【ラグビー・廣瀬俊朗さんインタビュー】キャプテンは「仲間と一緒にどうなりたいか」を共有することが大切

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【ラグビー・廣瀬俊朗さんインタビュー】キャプテンは「仲間と一緒にどうなりたいか」を共有することが大切
ラグビー日本代表でかつてキャプテンを務めた廣瀬俊朗さん。現役時代は東芝ブレイブルーパス東京の2連覇にキャプテンとして貢献、2012年から2013年までは日本代表のキャプテンとしてチームをまとめました。現在は、その経験で得たノウハウで次世代のリーダー育成に努めるほか、ラグビーの普及活動、社会や地域の問題解決にアスリートの視点で取り組んでいます。中学、高校、大学、社会人、そして日本代表とキャプテンを務めた廣瀬さんに、チームをまとめるときに大切なことやプレッシャーに向き合う姿勢を聞きました。

みんなでわいわいやるラグビーの雰囲気が好きだった

――ラグビーをはじめたきっかけをお聞かせください。

ラグビーをはじめたのは5歳のころです。よくわからないまま親に連れて行かれたのがラグビースクールでした。ただ、それからずっとラグビーだけに取り組んできたわけではありません。小学生のころはサッカーやテニス、スキーなど、いろいろなスポーツに取り組みました。
そのなかからラグビーにしぼったのは、中学生になって入る部活を決めるときです。勝っても負けても楽しい。みんなでわいわいプレーできる雰囲気に魅力を感じていたように思います。

――その後、現役引退までプレーヤーとしてラグビーを続けられたわけですが、やめたいと思ったことはありませんでしたか?

ラグビーは過酷なスポーツではあります。年代やポジションにもよりますが、現在のトップ選手は1試合に8キロ走るといわれるほどです。コンタクトや当たりも強いので、肉体的にも精神的にも強さが求められます。
こうしたスポーツなので、正直に言えば練習が苦しい、中止になるといいな、などと思うことはありました。ただ、ラグビーをやめたいと思ったことは一度もありません。それは自分のなかにラグビーをプレーする「目的」があったからです。
この「目的」と「目標」の区別は少し難しいのですが、私は明確に違うものだと考えています。目標はラグビーで言えば「ベスト8以上に進出したい」、ビジネスで言えば「売上1億円を達成」というように具体的に示すものです。それに対して「目的」は「自分はどんな存在でありたいか」「仲間たちと一緒になにを実現したいか」など、根底にあるものだと考えています。
ラグビーに打ち込むなかで、いつのころからか「ラグビーを多くの人に知ってもらいたい。そのためには仲間と一緒に憧れを抱いてもらえるような存在でありたい」と考えるようになりました。こうした目的があったので、ラグビーをやめたいと思ったことはなかったのだと思います。

「目的」をチームで共有することがキャプテンにとって重要

――廣瀬さんは各世代のキャプテンを務められました。改めて考えてみて大切だと思うことを教えてください。

一番大切なのは、先ほどお話したような個人的な「目的」をチームメートに共感してもらうことだと思います。
日本代表のときには、他のラグビー選手や観戦してくれる人たちの憧れになるべきだと考えました。ただ、それだけでは個人的な思いに過ぎません。ですから、チームメートに「自分もその仲間に入りたい」と共感してもらえるよう努力しました。
そのためには、チームメートといい人間関係を築くことが大切です。「この仲間と一緒にがんばりたい」と思ってもらうのと、「仕方ないからこの人たちとやるか」と思われてしまうのとでは、前者のほうが圧倒的にいい結果になるからです。

――逆に、キャプテンとしてうまくいかなかった経験はありますか?

自分の軸がしっかり定まっていなかったときや、軸をうまく伝えられなかったときはうまくいかなかったと思います。キャプテンの軸がしっかりしていないと、みんなはどうしていいかわからず迷ってしまうんですね。
キャプテンが自分ですべてをやろうとするのもよくありません。チームメートにしてみると、「それなら自分で全部やってよ」という気持ちになってしまいます。得意なことは自分でやって、あとはみんなを信じて任せるべきです。チームのなかにみんなの役割や居場所があることで、「自分がこのチームに参加する意味がある」と感じてもらえます。
もう一つ、キャプテンは監督と選手のあいだに挟まれる仕事です。その両方にいい顔をしようとすると、なかなかうまくいきません。監督の方針や選手たちの言いたいことをうまく咀嚼(そしゃく)することで、チーム全体がいい方向に進むように整えるのがポイントだと考えています。

キャプテンとしての悩みやプレッシャーが自分を成長させる

――キャプテンとしてのプレッシャーもあったのではないでしょうか?

プレッシャーは常にありました。中学、高校、大学、社会人、日本代表とそれぞれのカテゴリーでキャプテンを経験しましたが、レベルが上がるにつれてプレッシャーは大きくなっていきました。いまもキャプテンを任せられてプレッシャーを感じている人はたくさんいるのではないでしょうか。特にいまは新型コロナウイルスの影響で、メンバーと集まって活動することが難しいことから、中高生を含めてうまくチームをまとめられず悩んでいる人も多いと思います。
そんなときは外部環境のせいにしないよう気を付けたいですね。実際にうまくいかず腹が立つことはあるはずなので「常に前向きに」というのは難しいと思います。ただ、自分でコントロールできることから取り組んで、「どうすれば仲間に楽しんでもらえるか」を考えるといいのではないでしょうか。

――プレッシャーを克服するための具体的な方法はありますか?

