傾斜38~39°)で加速して踏み切ります。
踏切台からランディングバーン(着地のために傾斜が設けられた部分)が約40m続き、その先は約25m以上のフラットバーンとなっていて、コースの全長は約150mに及びます。
スキーのジャンプ台との違い
飛行距離が100m前後にまで達するスキーのジャンプ台はさらに大きく、例えば長野オリンピックでスキージャンプ競技が行われた白馬ジャンプ台(ラージヒル)の場合、全長は385mで、スタート地点の高さは138m。アプローチバーンは全長109mで最大斜度は35°に設計されています。
ビッグエアのジャンプ台はスキージャンプよりも傾斜がきつく、踏み切り部分は少し反り上がった形状になっているのが特徴です。
見どころ
その名の通り特大のエアに注目
ビッグエアは1回の演技につき1ジャンプ。まさに一発勝負という特性もあり、選手が果敢に繰り出す超特大のスゴ技に注目が集まります。
滞空時間の長いダイナミックなエアは、まさにこの種目ならでは。高さに加え飛距離もポイントとなり、エアの飛距離が36m以上に達する選手もいます。
この速度、この高さ、この飛距離の中、難度の高いトリックを繰り出して着地するという想像を絶するライダーたちのパフォーマンスは必見です。
【スロープスタイル】
スロープスタイルは、2014年のソチオリンピックから採用された種目です。
ルール
ジャンプ台をはじめ、レールやボックスなどの「ジブ(滑走面でスライドさせる障害物)」と呼ばれるアイテムが配置された約600~1000mのコースを滑りながら、グラトリ(グラウンドトリック)やエアトリックの技を繰り出して、そのスコアで競います。
予選を勝ち抜いた上位者たちが決勝に進出します。予選で2本、決勝では3本滑ったスコアのなかで一番高い点数で競うベストスコア方式で、6人の審判のジャッジのうち最高点と最低点がカットされ、真ん中の4人のジャッジの合計が得点となります。
コース
会場によって全長は異なりますが、一般的に約600~1000mのコース内に、前半にレールやボックスなどがあり、コース後半には最大の見せ場として大きなジャンプ台が用意されています。
見どころ
グラトリ、エアトリックと見せ場が満載
エアトリックだけでなく、レールやボックスに飛び乗り、バランスをとりながらボードをスライドさせるなどグラウンドトリックも行うとあって、1回の演技でさまざまなテクニックを見ることができます。
特に前半はレールやボックスなどの障害物が続き、そこをどう攻めるか選手たちの戦略も見もの。後半に設置されたジャンプ台は最大の見せ場で、ここでのエアトリックの出来が、勝負を大きく左右します。
【スノーボードクロス】
スノーボードクロスは、2006年のトリノオリンピックから採用された種目です。起伏やカーブなどの変化が多いコースで、選手が接近して滑る様子から「雪上のモトクロス」などとも呼ばれています。
ルール
ルールはシンプルで、定められたコース内を、複数人が同時にスタートし、ゴールまでの速さを競います。
予選はタイムトライアル方式で2回滑り、いいほうのタイムで決勝進出者が決定。決勝ラウンドでは複数人(4~6人)で滑り、着順が順位となります。
コース
モータースポーツのモトクロスのようなコース設定で、会場によって全長は異なりますが、一般的には約1000mのコース内に、各所に飛距離の出るキッカーや上下の起伏が連続するウェーブ、カーブのバンクなどが用意され、スピードも出て、縦横方向の変化にも富んだコースとなっています。
見どころ
選手同士の駆け引き・せめぎ合い
選手同士の接触は激しく、「雪上の格闘技」と例えられることも。誰がいち早くゴールするか勝負の行方も単純明快でシンプルに楽しめます。
最後までハラハラ・ドキドキ
選手同士の接触によって複数人が転倒に巻き込まれることがあるため、最後尾にいた選手が棚ぼた的に優勝することも。一発逆転の可能性もあり、最後まで目が離せずにハラハラ・ドキドキする展開もこの種目の魅力と言えます。
【パラレル大回転】
パラレル大回転は、1998年の長野オリンピックで採用されるなど、スノーボード種目のなかでは「ハーフパイプ」とともに一番初めにオリンピック種目となりました。