大きく分けて二つあると思います。まず、自分がどこにプレッシャーを感じているかを冷静に考えることです。たとえば紙に書き出すと、自分を客観視できます。そうすることで、解決に向けてアクションを起こせるのですね。
もう一つは、プレッシャーと向き合うことで自分が成長するのだという気持ちを持つことです。私自身、キャプテンを務めていたころにはプレッシャーを感じていましたし、悩みも抱えていました。しかし、いま改めて考えれば、そうした期間が自分を成長させてくれました。このプレッシャーを克服すれば、いままで知らなかった新しい自分に出会えるというイメージを持つといいと思います。

――先ほどコロナ禍のお話がありましたが、現在スポーツ自体をやりづらい状況になっていますね。

確かにキャプテンという立場に限らず、自分の打ち込んでいるスポーツを思うようにできない状況になっています。ただ、たとえばラグビーはできなかったとしても、ランニングやサーフィンなど、充分配慮すれば感染リスクを低く抑えられると思われるスポーツもあります。いままでとは異なるものをはじめればスポーツ自体はやめなくて済みますし、新しい自分に出会えるはずです。
私もコロナ禍でランニングをはじめました。あるときサーフボードのようなボードをパドルで漕いで海面を進む「SUP(Stand Up Paddleboard)」をやったあとにランニングをしたのですが、体幹がよくなったのか楽に走れたんですね。こんなふうにいまできることを楽しむスタンスで新しいことに挑戦するといいのではないでしょうか。それがひいては自分の打ち込むスポーツの役に立つと思います。

選手とは異なる視点でラグビーを盛り上げたい

――引退されたあとは、ラグビーの普及活動に取り組んでいらっしゃいますね。現役のころと、なにか意識は変わりましたか?

自分が選手だったころは、いかに試合のクオリティを上げるか、いかに試合を盛り上げるかに注力してきました。現在はラグビーファンでない方々にいかに好きになっていただけるかということを考えています。特に公式アンバサダーを務めさせていただいた「ワールドカップ2019日本大会」以降は、試合自体ではなくその周辺に自分のやれることがないか考えています。
その一環でもあるのですが、2020年2月には「One Rugby」という団体を立ち上げました。実は一般的に「ラグビー」と呼ばれるのは15人制ラグビーのことです。それ以外にも、7人制ラグビー、10人制ラグビー、車いすラグビーなど、さまざまな種類のラグビーがあります。たとえば15人制ラグビーの試合会場に、観戦にきてくださった方向けに車いすラグビーの体験ブースを作るなど、異なるものを掛け合わせることでラグビー全体を知ってもらおうと考えて取り組んでいます。
また、ラグビー出身のビジネスパーソンが活躍する機会が増えるといいですね。ラグビー自体を盛り上げていくことももちろん大切ですが、まだラグビーをよく知らない人に伝えていくことも重要だと思います。この両輪をまわすことで、ラグビーはスポーツとしておもしろいだけではなくて、社会で活躍するうえでもいいものなのだと思ってもらえたらいいですね。

プロになることだけがゴールではない

――これからラグビーをはじめたいと思うジュニア世代や保護者の方にメッセージをお願いします。

「蹴る」「投げる」「走る」となにをやってもいいのがラグビーの魅力です。また、小学生以下はミニラグビー、中学生はジュニアラグビーと年代によってチーム人数が違い(※)、小さなころはポジション数が限られますが、成長すると増えていきます。それにともなって、自分の体に応じたポジションが見つかるはずです。こうしたなかでプレーするうちに、相手チームも含めてみんなで打ち込むことが楽しいことだと自然と学べるスポーツだと思います。
※U7-8は5人、U9-10は7人、U11-12は9人、中学は12人、高校から15人制。
ラグビーと言うと、「ワンフォーオール」や「リスペクト」という言葉を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。ただ、少なくとも私は監督やコーチから直接これらの言葉を聞いた経験はありません。「相手のことを大事にしなさい」「自分たちだけでは試合はできんぞ」と言われたことはありますが、やはりごく自然にチームメートや相手チーム、支えてくれる方々を大切にする気持ちが生まれたように思います。だからこそ年上から年下まで幅広い仲間が、日本だけでなく世界中にできるのかもしれません。
ラグビーを続けることで心も体も整っていきます。必ずしもプロ選手になれるわけではありません。しかし、大人になって毎日を健康に生きる意味でも、また仕事の質を上げる意味でも、ラグビーは非常にいいスポーツだと思います。

JSPOフェアプレイニュースにも掲載

JSPOでは、全国の小中学校等に向け、フェアプレーの大切さを伝える壁新聞を発行しています。Vol.133では廣瀬さんのフェアプレーエピソードや、子どもたちへのメッセージなどを掲載していますのでぜひ併せてご覧ください。

廣瀬俊朗 プロフィール

株式会社HiRAKU 代表取締役
1981年生まれ。元ラグビー日本代表キャプテン。
現役引退後は、「ビジネス・ブレークスルー大学大学院」にて経営管理修士(MBA)を取得。ラグビーW杯2019では公式アンバサダーとして活動。試合解説をはじめ、国歌を歌い各国の選手・ファンをおもてなしする「Scrum Unison」や、TBS系ドラマ「ノーサイド・ゲーム」への出演など、幅広い活動で大会を盛り上げた。
現在は、株式会社HiRAKU代表取締役として、ラグビーに限定せずスポーツの普及、教育、食、健康に重点をおいた様々なプロジェクトに取り組んでいる。
2020年10月より日本テレビ系ニュース番組『news zero』に木曜パートナーとして出演中。
一般社団法人スポーツを止めるな共同代表理事
一般社団法人アポロプロジェクト専務理事
特定非営利活動法人One Rugby代表理事
特定非営利活動法人 Doooooooo理事
著書
『なんのために勝つのか。ラグビー日本代表を結束させたリーダーシップ論』(東洋館出版社)
『ラグビー知的観戦のすすめ』(角川新書)