ルール
スキー種目の大回転(ジャイアントスラローム)のように、旗門を通過しながらゴールまでの速さを競います。斜面に並列するかたちで赤コースと青コースがあり、予選はタイムトライアル形式で、赤コースと青コースを一本ずつ滑りその合計タイムで決勝進出者が決定。決勝は赤コースと青コースに分かれて滑走するトーナメント方式で行われます。
コース
全長500m以上のフラットな斜面に、並列するかたちで赤コースと青コースが用意され、それぞれのコースには25個前後の旗門(旗門と旗門の間隔は20~27m)が設置されています。
見どころ
高速でのターンテクニック
速さを競うシンプルな競技だけに、ラインどりやターン時におけるわずかなミスが勝敗を分けることになります。
高速で滑走するためにはいかにボードをズラさず、エッジを雪面に食い込ませ(雪煙を巻き上げずに)、狙ったラインで旗門を通過できるかがポイント。最高速度は約70km/hにも達すると言われています。
両者の状況が一目瞭然
決勝は2選手が同時に滑るデュアル方式のため、どっちがリードしているかが一目瞭然。ちょっとしたターンのミスで状況が一変することもあるので、最後まで目が離せないドキドキ感があります。
※各種目で紹介したルールの詳細やコース情報は、大会によって若干異なることがあります。
みんなで大会を盛り上げる、スノーボード特有のカルチャー
ライバルに勝つというよりも、自分が最高のパフォーマンスを発揮してみんなを楽しませることができるか、特にフリースタイル系種目の会場にはそういった雰囲気があります。
選手同士が気軽に会話したり、スタート前にエールをおくったり、スノーボードにはそんな特有のカルチャーがあります。
選手同士が気軽に会話したり、スタート前にエールをおくったり、スノーボードにはそんな特有のカルチャーがあります。
同じ横乗り系、スノーボードとスケートボードの違いとは
スノーボードとスケートボードは同じ「横乗り系」の滑りとして感覚が似ている部分もあり、オフのトレーニングにスケートボードで感覚を養うスノーボードの選手や、その両方で大会にエントリーする選手もいます。
滑走面で滑るかウィール(タイヤ)で滑るか、もちろん使用する用具の違いはありますが、スノーボードはボードと足元が固定されているのに対して、スケートボードはボードに足を乗せているだけといった違いがあります。
ローストビーフにチキンサラダ…選手の好物?いえ技の名前です
エアトリックした際、後方の手で股の間を通してバックサイドをつかむ技のことを「ローストビーフ」、ローストビーフと同じようにつかむ場所がフロントサイドになると「カナディアンベーコン」、他にも「チキンサラダ」や「スイスチーズ」など、スノーボードの技の名前にはなぜか料理の名前が用いられることがあります。
こうした技の名前ひとつとってみても、スノーボードにはユニークな楽しみ方があることがわかります。
2022年2月の北京オリンピックでは、ぜひスノーボードにも注目してみてください。
北京オリンピックのスノーボードで活躍が期待される岩渕麗楽選手のインタビュー記事もあわせてご覧ください。
【スノーボード・岩渕麗楽選手インタビュー】私たちの滑りや技を見て、スノーボードをする人が増えてくれたら嬉しい - JSPO Plus
スノーボードのスロープスタイルやビッグエアーで活躍する岩渕麗楽選手。どんなきっかけでスノーボードをはじめ、スロープスタイルという競技と出会ったのでしょうか?
ウィンタースポーツのトップアスリートが体感している世界とは?こちらの記事もあわせてご覧ください。
スキーのジャンプ台は40階建てビルと同じ高さ!トップアスリートが体感している世界に迫る - JSPO Plus
日本の代表などで活躍するトップアスリートが体感している世界を想像したことはありますか?普段の生活の中ではもちろん、日ごろのスポーツシーンにおいて誰もが経験できるわけではないスピードや高さ、運動強度を感じているのだろうということは容易に想像できます。それでは実際、トップレベルのアスリートはどのような世界で戦っているのでしょうか。